40 / 172
旅立ち
第39話
しおりを挟む
《ミテ、ミテ》
今日も新しい服を披露する、彼女。
俺はベッドの上から、ちらっと視線をやると(可愛い、可愛い)と言って、自分の作業に戻る。
《………ルリ、ナニしてる?》
しばらくすると、少し、不機嫌そうな声で、彼女が話しかけてきた。
先程まで、あれ程上機嫌で、お披露目会をやっていた癖に、面倒くさい奴だ。
その瞬間、思考を読まれたのか、彼女の視線が、更に冷たくなる。
(工作だよ、工作。石で、木の板に文字を掘ってんだ)
身に危険を感じた俺は、すぐさま作業を中断して、彼女の問いに答えた。
《ソレ、ナニ?》
未だに不機嫌な彼女。気に触れないようにしなければ……。
(これは、平仮名五十音を表記した文字盤だ。…まだ、途中だけどな)
俺は、描いている途中の、木の板を見せる。
(この子の勉強用だよ)
お腹をさすりながら、呟く俺。
《ソウ……》
彼女は、何を思ったのか、木の板を手に取り、見つめる。
(こっちは、もう、出来てんだが……)
彼女が、余りにも興味深そうに、未完成の木の板を見つめるので、片仮名版の完成品も見せて見た。
すると、彼女は、空いたもう片方の手で、それも、受け取る。
《………》
無言で二つの板を見つめる彼女。
しばらくすると、やっと飽きたのか、顔を上げる彼女。
しかし、その両手には、未だに、しっかりと木の板が握られている。
《……アレは?》
視線と共に、八本の脚の一つで、部屋の隅に転がっている、ボールを示す。
(ボールだよ、ボール。……表面は薄い木の皮。その次の層に、このベッドにも使ってる、綿みたいな植物繊維。下は、丸いココナッツみたいな木の実の、中身をくりぬいたやつが入ってんだ。……ちょっと、すごいだろ?)
我ながら、自信作だったので、少し話していて、面白くなってしまった。
しかし、俺の得意げな問いを無視し、次なる標的を探す彼女。
《アッチは?》
彼女は、積み木の山を指す。
(そんなの、見れば分かるだろ。積み木だ、積み木)
俺は熱い想いを、半ば流された形となり、不貞腐れたように答える。
《アレ》
(サイコロ)
《ソレ》
(パズル)
《コレ》
(木琴と、カスタネット)
《アレ》《コレ》《ソレ》
(急になんだんだよ?!見れば分かるだろ!全部、この子の為の玩具だ!)
突然、暴走しだした彼女に怒鳴る。
《………ワタシのは?》
小さな声で呟く彼女。
(え?……お前には……。別に、必要ないだろ………)
困惑しながらも、隠した所で無駄なので、本音をぶつける。
《………ズルイ》
悔しそうに俯く彼女。
(ズルいって、お前……)
俺は何と返せば良いのか思い浮かばず、言葉に詰まる。
《コレ、チョウダイ》
両手に握っていた、木の板を抱きしめる彼女。
(おいおい、そんなの貰って、どうす……)
《チョウダイ!!》
俺は、彼女の乱れた大声に、驚く。
固まる俺。
興奮したように、俯きながら、肩で、息をする彼女。
(……あ、あぁ、分かった。やるよ。やるから……な?)
俺はどうして良いか分からずに、とりあえず、宥めに入る。
この頃の彼女は、やはり、どこか、おかしかった。
今日も新しい服を披露する、彼女。
俺はベッドの上から、ちらっと視線をやると(可愛い、可愛い)と言って、自分の作業に戻る。
《………ルリ、ナニしてる?》
しばらくすると、少し、不機嫌そうな声で、彼女が話しかけてきた。
先程まで、あれ程上機嫌で、お披露目会をやっていた癖に、面倒くさい奴だ。
その瞬間、思考を読まれたのか、彼女の視線が、更に冷たくなる。
(工作だよ、工作。石で、木の板に文字を掘ってんだ)
身に危険を感じた俺は、すぐさま作業を中断して、彼女の問いに答えた。
《ソレ、ナニ?》
未だに不機嫌な彼女。気に触れないようにしなければ……。
(これは、平仮名五十音を表記した文字盤だ。…まだ、途中だけどな)
俺は、描いている途中の、木の板を見せる。
(この子の勉強用だよ)
お腹をさすりながら、呟く俺。
《ソウ……》
彼女は、何を思ったのか、木の板を手に取り、見つめる。
(こっちは、もう、出来てんだが……)
彼女が、余りにも興味深そうに、未完成の木の板を見つめるので、片仮名版の完成品も見せて見た。
すると、彼女は、空いたもう片方の手で、それも、受け取る。
《………》
無言で二つの板を見つめる彼女。
しばらくすると、やっと飽きたのか、顔を上げる彼女。
しかし、その両手には、未だに、しっかりと木の板が握られている。
《……アレは?》
視線と共に、八本の脚の一つで、部屋の隅に転がっている、ボールを示す。
(ボールだよ、ボール。……表面は薄い木の皮。その次の層に、このベッドにも使ってる、綿みたいな植物繊維。下は、丸いココナッツみたいな木の実の、中身をくりぬいたやつが入ってんだ。……ちょっと、すごいだろ?)
我ながら、自信作だったので、少し話していて、面白くなってしまった。
しかし、俺の得意げな問いを無視し、次なる標的を探す彼女。
《アッチは?》
彼女は、積み木の山を指す。
(そんなの、見れば分かるだろ。積み木だ、積み木)
俺は熱い想いを、半ば流された形となり、不貞腐れたように答える。
《アレ》
(サイコロ)
《ソレ》
(パズル)
《コレ》
(木琴と、カスタネット)
《アレ》《コレ》《ソレ》
(急になんだんだよ?!見れば分かるだろ!全部、この子の為の玩具だ!)
突然、暴走しだした彼女に怒鳴る。
《………ワタシのは?》
小さな声で呟く彼女。
(え?……お前には……。別に、必要ないだろ………)
困惑しながらも、隠した所で無駄なので、本音をぶつける。
《………ズルイ》
悔しそうに俯く彼女。
(ズルいって、お前……)
俺は何と返せば良いのか思い浮かばず、言葉に詰まる。
《コレ、チョウダイ》
両手に握っていた、木の板を抱きしめる彼女。
(おいおい、そんなの貰って、どうす……)
《チョウダイ!!》
俺は、彼女の乱れた大声に、驚く。
固まる俺。
興奮したように、俯きながら、肩で、息をする彼女。
(……あ、あぁ、分かった。やるよ。やるから……な?)
俺はどうして良いか分からずに、とりあえず、宥めに入る。
この頃の彼女は、やはり、どこか、おかしかった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
主人公を助ける実力者を目指して、
漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!
魔法機械技師ルカ
神谷モロ
ファンタジー
機械魔剣ベヒモス製作者、ルカ・レスレクシオンのお話。
魔法文明は成熟期にある。
人類が初めて魔法を発見して数世紀がたった。魔法は生活を豊かにした。そして戦争でも大いに活躍した。
しかし、当然、全ての生き物は平等ではない。知能や身体能力の差は弱肉強食の世界を生み出している。
だがそんなマクロ的な視点ではなく人類同士でさえも格差は広がったのだった。ただ魔力を持つか持たないかの理由で……。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる