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帰還

第110話

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 「な、何してんだよ!お前の思考だって、読まれるんだぞ!」
 リミアが、糸と糸との絡みが、交尾だと言い出したせいで恥ずかしくなる俺。
 こいつは、俺と、こ……。交尾しても良いと言うのだろうか? 

 (構わない)
 そう言って、濃厚に繊維を絡めて来るリミア。
 一体何が構わないって言うんだ!思考が読まれるとか?!交尾の事か?!

 (どっちも)
 素直なリミアの心が流れて来る。
 それは困る、非常に困る。

 糸の力も扱いも、リミアに軍配が上がる以上、いくら抵抗した所で、繊維はどんどんと俺の中に入り込んでくる。
 
 「ま、まて、まってってっ!」
 やばい!なんか気持ち良くなって来た!頭が!頭が飛ぶ!
 
 「ルリ、私のこと好き?」
 気分が乗って来たのか、リミアが、妖艶な笑みを浮かべて、小さな俺の体を抱き寄せる。
 
 「しゃ、シャレにならないって!あ、あぁぁ!やめ、おかしく!おかしくなるぅぅぅ!」
 このままでは!このままでは、糸と糸、俺の意識とリミアの意識とが絡まって、本当に出来てしまう気がする!子どもが!
 
 (うん。私も出来る気がする……。一緒にがんばろ?)
 自分だけの快楽ではない。リミアの快楽までもが俺の意識の中で合わさって、脳をかき乱す。

 だ、駄目だ!俺には!俺にはコグモが!コグモがいるんだ!
 
 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 そう思った瞬間、リミアが俺の中への侵入を辞めてくれた。
 飛びかけていた意識が戻ってくる。
 
 「どういう事?」
 リミアが力なく項垂れる俺の両肩を掴み上げ、問う。
 その表情は前髪に隠れて見えなった。
 
 どうやら、完全に俺の心の叫びを聞かれたらしい。
 ……でも、助かった。
 
 「はぁ、はぁ、はぁっ……!どういう事も何も、俺はコグモに告白したんだ!」
 答えはまだだけど……。
 
 (なんで?私だって、私だって……)
 
 「そう。……その糸は、あげる」
 リミアはそう言うと、俺に繋がっていた糸を切り落としたのか、彼女の心の声はそれ以上、聞こえなくなった。
 
 「リ、リミア?」
 俺は糸を巻き取りながら、リミアの様子を窺う。
 しかし、この位置からでは前髪に隠れて、彼女の表情が見えなかった。
 
 俺が首を曲げて、何とかリミアの表情を覗き込もうとしていると、リミアは自ら、勢いよく、その顔を上げた。
 
 「今日のピクニック、楽しみだね!パパ!」
 今までの状況は無かった事の様に、子どものような無邪気な笑みで、彼女はそう言った。

 普段の彼女からは想像できないような笑み……。
 いや、この笑みは、一度見た事がある。彼女が生まれたばかりの時の、あの「好き!」と言った時の表情だ。

 俺が好む、計算しつくされた表情。
 彼女の心を一切映し出さない表情。
  
 「どうしたの、パパ?早く行こう?」
 俺の思考を遮る様に、俺の拾い上げるリミア。
 
 「あ、あぁ……」
 俺はどうして良いのか分からずに、呆けた返事を返してしまった。
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