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向上心
第136話
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「……ッ!ゲホッ!ゲホッ!」
ヌメヌメとした、生暖かい感触と、むせ返る程の血なまぐささで、目が覚める。
俺はすぐに、自分が外に置かれた血の桶の中に、入れられている事に気が付き、そこから這い出る。
糸が血を吸ったせいか、体が重い。
どうやら、俺の糸は水を弾いても、血は吸収する様だった。
「ぐへぇ……」
俺は血の桶から這い出すと、新鮮な空気を吸い込み、体の重さから、その場にへたり込む。
「……起きた」
相変わらずの無表情で、うつ伏せに地面に横たわる俺の目の前でしゃがみ込み、木の棒で突っついて来るクリア。
「よッス!」
続いて、俺へ視線を合わせる様に、かがみこんだウサギが、片手を小さく上げて、元気そうに挨拶してきた。
「何なんだ、これは……」
気分の悪さと、体の重さから、怒る気力も湧かない俺は、うつ伏せに地面に張り付いたまま、ウサギに質問する。
「何って、そりゃあ、ご主人様が"一人勝手に"、栄養不足で"死にかけてた"んで、応急処置を施しただけッスよ?」
その何気ない様に発せられる言葉の中で、あからさまに強調され、発音されている部分があり、一言で言うなら、あぁ、こいつ怒ってんな。と、感じた。
「……悪かったよ。心配と、手間を掛けさせて」
俺は素直に謝ると、腕と下半身、重たい髪の糸に、何とか力を入れ、上体を起こした。
「あぁ……。俺の服が……」
俺の純白だった服や髪が、血を吸って真っ赤に染まっている。
別に、純白が気に入っていたわけではないが、それでも、ここまで赤いと趣味が悪い上に、やはり生臭い。と言うか、血を吸った俺の体そのものが生臭い。
「それぐらい我慢するッス。こっちは、朝からゴブリン達の雄たけびで目を覚まして、何事かと思って外に飛び出たら、家の外で、コトリとご主人が仲良くゴブリンに囲まれて倒れてるんッスもん。そりゃぁ、大騒ぎッスよ。一歩間違えば、戦争になってたッスね」
呆れた様に言うウサギだが、その場を目撃した、当時の本人たちからしたら、気が気ではなかっただろう。本当に申し訳ない事をした。
「特に、コグモの乱れっぷりと言ったら、そりゃぁ、凄かったんスから……」
何処か、遠い目をするウサギ。
「まぁ、そのお陰で、こっちは冷静になれたんッスけどね」
と、続けた。
どうやら、コグモにも、それなりの心配をかけたらしい。
後で謝りに行かなければ。
「……そうか。色々と助かったよ。ありがとう」
その状況を鎮静化できるのはウサギしか思い浮かばない。
それに、俺を処置してくれたのも、ウサギみたいだしな。
それと……。
「……クリア。いい加減、俺をツンツンするのは止めろ」
俺の声にクリアは「分かった」と言うと、棒を引っ込め、俺をジーっと見つめる。
困った俺は、再びウサギに視線を向ける。
「クリアはご主人が倒れたのを見つけてから、ずっとその調子ッス。ずっと、ご主人を見つめ続けて、移動中や処置中も、ずっと離れなかったッスよ」
「愛されてるッスね!」と、茶化す様に言うウサギだが、そこに悪意がない事は分かっている。
「そうなのか……」
しかし、そう聞くと、このクリアの無表情な顔も、心配している顔に、見えなくも、無くも、無いような……?
「……?」
俺がクリアを見つめつつ、首をひねると、クリアもそれを真似る様に、首をひねる。
……やはり、その表情や仕草からは、彼女が何を考えているのか、さっぱり読み取れなかった。
ヌメヌメとした、生暖かい感触と、むせ返る程の血なまぐささで、目が覚める。
俺はすぐに、自分が外に置かれた血の桶の中に、入れられている事に気が付き、そこから這い出る。
糸が血を吸ったせいか、体が重い。
どうやら、俺の糸は水を弾いても、血は吸収する様だった。
「ぐへぇ……」
俺は血の桶から這い出すと、新鮮な空気を吸い込み、体の重さから、その場にへたり込む。
「……起きた」
相変わらずの無表情で、うつ伏せに地面に横たわる俺の目の前でしゃがみ込み、木の棒で突っついて来るクリア。
「よッス!」
続いて、俺へ視線を合わせる様に、かがみこんだウサギが、片手を小さく上げて、元気そうに挨拶してきた。
「何なんだ、これは……」
気分の悪さと、体の重さから、怒る気力も湧かない俺は、うつ伏せに地面に張り付いたまま、ウサギに質問する。
「何って、そりゃあ、ご主人様が"一人勝手に"、栄養不足で"死にかけてた"んで、応急処置を施しただけッスよ?」
その何気ない様に発せられる言葉の中で、あからさまに強調され、発音されている部分があり、一言で言うなら、あぁ、こいつ怒ってんな。と、感じた。
「……悪かったよ。心配と、手間を掛けさせて」
俺は素直に謝ると、腕と下半身、重たい髪の糸に、何とか力を入れ、上体を起こした。
「あぁ……。俺の服が……」
俺の純白だった服や髪が、血を吸って真っ赤に染まっている。
別に、純白が気に入っていたわけではないが、それでも、ここまで赤いと趣味が悪い上に、やはり生臭い。と言うか、血を吸った俺の体そのものが生臭い。
「それぐらい我慢するッス。こっちは、朝からゴブリン達の雄たけびで目を覚まして、何事かと思って外に飛び出たら、家の外で、コトリとご主人が仲良くゴブリンに囲まれて倒れてるんッスもん。そりゃぁ、大騒ぎッスよ。一歩間違えば、戦争になってたッスね」
呆れた様に言うウサギだが、その場を目撃した、当時の本人たちからしたら、気が気ではなかっただろう。本当に申し訳ない事をした。
「特に、コグモの乱れっぷりと言ったら、そりゃぁ、凄かったんスから……」
何処か、遠い目をするウサギ。
「まぁ、そのお陰で、こっちは冷静になれたんッスけどね」
と、続けた。
どうやら、コグモにも、それなりの心配をかけたらしい。
後で謝りに行かなければ。
「……そうか。色々と助かったよ。ありがとう」
その状況を鎮静化できるのはウサギしか思い浮かばない。
それに、俺を処置してくれたのも、ウサギみたいだしな。
それと……。
「……クリア。いい加減、俺をツンツンするのは止めろ」
俺の声にクリアは「分かった」と言うと、棒を引っ込め、俺をジーっと見つめる。
困った俺は、再びウサギに視線を向ける。
「クリアはご主人が倒れたのを見つけてから、ずっとその調子ッス。ずっと、ご主人を見つめ続けて、移動中や処置中も、ずっと離れなかったッスよ」
「愛されてるッスね!」と、茶化す様に言うウサギだが、そこに悪意がない事は分かっている。
「そうなのか……」
しかし、そう聞くと、このクリアの無表情な顔も、心配している顔に、見えなくも、無くも、無いような……?
「……?」
俺がクリアを見つめつつ、首をひねると、クリアもそれを真似る様に、首をひねる。
……やはり、その表情や仕草からは、彼女が何を考えているのか、さっぱり読み取れなかった。
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