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寄生生活

第62話

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 「ピィ!!」
 目を覚ますなり、俺を見て、怯えるウサギ。
 
 「よぉ!」
 自分でも、上手く笑えているか分からない笑顔で、挨拶をする。
 
 「いやぁ……。昨日は悪かったな……」
 俺が歩み寄ると、その分だけお尻と前足を使って、ズルズルと、後ろの下がるウサギ。
 
 「い、一日で随分ずいぶんと痩せたな!やっぱり、進化ってーのは、かなりエネルギーを使うもんなんだな!」
 俺はめげずに、軽口を叩きながら、歩み寄る。
 ズルズルと後ろに下がっていたウサギは、木の幹にぶつかり、絶望的な顔をした。
 
 「大丈夫、昨日のは、何かも間違い……。そう!夢だったんだ!……ほら、お前の好きな木の実だぞ……」
 俺が糸で食べ物を顔に近づけると、イヤイヤ!と、言わんばかりに首を振るウサギ。

 「あ……」
 首を振っていたが為に、垂れていたウサギの耳が、俺の持っていた木の実に当たり、弾き飛ばされる。
 
 地面を転がる木の実を静かに見つめる二人。
 
 「ピッ!」
 先に動いた俺に、ビクリとするウサギ。

 「し、しょうがないな。ウサちゃんは……」
 俺はそれに気が付きつつも、笑顔で、もう一度、ウサギに木の実を差し出した。
 
 「…………」
 木の実を差し出す俺を、じっと見つめるウサギ。
 俺も、辛抱強く待った。
 
 「………プゥ」
 ウサギは小さく鳴くと、恐る恐ると言った様子で、俺から木の実を、前足で受け取った。
 
 その後も、俺と木の実との間で視線を行き来させるウサギ。
 言葉が通じない事は分かっているので、声の音で刺激しない様に、笑顔だけで、敵意がないと言う事を伝える。

 俺が見つめる中、ウサギはゆっくりと木の実を口に運び始める。
 …………カリッ。

 「ふぅ……。よかった」
 俺は食べてくれた安心感から、いつの間にか止まっていた息を吐く。
 
 「ほら、まだまだあるぞ」
 木の実を渡すと、ウサギは素直に受け取ってくれる。
 
 「食べながら良いんだ、聞いてくれ……って、言っても、何言ってるか分かんないよな」
 俺は苦笑しながら、ウサギの近くに飛び出ていた、木の根っこの上に座る。
 
 「昨日のあれは、俺が悪かった。謝る」
 突然頭を下げる俺を警戒しつつも、不思議そうに見つめるウサギ
 
 「でもな……。俺のエゴかもしれないが、これは、お前の為でもあるんだ。……どうか、付き合って欲しい」
 頭を下げ続ける俺に、何かを感じたのか、ウサギは小さく「プゥ」と答えた。
 
 「よ、よかった!分かってくれた……」
 顔を上げれば、荒く息をするウサギ。
 何か様子がおかしい。
 
 「ど、どうしたんだ?!体調が悪いのか?!」
 俺はウサギに駆け寄り、その身を支える。
 ウサギは、熱籠った瞳で、こちらを見つめるばかり。
 本当に体調が悪いのか、逃げ出そうともしなかった。
 
 「ど、どうすれば?!」
 既視感きしかんのある感覚。

 「これは、あの時の……!」
 クリナの事件が頭をよぎり、自身でもパニックになってしまう。
 
 「どうすれば!どうすれば!」
 そんな俺に向かって、倒れこんでくるウサギ。
 俺は何とかその巨体を、自身の体と、全ての糸を使って、優しく受け止める。
 
 「だ、大丈夫だ!少し安静にしていれば、きっと、何とかなる!」
 口ではそう言うが、頭の中を不安を渦巻く。

 「絶対に助けるからな!」
 クリナさんの時の様にはさせない!
 見守る事しかできなくても、最後まで守り抜く!
 
 「プゥ」
 弱々しく鳴く、ウサギ。
 
 ふと、次の瞬間、糸を通して、頭に、何かが響いた。
 (ゴ、ゴホ……ビ……)

 この生命の危機に陥って、言葉を使おうと進化しているらしい。
 
 「な、何だ?」
 俺はウサギの声を聞き逃さない様、抱き着きながら、静かに問う。
 
 (ゴホウビ……。ゴホウビ、チョウダイ……)
 「ご、ご褒美って?!ご褒美ってなんだ?!木の実でも、なんでも、いくらでもやるぞ?!」
 
 (ワカッタ……)
 そう言うと、ウサギは俺にのしかかってくる。
 
 「な、なんだよ!?こんな時に、ふざけてる暇っ!」
 俺は押し返そうとするが、流石にウサギの全体重がかかって来ては、潰れないようにするので、精一杯だった。
 
 (ゴホウビ、イイッテ、イッタ)
 ウサギがとろんとした目で、こちらを見つめて来る。
 
 息が荒い。まるで、発情して、俺を産卵管で串刺しにした時のリミアの……。
 
 「…………おい、まさか、お前……。ご褒美って……」
 (モウ!ガマン!デキナイ!)
 俺を押しつぶそうとしてくるウサギ。
 
 「や、やめろ!お前は男だろ?!俺も男だ!!それにそもそも種族が!!」
 (ゴホウビィ!!)
 
 昨日の行為が引き金だろうが、それにしたって、言葉を発するまでに進化した理由が、発情か?
 俺は、こんなに心配してやったのに……。

 ……プチン。
 俺の中で、何かが切れた音がした。
 
 「わぁったよ……。とことん付き合ってやろうじゃねぇか……。そのご褒美とやらにな!!」
 俺はウサギの快楽神経と、痛覚神経を刺激する糸を思いっきり引っ張る。
 
 (アフゥ?!)
 「おぉ!すげぇな!これだけ引っ張られても、気絶しねぇのか!こりゃぁ、ご褒美の上げがいがあるなぁ?!」
 ウサギの頭を踏みつけて叫ぶ俺。
 
 (モ、モト……。モット、モットくだしゃい!ご主人様ぁ!!)
 何故か、その日の記憶は、それ以降、全く思い出せなかった。……し、思い出したくもなかった。
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