142 / 172
向上心
第141話
しおりを挟む
「あっ。コグモ……」
糸で応急的に直された、大きなの葉の扉を抜けると、荒らされたロビーを掃除している、コグモの後ろ姿が目に映った。
「おかえりなさいませ。ルリ様」
俺の声に気付いたのか、こちらに振り返ると、いつも通りの笑顔で挨拶してくるコグモ。
相当ショックを受けていたと聞いたので、愚痴の一つでも言われると、覚悟していたのだが、ちょっと拍子抜けしてしまった。
「あ、あぁ、ただいま」
「ただいま」
俺がぎこちない挨拶を返すと、俺の手を掴んでいたクリアも、その後に続く。
「…………」
不意に訪れる沈黙。
笑顔を向けて来るだけで、一言も話さず、動かないコグモ。
……あっれぇぇ?やっぱり怒ってる?
「……なんか、心配かけたみたいで、悪かったな……」
無言の笑顔から生み出される重圧を避ける様に、顔を逸らしながら、謝る俺。
「いえ、良いんですよ。気にしないでください。ルリ様がどうされようと、ルリ様の勝手ですから。えぇ……」
微動だにせず、表情も一切崩さずに、言葉を口出すコグモ。
あれ?コグモって、こんなに怖かったっけ?
「あ、あぁ……」
コグモは一切動いていないと言うのに、俺は呆けた返事を返しながら、その重圧感に負け、思わず後退ってしまう。
「………?」
クリアは状況が理解できていないのか、そんな俺を不思議そうに見上げている。
俺も無知でありたかった……。
「時にルリ様」
「は、はひぃ!」
素早く姿勢を正し、クリアに向けていた視線をすぐにコグモへ戻す俺。
意識を別に向けていた事を咎められている気がして、変な声が出てしまった。
「あの時の約束。覚えていますか?」
「い、いぇ!」
俺は考えもせずに、即座に否定する。
緊張で、何かを考えている余裕などなかった。
「それは残念です……。絶対服従の件なのですが……」
あぁ……。そう言えばそんな事もあったなぁ……。
そう遠くない過去、彼女に使って欲しいと願っていた時期もあったはずなのだが、今の俺の頭には後悔の二文字しか浮かばなかった。
「きょ、拒否権は……」
俺は声を震わせながら、窺うように、訊ねる。
「絶対服従なのにですか?」
笑顔を崩さず、首だけを小さく横に曲げるコグモ。
もう既に、絶対服従制度は施行されている様だった。
「……分かった。言う事を聞こう」
約束を反故にすると言う選択肢はありえない。
それに、ある程度、言う事を聞いていれば、その内に、コグモも冷静になるだろう。
「では、ルリ様のコアを私に預けてください」
当然の事の様に、笑顔で、両手を差し出してくるコグモ。
つまり、それを人間で言うならば、脳を差し出してください。と、言われている様な物だ。
「い、いや、それはだな……」
躊躇う俺に、コグモは「絶対服従ですよね?」と、笑顔で念を押してくる。
「……くっ!殺せ!」
俺は悔しさのあまり、何処かで聞いたようなセリフを口走ると、コアのルリちゃん人形を体から引き抜き、コグモに差し出す。
「はい……。確かに」
コグモはそれを笑顔で受け取ると、ムカデの尻尾を使って、スカートの下から体内へ、俺のコアを引きずり込んでいった。
糸で応急的に直された、大きなの葉の扉を抜けると、荒らされたロビーを掃除している、コグモの後ろ姿が目に映った。
「おかえりなさいませ。ルリ様」
俺の声に気付いたのか、こちらに振り返ると、いつも通りの笑顔で挨拶してくるコグモ。
相当ショックを受けていたと聞いたので、愚痴の一つでも言われると、覚悟していたのだが、ちょっと拍子抜けしてしまった。
「あ、あぁ、ただいま」
「ただいま」
俺がぎこちない挨拶を返すと、俺の手を掴んでいたクリアも、その後に続く。
「…………」
不意に訪れる沈黙。
笑顔を向けて来るだけで、一言も話さず、動かないコグモ。
……あっれぇぇ?やっぱり怒ってる?
「……なんか、心配かけたみたいで、悪かったな……」
無言の笑顔から生み出される重圧を避ける様に、顔を逸らしながら、謝る俺。
「いえ、良いんですよ。気にしないでください。ルリ様がどうされようと、ルリ様の勝手ですから。えぇ……」
微動だにせず、表情も一切崩さずに、言葉を口出すコグモ。
あれ?コグモって、こんなに怖かったっけ?
「あ、あぁ……」
コグモは一切動いていないと言うのに、俺は呆けた返事を返しながら、その重圧感に負け、思わず後退ってしまう。
「………?」
クリアは状況が理解できていないのか、そんな俺を不思議そうに見上げている。
俺も無知でありたかった……。
「時にルリ様」
「は、はひぃ!」
素早く姿勢を正し、クリアに向けていた視線をすぐにコグモへ戻す俺。
意識を別に向けていた事を咎められている気がして、変な声が出てしまった。
「あの時の約束。覚えていますか?」
「い、いぇ!」
俺は考えもせずに、即座に否定する。
緊張で、何かを考えている余裕などなかった。
「それは残念です……。絶対服従の件なのですが……」
あぁ……。そう言えばそんな事もあったなぁ……。
そう遠くない過去、彼女に使って欲しいと願っていた時期もあったはずなのだが、今の俺の頭には後悔の二文字しか浮かばなかった。
「きょ、拒否権は……」
俺は声を震わせながら、窺うように、訊ねる。
「絶対服従なのにですか?」
笑顔を崩さず、首だけを小さく横に曲げるコグモ。
もう既に、絶対服従制度は施行されている様だった。
「……分かった。言う事を聞こう」
約束を反故にすると言う選択肢はありえない。
それに、ある程度、言う事を聞いていれば、その内に、コグモも冷静になるだろう。
「では、ルリ様のコアを私に預けてください」
当然の事の様に、笑顔で、両手を差し出してくるコグモ。
つまり、それを人間で言うならば、脳を差し出してください。と、言われている様な物だ。
「い、いや、それはだな……」
躊躇う俺に、コグモは「絶対服従ですよね?」と、笑顔で念を押してくる。
「……くっ!殺せ!」
俺は悔しさのあまり、何処かで聞いたようなセリフを口走ると、コアのルリちゃん人形を体から引き抜き、コグモに差し出す。
「はい……。確かに」
コグモはそれを笑顔で受け取ると、ムカデの尻尾を使って、スカートの下から体内へ、俺のコアを引きずり込んでいった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
運命のいたずら世界へご招待~
夜空のかけら
ファンタジー
ホワイト企業で働く私、飛鳥 みどりは、異世界へご招待されそうになる。
しかし、それをさっと避けて危険回避をした。
故郷の件で、こういう不可思議事案には慣れている…はず。
絶対異世界なんていかないぞ…という私との戦い?の日々な話。
※
自著、他作品とクロスオーバーしている部分があります。
1話が500字前後と短いです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
スウィートカース(Ⅱ):魔法少女・伊捨星歌の絶望飛翔
湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
異世界の邪悪な存在〝星々のもの〟に憑依され、伊捨星歌は〝魔法少女〟と化した。
自分を拉致した闇の組織を脱出し、日常を取り戻そうとするホシカ。
そこに最強の追跡者〝角度の猟犬〟の死神の鎌が迫る。
絶望の向こうに一欠片の光を求めるハードボイルド・ファンタジー。
「マネしちゃダメだよ。あたしのぜんぶ、マネしちゃダメ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる