127 / 132
おいで。早く、おいで…。
第124話 ヘーゼル of view
しおりを挟む
「……ん?」
硬い机の上で、目覚める僕。
いつの間に、寝ていたのだろうか。
……昨日は、確か、研究所の壁一面を使って、少女との討論会…。元へ、彼女に教えを乞うていたはずだ。
しかし、彼女は、途中で、何かを思いついたらしく、そこからは、自分の世界へ、釘付け。
お預けを食らった僕は、彼女の気を散らさない為に、自室へ引き返したのだ。
その後は、自室の机の上で、彼女から教えて頂いた情報をまとめて……。
…そうだ!死体を使った、人造勇者の製造に成功して!
…したんだっけ……?どこまでが夢だったんだ?
もしかして、彼女との出会いそのものが、夢だったのか?!
僕は、勢いよく部屋の扉を開けると、廊下に飛び出る。
昨日の出来事が夢でなければ、彼女は研究所にいるはずだ!
……?
研究室に近づくと、なにやら、空気が煙たさを帯びてくる。
研究所が燃えては、僕の研究が!
人間の体では、これ以上の速度は出せない。
音が外に漏れないようにと、長くした地下廊下が、仇となった。
僕は、逸る気持ちを抑えきれず、懐にしまっていた魔材を、一欠けらだけ、口にした。
体中に力が漲る。僕に組み込まれた、獣の血が、騒ぎ、体が変化していくのを感じる。
…!!血の匂い?!
強化された嗅覚は、煙に混じった遠くの匂いを、正確に届けた。
次いで、耳が、何かを叩きつけるような音を拾う。
僕は、力一杯、地面を蹴ると、これまでとは比較にならない速度で、移動した。
研究所の扉が見えると、僕は勢いそのまま、扉を蹴破る。
その瞬間。僕は、流れ込んできた空気に、卒倒しそうになった。
清涼感のある刺激臭が、部屋に近づくに連れ、段々強くなっているとは感じていた。
しかし、部屋の中が、これ程とは思わなかったのだ。
鼻を覆い、口での呼吸に切り替えて、辺りを見回す。
部屋の中には、煙が充満しており、視界も最悪だった。
唯一残った聴覚を使い、音の発生源に近づく。
すると、そこには、何か、動く影が…。
僕は急いで影に近づき、それが、黒髪の少女であることを確認した。
「……はぁ」
少女との出会いが、夢でなかった事に、ひとまず、胸を撫で下ろす。
……しかし、彼女の様子がおかしい。無言で見つめた、床の一点を踏みつけ続けている。
僕はさらに近づくが、彼女は、こちらを見ようともしない。
よく見れば、彼女の手や、足には血が。
その踏みつけられている床にも、血痕と肉片が散らばっていた。
……この尻尾…。毛玉か?
僕は、しゃがみ込むと、フードを外し、その残骸を観察する。
「あ!森の狩人さん!」
すると、今まで、こちらに見向きもしなかった少女が、口を開いた。
僕は驚き、振り返ると、少女は「ごめんんさい!」と、言って、頭を下げる。
「私、メグルさんから頂いた、重要な書物を、傷つけてしまいました!」
少女は、深々と頭を下げたかと思えば「この、毛玉が!毛玉がやったんです!」と、言って、再び、肉片を踏みつけ始める。
…訳が分からなかった。
分からないが、今の状況を察する事は出来た。
きっと、この少女の大切な書物を、この毛玉達が、傷つけたに違いない。
「でも、メグルさんの知識のおかげで、皆一網打尽にできました!すごいです!」
今度は、恍惚表情をして呟き始める少女。
「ねぇ!そう思わない?!おねぇ………」
何かを言いかけた所で、少女の動きが止まった。
「………」
少女は、暫く停止した後に、俯く。
「……これを」
何事もなかったかのように、話し出す、少女。
少女は、容器に入った液体を押し付けてくる。
「毛玉達は、私が起きた時には、皆、脱走していました。その後、私に危害を加えた為、危険と判断し、処分しました」
淡々と語る彼女は、顔を上げない。
「それと、今渡したものは、貴方の作った、最高傑作の肉を加工したものです。それを村の重症者に与えれば、昨日、貴方が話していた、最強の戦士が生まれるでしょう」
その言葉に、私の最高傑作に目をやる。
所々、肉を引きちぎられたそれは、もう動かなくなっていた。
「……私は、少し眠ります」
ふらふらと、研究室を去って行く少女。
部屋の扉が閉じるのを見届けた後。僕は、渡された液体を見つめる。
……こんなに呆気なく、最終目的だと思わせていた、交渉材料を渡してくるなんて…。
彼女は、僕の真の目的を知っているのかもしれない。
僕は、彼女の事を何も知らないと言うのに。
…そう言えば、彼女は正気に戻ったとはいえ、獣になった僕を、よく、ヘーゼルだと見分けたものだ。
…それも、知っていたのか?それとも、この服装のせいか?
