4 / 172
目覚め
第3話
しおりを挟む
………。
……動けない。
……確か、俺は、ベトベトに、自らから絡まって…。
そのまま、疲れて寝てしまったはずだ。
………。
はずだ。じゃねぇ!
何してんだ俺!頭おかしいだろ?!自殺行為じゃねぇか!
辛うじて、呼吸する事は可能だが、どう藻掻いても動けない。
(詰んだ……)
元々動けなかったが、とうとう、全く動けなくなるとは……。
アパートで倒れた時の事を思い出す。全く、あの時と同じ段取りだ。
俺がまた、この環境に甘んじて、行動しなかった罰か?新しい会社を探すこともしなかった、あの頃の俺に比べたら、成長したと思ったんだけどな……。
一度、死ぬ覚悟を決めたからか、死自体に恐怖は感じない。
……それに、ここなら、死んでも、それ程、迷惑を掛けなさそうだ。
ここはどこなのか、最後まで分からないままだったが、仕方がないだろう。
……でも、餓死って、苦しそうで嫌だな……。
そんな事を考えていると、すぐ近くで、ガサガサと大きな音が聞こえる。
あまりの五月蠅さに、耳を覆いたくなるが、生憎抑える腕がない。
ふと、浮遊感。内臓が持ち上がる感覚。
持ち上げられたり、落とされたり、転がされたり。ぐるぐるぐるぐる目が回る。
(な、なんなんだ?!今度は、楽に殺さないって事か?!)
絶叫系が嫌いだった俺には、大ダメージだった。正直、この状態が続くなら、舌を噛んで死にたいレベルである。……勿論、口は動かないが。
(や、やめろぉ……。やめてくれぇ……)
ヘロヘロになっている俺を、何かが引っ張った。
しかし、すぐに、俺の体が何かに引っかかってしまう。
それでも、俺を引っ張る何か。
痛い。痛いのは痛いのだが、俺を挟む力には、手加減を感じる。
壊さないように、優しく、それでいて、絶対に引っ張り出したい。そんな意思が伝わってくるようだった。
それからも、くるくる回されたり、また別の場所を引っ張られたりと、拷問のような時間を過ごしたが、俺は、頑張って、耐えよう。と、思えた。
それだけ、必死さが伝わって来たのだ。
(お!抜けた!)
何かから引っこ抜けれた俺は、またも、ぐるぐると回され、体中を挟まれる。
しかし、今度は、優しく、丁寧に、ゆっくりと、体中を舐めるように、回されていった。
(……この感覚は、俺の体をよく掃除してくれる、あいつ……。クリナの感覚だ……)
いつも俺を掃除してくれる中でも、一番丁寧に、掃除してくれていた、何か。
俺は、その何かに、クリーナーから取って、クリナと言う名前を付けていた。
俺は、クリナなら安心だ。と、身を任せる。
グルグル回すのは相変わらずだったが、母さんに抱かれているような…。大切にされている感触がした。
(……あ、あれ?体が……)
未だに体を解し続けてくれている、クリナ。
俺は、徐々に動くようになっていく体に、感動する。
ある程度、体が動くようになると、体が、異様に柔らかい事が分かる。
グニャグニャと曲がり、力の入らない体は、まるで、骨が無い様だった。
(前足はこれで、後ろ足はこれで…。あれ?真ん中にあるコレは……?)
不思議な感覚に戸惑う。何度も転ぶし、思うように動かない体は、すごく疲れる。
しかし、俺のふにゃふにゃの体が折れ曲がらない様、体中を挟みながら、矯正してくれているクリナを肌で感じていると、いくらでも、気力が湧いてきた。
足を延ばしては転び、足を曲げては転び、どれだけ経とうと、クリナは俺に付き合ってくれる。
(……社畜人生でも、こんな奴が、そばにいてくれれば……)
そう思った時に、母さんの顔が浮かぶ。
(……頼りっぱなしは、ダメだよな……)
でも、ああなる前に、母さんに相談していれば、違う未来もあったかもしれない。
確かに、頼りすぎもダメだ。しかし、頼る勇気と言うのも必要だ。
結局、俺は最後まで意地を張って、母さんに頼る事はしなかった。しかし、結果、死んでしまっては意味がない。
死ぬような事でなくても、友人に、同僚に、家族に、相談すれば、軽傷で済んだ内容が、ごまんとあるのだ。
だから、今は頼る時。
無事に動けるようになれば、恩返しをすれば良い。
俺は、子どもが自転車の補助輪を外す練習をする様に、何度も転びながら、頑張った。……クリナは、いつまでも、付き合ってくれた。
……それから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
(よし!)
俺は、六本の足を使って、何とか、地面に立つことができた。
頭についている触覚では、辺りの匂いが感じ取れ、巣の全容まで把握する事が出来た。
……なんとなくは、察していたんだ。もう、これは、元の俺の体じゃないって。
(母さん……。お金ぐらいしか、送れなくて、ごめん……。正月に帰れなくて、ごめん……。先に死んじゃって、ごめん……。ごめんしか言えなくて、ごめんなさい……。償いになるかは分からないけど、俺は、この世界で、ちゃんと、恩を返せるような、悔いのない人生を送れるような、人間になるよ)
決意を固めた、俺の背中を、クリナが触覚で、ちょんちょん。と、突いていた。
俺も、返す様に、ちょんちょんと、その背中を叩く。
それは、俺がこの世界で、初めて行った、挨拶だった。
……動けない。
……確か、俺は、ベトベトに、自らから絡まって…。
そのまま、疲れて寝てしまったはずだ。
………。
はずだ。じゃねぇ!
何してんだ俺!頭おかしいだろ?!自殺行為じゃねぇか!
