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帰還

第116話

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 「すぅー……。すぅー……」
 ベッドの上で安らかな寝息を立てるリミア。
 俺は、ベッドの淵に腰かけながら、静かにその頭を撫でていた。
 
 その安心しきった様な寝顔は、小さくなっても変わらない。
 ……俺は、リミアの切り離した、彼女の断片を知ろうとも、この寝顔を変わらず守り抜く事は出来るのだろうか?
 
 いや、出来るか、出来ないかじゃない。やるんだ。
 コグモも俺がそうできると信頼して、この情報をくれた。
 
 俺は覚悟を決めると、糸の解読作業に入る。
 そもそも、リミアが記憶を糸の中に封じているとは限らない。それに、俺が彼女の断片を読み取れるとは限らないのだ。
 
 しかし、そんな甘い考えも捨てる。
 そんな中途半端な覚悟で、彼女の切り離した断片を見てはいけない気がした。
 
 彼女が、自身を切り離したと言うなら、何故そんな事をしたのだろうか?
 今いる彼女が分離から起きた副産物なのか、それとも狙って作られた物なのか、それすらも分からない。
 
 「あ……」
 自然と涙が零れそうになる俺。
 悲しいわけでもないのに、どうしたと言うのだろうか?

 ……いや、違う。これは、俺には読み取る事の出来ない、彼女の、リミアの感情。
 それを今、俺の体が表現しているのだ。

 見つけた。これがリミアの封じ込められた断片だ。
 
 しかし、俺はそれ以上読み進める事を躊躇ちゅうちょする。
 涙が出ると言う事は、悲しい記憶だと言う事だ。
 これは彼女が見られたくない記憶なのではないか?
 
 ……でも、これを見ないって事は、逃げるって事だよな。
 それに、リミアは、糸を切り捨てず、俺に託した。
 頭の良いリミアだ、俺が記憶を読み取る事ができるかも知れない事なんて、予想していただろう。
 
 「……よし」
 静かに覚悟を決め直すと、彼女の記憶を読み進める。
 
 私はルリが好き。異性として好き。出来るなら、私が幸せにしてあげたかった。

 ……でも、ルリは別の人を選んだから……。
 私はそれを拒めない。だって、私は一度、ルリの大切な人を奪っているから。

 本当は、お祝いしなくちゃいけない。
 これからも、ルリをそばで支え続けなければいけない。
 それが私の罪を滅ぼしだから。
 
 でも……。でもね、きっと、私は耐えられない。
 嫉妬して、ルリに迷惑を掛けてしまう。
 
 だから私は、悪い私を捨てるの。
 ルリを異性として好きな私を、切り離すの。
 
 そうすれば、ずっとルリを支えられる。
 ずっと、ルリの傍に居られる。 
 ずっと、ずっと、ルリの子どもとして、ルリに愛されていられるの。
 
 ……本当はルリの為なんかじゃない。私の為。
 私がルリの傍で愛され続ける為。
 
 ……最後まで、迷惑かけて、ごめんね。ルリ。
 それでもどうか、良い子の私を愛してあげて。

 リミアの寂しさに満ちた震える様な、無理矢理自身を、それで納得させる様な声。

 プツリ。そこで、記憶が切れる。
 それが、彼女の最新の記憶であり、最後の言葉だった。
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