彼女を知りたい。何もかもを知りたい。……支配したい。
…まさか、僕が、こんなにも一個人に興味を持つ日が来るなんて…。
僕は、持ち上がる口角を、止める事が出来なかった。
硬い机の上で、目覚める僕。
いつの間に、寝ていたのだろうか。
……昨日は、確か、研究所の壁一面を使って、少女との討論会…。元へ、彼女に教えを乞うていたはずだ。
しかし、彼女は、途中で、何かを思いついたらしく、そこからは、自分の世界へ、釘付け。
お預けを食らった僕は、彼女の気を散らさない為に、自室へ引き返したのだ。
その後は、自室の机の上で、彼女から教えて頂いた情報をまとめて……。
…そうだ!死体を使った、人造勇者の製造に成功して!
…したんだっけ……?どこまでが夢だったんだ?
もしかして、彼女との出会いそのものが、夢だったのか?!
僕は、勢いよく部屋の扉を開けると、廊下に飛び出る。
昨日の出来事が夢でなければ、彼女は研究所にいるはずだ!
……?
研究室に近づくと、なにやら、空気が煙たさを帯びてくる。
研究所が燃えては、僕の研究が!
人間の体では、これ以上の速度は出せない。
音が外に漏れないようにと、長くした地下廊下が、仇となった。
僕は、逸る気持ちを抑えきれず、懐にしまっていた魔材を、一欠けらだけ、口にした。
体中に力が漲る。僕に組み込まれた、獣の血が、騒ぎ、体が変化していくのを感じる。
…!!血の匂い?!
強化された嗅覚は、煙に混じった遠くの匂いを、正確に届けた。
次いで、耳が、何かを叩きつけるような音を拾う。
僕は、力一杯、地面を蹴ると、これまでとは比較にならない速度で、移動した。
研究所の扉が見えると、僕は勢いそのまま、扉を蹴破る。
その瞬間。僕は、流れ込んできた空気に、卒倒しそうになった。
清涼感のある刺激臭が、部屋に近づくに連れ、段々強くなっているとは感じていた。
しかし、部屋の中が、これ程とは思わなかったのだ。
鼻を覆い、口での呼吸に切り替えて、辺りを見回す。
部屋の中には、煙が充満しており、視界も最悪だった。
唯一残った聴覚を使い、音の発生源に近づく。
すると、そこには、何か、動く影が…。
僕は急いで影に近づき、それが、黒髪の少女であることを確認した。
「……はぁ」
少女との出会いが、夢でなかった事に、ひとまず、胸を撫で下ろす。
……しかし、彼女の様子がおかしい。無言で見つめた、床の一点を踏みつけ続けている。
僕はさらに近づくが、彼女は、こちらを見ようともしない。
よく見れば、彼女の手や、足には血が。
その踏みつけられている床にも、血痕と肉片が散らばっていた。
……この尻尾…。毛玉か?
僕は、しゃがみ込むと、フードを外し、その残骸を観察する。
「あ!森の狩人さん!」
すると、今まで、こちらに見向きもしなかった少女が、口を開いた。
僕は驚き、振り返ると、少女は「ごめんんさい!」と、言って、頭を下げる。
「私、メグルさんから頂いた、重要な書物を、傷つけてしまいました!」
少女は、深々と頭を下げたかと思えば「この、毛玉が!毛玉がやったんです!」と、言って、再び、肉片を踏みつけ始める。
…訳が分からなかった。
分からないが、今の状況を察する事は出来た。
きっと、この少女の大切な書物を、この毛玉達が、傷つけたに違いない。
「でも、メグルさんの知識のおかげで、皆一網打尽にできました!すごいです!」
今度は、恍惚表情をして呟き始める少女。
「ねぇ!そう思わない?!おねぇ………」
何かを言いかけた所で、少女の動きが止まった。
「………」
少女は、暫く停止した後に、俯く。
「……これを」
何事もなかったかのように、話し出す、少女。
少女は、容器に入った液体を押し付けてくる。
「毛玉達は、私が起きた時には、皆、脱走していました。その後、私に危害を加えた為、危険と判断し、処分しました」
淡々と語る彼女は、顔を上げない。
「それと、今渡したものは、貴方の作った、最高傑作の肉を加工したものです。それを村の重症者に与えれば、昨日、貴方が話していた、最強の戦士が生まれるでしょう」
その言葉に、私の最高傑作に目をやる。
所々、肉を引きちぎられたそれは、もう動かなくなっていた。
「……私は、少し眠ります」
ふらふらと、研究室を去って行く少女。
部屋の扉が閉じるのを見届けた後。僕は、渡された液体を見つめる。
……こんなに呆気なく、最終目的だと思わせていた、交渉材料を渡してくるなんて…。
彼女は、僕の真の目的を知っているのかもしれない。
僕は、彼女の事を何も知らないと言うのに。
…そう言えば、彼女は正気に戻ったとはいえ、獣になった僕を、よく、ヘーゼルだと見分けたものだ。
…それも、知っていたのか?それとも、この服装のせいか?
彼女を知りたい。何もかもを知りたい。……支配したい。
…まさか、僕が、こんなにも一個人に興味を持つ日が来るなんて…。
僕は、持ち上がる口角を、止める事が出来なかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる