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向上心

第140話

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 「もう、血なまぐさくはねぇか……」
 流石の俺でも、皆の前に毛皮の羽織り物で一つで出るのはどうかと思い、結局、血染の赤黒い服を着る羽目になった。

 なんとか血の色を洗い流そうとしたのだが、落ちたのは表面に付着している、吸収しきれなかった分の血液だけ。
 俺の糸と同じ材質なので、繊維が吸収した血液は、そう簡単には離さないらしく、洗っても、服自体の色は落ちなかった。

 しかし、完全に繊維の中に血液を封じ込めている為か、匂いもしなければ、乾いてパリパリになる事も無いので、まぁ、こういう色の服だと思えば、着れなくもなかった。
 
 それに、この服の中に溜め込まれた血液。俺の糸を接続し直せば、吸い取る事も出来、非常食にもなるようだった。
 そう考えると、この服が便利な代物に、見えなくも無い。
 ……いや、その分、重いので、どっこいどっこいか?
 
 そんな事を考えながら、俺はクリアと手を引いて、家の方向へと向かう。
 クリアの抱き着き攻撃が収まったのは本当に助かった。
 
 「……お。何やってんだ?」
 家の前の広場には、ゴブスケと少数のゴブリンの姿が見える。
 どうやら、ゴブスケは、残ったゴブリン達の前で投網を披露している様だった。
  
 ゴブスケも一緒に居ると言う事は、安全な奴らなのだろう。

「お~い!ゴブリン達~!」
 懇親会ぽい事を行っているのかもしれない。と思った俺は、友好的な態度を示す為、その集団へと、手を振って歩き出す。
 
 「ヴワゥ!」
 俺の声に気が付いたのか、ゴブスケがこちらに向けて、片腕を上げ、それに答えた。
 
 他のゴブリン達も、こちらをじっと見つめるが、やはり敵意は無いらしい。
 
 「何してたんだ?」
 俺が聞くと、ゴブスケは白い石と板を取り出して、何かを書いていく。
 どうやら、糸での伝言はなく、文字で言葉を伝えたい様だった。

 授業の時以外で、ゴブスケが文字を書くのは初めて見る。きっと、皆の前で、自身の覚えた事を見せたいのだろう。
 
 俺は、せかさず、ゆっくと、ゴブスケが文字を書き終えるのを待った。
 
 「ヴァゥ!」
 完成したのか、板を差し出してくるゴブスケ。
 俺はその木の板を受け取ると、その拙い文字と、にらめっこを始めた。
 他のゴブリン達も、それを神妙な面持ちで見守る。
 
 ふむふむ……。
 文字の解読に、少し時間がかかったが、文章自体はしっかりとしているので、何とか読み解く事が出来た。
 
 なんでも、ここに残ったゴブリン達は俺らの生活に興味があるらしい。
 主な面倒はゴブスケが見るので、ゴブリン達を授業等に参加させて欲しいとのお願いだった。
 
 「……まぁ、良いんじゃないか?」
 俺は板を返しつつ、ゴブスケに答える。
 そして、ゴブスケは、静かに、ゴブリン達にそれを伝えた。
 
 それを真剣な表情で見つめるゴブリン達。

 ゴブリン達のコミュニケーションを見ていると、声に感情表現以外の意味は無いらしく、ジェスチャーが主な情報の伝達手段の様に見えた。
 
 「ヴァゥ!」「ヴァゥ!」「ヴワァァゥ!」
 ゴブスケのジェスチャーを見終えたゴブリン達が、沈黙を破り、嬉しそうに騒ぎ出す。
 多分、あのジェスチャーが、OKと言う意味なんだろうな。 
 
 それにしても、そこまで喜んでもらえるとは。
 こちらとしても、教え甲斐がいがありそうで、楽しみだ。
 
 俺はその後も、ゴブスケと筆談を行い、正式に、ゴブスケの名前を授与した。
 そして、ゴブスケが、このゴブリン達のリーダーとして、自身の覚えている文字や、道具の使い方を教えると言う事を中心に、地下室の空き家を貸して欲しい事、不足している道具を用意して欲しい等の要求も含め、色々と話し合った。
 
 その結果、物を覚えたゴブリン達も、俺らの生活に貢献してくれると言う。
 これは、一気に有能な人材がゲットできるチャンスだった。

 良い人材が集まって、生活が楽になれば、コグモも、もっと楽できるだろう。
 それに戦力が増えれば、何かあった時にも、それなりの対応できる。
 
 「……よし。じゃあ、後は頼んだぞ」
 そう言うと、俺はゴブリン達の件をゴブスケに一任して、家に戻ろうとする。

 ふと、社畜時代に部下に仕事を任せた思い出がよみがえった。
 あいつは報連相ができずに、プロジェクト大コケさせて、相当迷惑を掛けられたが、俺もちゃんと積極的に話を聞いて、相談に乗ってやれば良かったな……。
 
 「……それと、何か協力して欲しかったら、遠慮せず言えよ?対応できるかは分からないが、言わないと伝わらないし、言うだけならタダだしな」
 俺は振り返ると、気負わせない様、ゴブスケに軽く伝えて置く。
 
 「ヴァゥ!」
 それを聞いたゴブスケは嬉しそうに叫ぶと、仲間の元へ走って行った。

 俺は、その楽しそうな後姿を見送ると、再び家へと足を向ける。
 クリアは、俺の腕をつかみながら、そんなゴブリン達を見えなくなるまで、じっと見つめていた。
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