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第0話 プロローグ

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 ッ……!
 俺、天道 瑠璃は、鈍い頭の痛みで、目が覚めた。
 俺の視界を、憎いほどの、夏の日差しが、焼き焦がす。

 暑い。暑いはずなのに、寒気がする。体が、汗でベタベタする。
 
 昨日は夜勤で…。だめだ、意識が朦朧とする……。

 「み、みす……」
 上手く声が出ない。昨日、飲み過ぎたせいか?
 喉が渇いた俺は、薄っぺらい万年床から、起き上がろうとする。
 
 「あ、あれ……?」
 立てない。体が上手く動かない。手足が、痙攣している。
 
 「う、うそ…だろ……」
 俺は、まだ自由の利く首を使って、何とか、体勢をずらすことに成功した。
 ……全力を振り絞って、できた事は、たったそれだけだった。
 
 「だ、だれか……」
 この薄い壁の向こうには、誰が住んでいただろうか?
 誰も住んでいなかったかもしれない。
 俺は、このアパートに住む住人の顔すら知らない。

 「だれか……」
 会社の人間は、今日俺が出社しない事に、違和感を持つだろうか?
 気付いたとして、誰か、通報したり、助けに来てくれるほど、親密な奴はいただろうか?

 「だれ、か…」
 友人にも親にも、仕事の忙しさを理由に、何年も会っていない。
 この頃は、もう、連絡すらない。

 「だれ……」
 俺の目の前をゴキブリが横切って行く。
 その先には、先週、捨て忘れた生ごみの袋があった。

 「………」
 俺は死ぬのだろうか。
 これが、会社が大変と言う言い訳を続け、自ら、行動しなかった罰なのだろうか。

 「いやだ……」
 死にたくない。あんな生ごみと、一緒になりたくない!
 腐乱して、コバエや、ゴキブリの苗床になるなんて、嫌だ!

 芋虫のように床を這い、のた打ち回り、玄関を目指す。
 外にさえ出れば、外にさえ出れば……!
 
 「…あいつ死んだんだってさ」
 あれは、学生の時だったか。同じクラスで、虐められただか何だかして、不登校だった奴が、死んだらしい。と言う話だった。

 「ふ~ん……」
 俺は、興味なさげに答える。
 いじめがあった事も、そいつが不登校になっていたことも知っていた。だから、本当なんだろうなぁ……。とは、思った。
 でも、その時の俺には、アリを潰す作業の方が、重要だったのだ。

 ……なんで、あんな事してたんだろうな。
 あのアリたちは、死んだと言う、生徒は、どんな気分だったんだろうな。
 どうせ、こんな人生なら、あの時、俺が死ねばよかったんじゃないか?

 ………母さん。俺の遺品、引き取ってくれるかな……。

 這う体力も、気力も無くなった、俺の前に、先程のゴキブリが、再び走って来た。
 
 お前が、最後の見取り人か……。

 最後ぐらい、誰かの役に立ちたかったが、腐敗臭と、害虫の温床じゃ、死んでも迷惑かけそうだ。

 ……でも、お前らには、良い餌になるか……。
 ゴキブリは、触覚だけを動かし、こちらを見つめている。
 
 ……フヘヘッ。こんな状況でも、やっぱり、気持ちわりぃわ。お前ら……。

 ………俺の死体。有効活用、してくれよ……。

 そこで、俺の無駄に長い人生は、幕を閉じた。
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