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向上心

第146話

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 「これが、良く俺が使っている、木製道具の原料だ」
 現在、俺は、河原に座り込む皆の前に立って、水辺に生えている、木を紹介していた。
 
 食事を終えた後、残った肉は、日当たりの良い、この河原で、木から吊る下げ、乾燥させる事にした。
 その為、この場所から離れる訳にもいかず、丁度道具も不足していると言う事で、河原の物で作れる、道具作り講座を開催する事にしたのである。
 
 「これを縦にして、地面に押し付ける様に、枝を曲げて……。んで、素早く、この糸で両端を結ぶ!……弓の完成だ」
 俺は出来た弓を、ゴブスケに渡す。
 それを受け取ったゴブスケは、ゴブリン達に回して、観察させる。
 
 「基本的に、その木が折れたり、弾力がなくなったりしたら、新しい木を探して、今見たく、糸だけ付け替えれば良い。……あとは、使わないで保管している間は、糸を外しておいた方が、糸や木に負担を掛けずに済むぞ」

 ゴブリン達が弓を見回している間、ゴブスケは俺の話を聞いて、木の板にメモを取っていた。
 流石、リーダーである。

 「この木は、良くしなる上に、カビにくく、丈夫で、加工しやすいからな。覚えて置くように」
 俺は、今使った木の性質なども、伝える。

 特に、ゴブスケには、ゴブリン達が言葉を覚えた後に、今日の講義の内容を教えて貰いたいので、念入りにだ。
 
 「ヴァゥ」
 ゴブスケが書き終えた、木の板を見せて来る。
 きっと、内容がおかしく無いか確認して欲しいのだろう。
 
 「…………。良いんじゃないか?箇条書きで分かりやすいし、要点も抑えられているぞ」
 俺の声に、ゴブスケはホッとしたような、嬉しそうな顔をした。

 ……そう言えば、俺はいつからゴブスケに何かを成し遂げた時のご褒美を上げなくなったのだろうか?

 彼が、褒めるだけで、嬉しそうにするようになったものだから、自然とご褒美を上げなくなっていた。
 
 ……いや、彼にとっては、褒められる事、そのものが、ご褒美になったのかもしれない。

 俺や、仲間に称賛しょうさんされる行為を行う事。
 それが、自身の身や社会的地位を守ったり、また、自身の地位や能力を向上させる事に繋がる事を理解した。
 ……あるいは、本能的にそれを感じ取って、俺や仲間の称賛がご褒美に感じる様な、脳の進化、心の成長をしたのだろう。

 そして、多分、その工程は、人間の子どもと、同じ物だ。
 
 「………?」
 俺の服の裾を掴んで離さないクリアに視線を下ろすと、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
 少し前までは、じっと、こちらを見るだけだったはずだ。
 彼女も、この環境に適用して、進化している。成長してきている。
 
 まだ、ゴブスケの様に褒められても嬉しそうにはしてくれないが、その内に、彼女も、笑ったり、泣いたり、してくれる日が来るのだろうか?
 
 そう考えると、明るい将来を想像して、幸せを感じると共に、自身の彼女に対する影響力が、どうしても、頭に付きまとう。
 
 俺は、彼女を正しく導けるだろうか?なぁんて、一瞬、傲慢な事を考えてしまう。
 違うよな、そうじゃない。
 
 「幸せになれよ……。俺も、協力するからさ」
 言葉の意味が分からなかったのか、未だに首を、傾げ続けるクリア。
 でも、良いんだ。別に、言葉で伝える必要なんて、無いのだから。
 
 俺は不思議そうに見つめて来る、クリアの頭を撫でてやる。
 それだけで、彼女は、疑問など、どうでも良くなったのか、安心したように、目を閉じて、身を預けて来た。
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