辛うじて、呼吸する事は可能だが、どう藻掻いても動けない。
(詰んだ……)
元々動けなかったが、とうとう、全く動けなくなるとは……。
アパートで倒れた時の事を思い出す。全く、あの時と同じ段取りだ。
俺がまた、この環境に甘んじて、行動しなかった罰か?新しい会社を探すこともしなかった、あの頃の俺に比べたら、成長したと思ったんだけどな……。
一度、死ぬ覚悟を決めたからか、死自体に恐怖は感じない。
……それに、ここなら、死んでも、それ程、迷惑を掛けなさそうだ。
ここはどこなのか、最後まで分からないままだったが、仕方がないだろう。
……でも、餓死って、苦しそうで嫌だな……。
そんな事を考えていると、すぐ近くで、ガサガサと大きな音が聞こえる。
あまりの五月蠅さに、耳を覆いたくなるが、生憎抑える腕がない。
ふと、浮遊感。内臓が持ち上がる感覚。
持ち上げられたり、落とされたり、転がされたり。ぐるぐるぐるぐる目が回る。
(な、なんなんだ?!今度は、楽に殺さないって事か?!)
絶叫系が嫌いだった俺には、大ダメージだった。正直、この状態が続くなら、舌を噛んで死にたいレベルである。……勿論、口は動かないが。
(や、やめろぉ……。やめてくれぇ……)
ヘロヘロになっている俺を、何かが引っ張った。
しかし、すぐに、俺の体が何かに引っかかってしまう。
それでも、俺を引っ張る何か。
痛い。痛いのは痛いのだが、俺を挟む力には、手加減を感じる。
壊さないように、優しく、それでいて、絶対に引っ張り出したい。そんな意思が伝わってくるようだった。
それからも、くるくる回されたり、また別の場所を引っ張られたりと、拷問のような時間を過ごしたが、俺は、頑張って、耐えよう。と、思えた。
それだけ、必死さが伝わって来たのだ。
(お!抜けた!)
何かから引っこ抜けれた俺は、またも、ぐるぐると回され、体中を挟まれる。
しかし、今度は、優しく、丁寧に、ゆっくりと、体中を舐めるように、回されていった。
(……この感覚は、俺の体をよく掃除してくれる、あいつ……。クリナの感覚だ……)
いつも俺を掃除してくれる中でも、一番丁寧に、掃除してくれていた、何か。
俺は、その何かに、クリーナーから取って、クリナと言う名前を付けていた。
俺は、クリナなら安心だ。と、身を任せる。
グルグル回すのは相変わらずだったが、母さんに抱かれているような…。大切にされている感触がした。
(……あ、あれ?体が……)
未だに体を解し続けてくれている、クリナ。
俺は、徐々に動くようになっていく体に、感動する。
ある程度、体が動くようになると、体が、異様に柔らかい事が分かる。
グニャグニャと曲がり、力の入らない体は、まるで、骨が無い様だった。
(前足はこれで、後ろ足はこれで…。あれ?真ん中にあるコレは……?)
不思議な感覚に戸惑う。何度も転ぶし、思うように動かない体は、すごく疲れる。
しかし、俺のふにゃふにゃの体が折れ曲がらない様、体中を挟みながら、矯正してくれているクリナを肌で感じていると、いくらでも、気力が湧いてきた。
足を延ばしては転び、足を曲げては転び、どれだけ経とうと、クリナは俺に付き合ってくれる。
(……社畜人生でも、こんな奴が、そばにいてくれれば……)
そう思った時に、母さんの顔が浮かぶ。
(……頼りっぱなしは、ダメだよな……)
でも、ああなる前に、母さんに相談していれば、違う未来もあったかもしれない。
確かに、頼りすぎもダメだ。しかし、頼る勇気と言うのも必要だ。
結局、俺は最後まで意地を張って、母さんに頼る事はしなかった。しかし、結果、死んでしまっては意味がない。
死ぬような事でなくても、友人に、同僚に、家族に、相談すれば、軽傷で済んだ内容が、ごまんとあるのだ。
だから、今は頼る時。
無事に動けるようになれば、恩返しをすれば良い。
俺は、子どもが自転車の補助輪を外す練習をする様に、何度も転びながら、頑張った。……クリナは、いつまでも、付き合ってくれた。
……それから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
(よし!)
俺は、六本の足を使って、何とか、地面に立つことができた。
頭についている触覚では、辺りの匂いが感じ取れ、巣の全容まで把握する事が出来た。
……なんとなくは、察していたんだ。もう、これは、元の俺の体じゃないって。
(母さん……。お金ぐらいしか、送れなくて、ごめん……。正月に帰れなくて、ごめん……。先に死んじゃって、ごめん……。ごめんしか言えなくて、ごめんなさい……。償いになるかは分からないけど、俺は、この世界で、ちゃんと、恩を返せるような、悔いのない人生を送れるような、人間になるよ)
決意を固めた、俺の背中を、クリナが触覚で、ちょんちょん。と、突いていた。
俺も、返す様に、ちょんちょんと、その背中を叩く。
それは、俺がこの世界で、初めて行った、挨拶だった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
転移想像 ~理想郷を再現するために頑張ります~
すなる
ファンタジー
ゼネコン勤務のサラリーマンが祖父の遺品を整理している中で突如異世界に転移してしまう。
若き日の祖父が言い残した言葉に導かれ、未知の世界で奮闘する物語。
魔法が存在する異世界で常識にとらわれず想像力を武器に無双する。
人間はもちろん、獣人や亜人、エルフ、神、魔族など10以上の種族と魔物も存在する世界で
出会った仲間達とともにどんな種族でも平和に暮らせる街づくりを目指し奮闘する。
その中で図らずも世界の真実を解き明かしていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる