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向上心

第148話

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 「……よし、こんなもんか」
 ここは日当たりの良い河原と言う事もあり、乾いた木材や、植物の残骸が転がっていた為、すぐに、素材を集める事が出来た。
 
 「この木の板に、くぼみをつけて……っと」
 尖った石の先端を乾いた木の板に押し付け、木の棒を刺すための窪みを作った。

 俺自身初めてなので、特に説明はせずに、作業を進める。

 そんな俺の手元に向かう、コグモとゴブスケの熱心な視線。 
 初めてなので、そんなに熱心に、こちらを見ないで欲しいのだが……。
 それと、クリア。暑いし、動きにくから離れて欲しい……。
 
 「俺の糸で木の棒と、板を固定して……」
 取り合えず、そんな取り巻き達を無視して、俺も作業に集中する。
 
 風よけの為に、別の木の板を立てて置いて、着火剤の乾いた植物繊維の残骸を、木の板と、棒の接地面近くに寄せ集める。
 
 後は、木の棒に結び付けた糸を、板に押し付ける様に引っ張って、木の棒を回転させるだけだ。
 
 「ここからは危ないから、みんな離れてろよ。最悪、俺自身が火に包まれる可能性があるからな」
 俺はそう言って、皆を離れさせると、木の棒と板を押し付ける様に、高速で回転させ始める。
 その様子を、皆は緊張した面持ちで、観察していた。

 開始から数十秒、煙が立ち始めると、感動を覚えると共に、引火の恐怖が、俺を襲う。
 ……大丈夫だ。燃えても、俺は死なない。落ち着いていけ……。
 
 こいっ!!
 俺は乾いた植物繊維の束が、焦げ始めたと同時に、息を吹きかける。
 すると、植物繊維の中で、赤い光が、瞬いた。
 
 「……キタッ!」
 俺は引き続き、優しく息を吹きかけると共に、より多くの繊維をかき集め、火種を守る。
 そして、その赤が消えなくなったと同時に、組んであった焚き木の中に、植物繊維の塊を突っ込んだ。
 
 煙で、火種を確認する事は出来なかったが、もう、消えない事を祈り続けるしかできない。
 
 「……お……。おぉっ!」
 植物繊維の束から、赤い火柱が上がった。
 それは、一瞬で燃えやすい植物繊維の束を燃やし尽していく。
 俺は、それに負けじと、次々と植物繊維を投入していった。

 そして、ついに、炎は木材へと、完全に燃え移る。
 こうなってしまえば、完全にこちらの物だった。
 
 俺は、火の粉による引火を恐れ、すぐにその場から距離を取る。
 
 「……どうだ?これが火だ」
 俺は燃え盛る炎を見つめながら、疲労を含む達成感と共に、息を吐いた。
 
 「す、すごいですね……。この距離でも、熱いほどで……。形が無い分、急に飲み込まれてしまいそうで、恐ろしいです……」
 そうは言いながらも、興味深そうな視線で、炎を見つめ続けるコグモ。
 恐怖心を抱きながらも、その不思議な魅力からは逃れられないようだった。
 
 「……怖い」
 俺に駆け寄ってくると、その裾にしがみ付き、縮こまるクリア。
 その、初めて見る怯えた様な瞳は、燃え盛る炎を映していた。
 
 クリアは、記憶の中で、火が、どれ程便利で、どれ程危険な存在なのか知っているからこそ、恐怖しているのだろう。
 
 正直、俺も、怖い。
 
 「?……どうかしましたか?」
 好奇心は猫をも殺す。
 コグモなら、大丈夫だとは分かっていても、自然とその手を掴んでしまった。
 
 「なんでもない」
 もし、ここで、本心を言えば、過保護だと、笑われてしまうだろう。
 
 「……過保護ですね」
 優しくも、意地悪な笑みを浮かべるコグモ。
 
 「なんも言ってないだろ……?」
 俺は異議を唱える様に、視線を送る。
 
 「そんなの、分かりますよ……。だって、私も過保護ですから」
 彼女はそう言うと、俺の手をギュッと握り返した。
 
 確かに、守りたい相手を体内にしまい込む程に過保護な奴は、他にいないかもしれないな。
 
 俺達3人は、こんなに広い世界の中で、身を寄せ合うと、それぞれの瞳で、炎を見つめた。
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