104 / 172
帰還
第103話
しおりを挟む
「いいのか?」
俺は優しすぎるコグモに問う。
「はい?」
俺の問いに要領を得なかったのか、小首を傾げる彼女。
「話を聞いて良いのか?!このままだと、俺は、お前が俺を許したと思うぞ?!そうなれば、またお前を傷つけるかもしれない!」
俺は髪の糸を伸ばして、彼女の両肩を強くつかんだ。
「え……?えぇ、その程度であれば、問題はないですが……。と言うよりも、私が初めてルリ様に会った時の方が、ひどい事をしましたしね……」
苦笑して、場の空気を和らげようとするコグモ。
俺は、この感覚を知ってる……。理不尽に突き飛ばした母さんが、それでも、遅くなると、探しに来てくれた時の感覚。
「私も悪かったわ」と、言って、夕飯を用意してくれていた時の感覚だった。
生き方を変えない俺は、社会に見捨てられるように死んだ。
いじめを嫌っていた友人とは、もうそれっきりだった。
それ以外にも、色々な人が、物が、事が、俺を見捨てて行った。
それでも、母さんは、母さんだけは、いつまで経っても、何をしても、俺を待っていてくれた。
ただ、俺が臆病で、それに応えられなかっただけ。
でも、今度は、今度は間違えない。
歩み寄ろうとしてくれる人がいるなら、俺は怯えずにその手を取ろう。
「お、俺は……。俺は狩りができないんだ!他の生き物にも意志が!可能性が!心があると思うと、その命を奪えないんだ!……おかしいだろ?自分でも分かってるんだ!俺が間違ってるって!でも、でも、どうしょうも無いんだ!怖くて、気持ちが悪くて、仕方が無いんだ!」
俺はコグモに全てを話す。
俺のおかしい所、不安に思っている事、全部。
「……別に、おかしくなんて、ありませんよ。この世界に、本当に正しい事なんて、無いんですから……」
俯く俺をコグモが、優しく抱き寄せてくれる。
「それを言うなら、私だって、おかしいんですよ?私達の種族は、卵から一斉に孵って、生まれた瞬間から、お互いを食い合うのですが、私はどうも、それが、性に合わなくて……。もたもたしていた所を、兄弟たちにつまみ食いされちゃいました」
恥ずかしそうに話す彼女。
そんな、笑いながら話す話でも無いと言うのに……。
「今思うと、ただただ、空腹と、共食いの本能が弱かったんでしょうね。闘争心の無い私は、そこで死ぬはずでした。
……そんな私を糸で優しく救い上げ、壊れた体を繕ってくれたのが、お嬢様だったんです。そして、それからも、私をそばに置いて、色々な事を教えて頂いて……。
それから、私、お嬢様の役に立とうって、お嬢様の様になりたいって、思ったんです……。この格好も、その憧れからなんですよ?物は形から、って、言うらしいじゃないですか!」
そうか……。この子にとってのリミアは命の恩人であり、母親の様な物なのかもしれない。
「……って、後半の話は、全然関係ないですよね!」
コグモは「あははははは」と笑いながら頭を掻いて誤魔化す振りをする。
場の空気を換える為に、ワザと話してくれたのだろう。
「いや、話してくれて嬉しかったよ。おかげで、コグモの事をもっと知る事が出来た」
俺は泣きはらしたような笑顔で、コグモにお礼を言う。
コグモの過去が気なった時、俺は何もしなかった。
彼女に踏み込もうとはしなかった。
しかし、彼女が今、勇気をもって、俺の方へ踏み込んで来てくれなかったら、俺達の関係は、どうなっていたのだろうか?
それに、俺が、もしあの時、もっと切り込んで話をしていたら、こんなこじれ方はせずに、お互いに傷つかずに済んだのではないだろうか?
俺は、改めて、自分の臆病さを悔いた。
「ごめんな、コグモ……。それと、ありがとう」
俺は、彼女を見上げながら心からの謝罪と感謝を口に出す。
「はい!許します!」
そう言った、彼女の笑顔はいつも以上に眩しかった。
俺は優しすぎるコグモに問う。
「はい?」
俺の問いに要領を得なかったのか、小首を傾げる彼女。
「話を聞いて良いのか?!このままだと、俺は、お前が俺を許したと思うぞ?!そうなれば、またお前を傷つけるかもしれない!」
俺は髪の糸を伸ばして、彼女の両肩を強くつかんだ。
「え……?えぇ、その程度であれば、問題はないですが……。と言うよりも、私が初めてルリ様に会った時の方が、ひどい事をしましたしね……」
苦笑して、場の空気を和らげようとするコグモ。
俺は、この感覚を知ってる……。理不尽に突き飛ばした母さんが、それでも、遅くなると、探しに来てくれた時の感覚。
「私も悪かったわ」と、言って、夕飯を用意してくれていた時の感覚だった。
生き方を変えない俺は、社会に見捨てられるように死んだ。
いじめを嫌っていた友人とは、もうそれっきりだった。
それ以外にも、色々な人が、物が、事が、俺を見捨てて行った。
それでも、母さんは、母さんだけは、いつまで経っても、何をしても、俺を待っていてくれた。
ただ、俺が臆病で、それに応えられなかっただけ。
でも、今度は、今度は間違えない。
歩み寄ろうとしてくれる人がいるなら、俺は怯えずにその手を取ろう。
「お、俺は……。俺は狩りができないんだ!他の生き物にも意志が!可能性が!心があると思うと、その命を奪えないんだ!……おかしいだろ?自分でも分かってるんだ!俺が間違ってるって!でも、でも、どうしょうも無いんだ!怖くて、気持ちが悪くて、仕方が無いんだ!」
俺はコグモに全てを話す。
俺のおかしい所、不安に思っている事、全部。
「……別に、おかしくなんて、ありませんよ。この世界に、本当に正しい事なんて、無いんですから……」
俯く俺をコグモが、優しく抱き寄せてくれる。
「それを言うなら、私だって、おかしいんですよ?私達の種族は、卵から一斉に孵って、生まれた瞬間から、お互いを食い合うのですが、私はどうも、それが、性に合わなくて……。もたもたしていた所を、兄弟たちにつまみ食いされちゃいました」
恥ずかしそうに話す彼女。
そんな、笑いながら話す話でも無いと言うのに……。
「今思うと、ただただ、空腹と、共食いの本能が弱かったんでしょうね。闘争心の無い私は、そこで死ぬはずでした。
……そんな私を糸で優しく救い上げ、壊れた体を繕ってくれたのが、お嬢様だったんです。そして、それからも、私をそばに置いて、色々な事を教えて頂いて……。
それから、私、お嬢様の役に立とうって、お嬢様の様になりたいって、思ったんです……。この格好も、その憧れからなんですよ?物は形から、って、言うらしいじゃないですか!」
そうか……。この子にとってのリミアは命の恩人であり、母親の様な物なのかもしれない。
「……って、後半の話は、全然関係ないですよね!」
コグモは「あははははは」と笑いながら頭を掻いて誤魔化す振りをする。
場の空気を換える為に、ワザと話してくれたのだろう。
「いや、話してくれて嬉しかったよ。おかげで、コグモの事をもっと知る事が出来た」
俺は泣きはらしたような笑顔で、コグモにお礼を言う。
コグモの過去が気なった時、俺は何もしなかった。
彼女に踏み込もうとはしなかった。
しかし、彼女が今、勇気をもって、俺の方へ踏み込んで来てくれなかったら、俺達の関係は、どうなっていたのだろうか?
それに、俺が、もしあの時、もっと切り込んで話をしていたら、こんなこじれ方はせずに、お互いに傷つかずに済んだのではないだろうか?
俺は、改めて、自分の臆病さを悔いた。
「ごめんな、コグモ……。それと、ありがとう」
俺は、彼女を見上げながら心からの謝罪と感謝を口に出す。
「はい!許します!」
そう言った、彼女の笑顔はいつも以上に眩しかった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
前世の忠国の騎士を探す元姫、その前にまずは今世の夫に離縁を申し出る~今世の夫がかつての忠国の騎士? そんな訳ないでしょう~
夜霞
ファンタジー
ソウェル王国の王女であるヘンリエッタは、小国であるクィルズ帝国の王子との結婚式の最中に反乱によって殺害される。
犯人は国を乗っ取ろうとした王子と王子が指揮する騎士団だった。
そんなヘンリエッタを救いに、幼い頃からヘンリエッタと国に仕えていた忠国の騎士であるグラナック卿が式場にやって来るが、グラナック卿はソウェル王国の王立騎士団の中に潜んでいた王子の騎士によって殺されてしまう。
互いに密かに愛し合っていたグラナック卿と共に死に、来世こそはグラナック卿と結ばれると決意するが、転生してエレンとなったヘンリエッタが前世の記憶を取り戻した時、既にエレンは別の騎士の妻となっていた。
エレンの夫となったのは、ヘンリエッタ殺害後に大国となったクィルズ帝国に仕える騎士のヘニングであった。
エレンは前世の無念を晴らす為に、ヘニングと離縁してグラナック卿を探そうとするが、ヘニングはそれを許してくれなかった。
「ようやく貴女を抱ける。これまでは出来なかったから――」
ヘニングとの時間を過ごす内に、次第にヘニングの姿がグラナック卿と重なってくる。
エレンはヘニングと離縁して、今世に転生したグラナック卿と再会出来るのか。そしてヘニングの正体とは――。
※エブリスタ、ベリーズカフェ、カクヨム他にも掲載しています。
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
スウィートカース(Ⅱ):魔法少女・伊捨星歌の絶望飛翔
湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
異世界の邪悪な存在〝星々のもの〟に憑依され、伊捨星歌は〝魔法少女〟と化した。
自分を拉致した闇の組織を脱出し、日常を取り戻そうとするホシカ。
そこに最強の追跡者〝角度の猟犬〟の死神の鎌が迫る。
絶望の向こうに一欠片の光を求めるハードボイルド・ファンタジー。
「マネしちゃダメだよ。あたしのぜんぶ、マネしちゃダメ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる