Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
126 / 132
おいで。早く、おいで…。

第123話 エボニ of view

しおりを挟む
シリル様にキスされている。
婚約者の立場の時でさえ適度な距離、挨拶などでも手の甲へのキスまでで頬へのキスさえなかったのに、今は唇へのキスだ。

思わず身体を仰反らそうとするが、後頭部をがっちり捕まえられていてそれもできない。
息苦しくなって彼の腕を叩く。するとそっとほんの少しだけ離してくれた。

息を吸うため口を開くとすぐ口を塞がれる。そして口の中には熱を持った何かが。
私の口内で暴れているのは彼の舌だ。
どうすれば、と考えていられたのも少しの間だけでだんだん思考が奪われていく。

満足した彼が唇を離したが、まだ私の息は整わない。

「ど…どう、して…」

それだけをやっと口にするが悪びれた感じもなく

「少し行き過ぎかもしれないが婚約者への愛情表現だよ。何もおかしいことはないよ。」

まだ、頭がぼうっとしてて上手く考えられない。婚約者?婚約解消するのに?シリル様はリュエル様と相思相愛のはず。私にキスするなんて何を考えているの?

「シリル様。私は婚約者です。今は解消へ向けての話し合いの最中ですが……「解消はしない。だから君は今もこれからも俺のだよ。」

「ですが、シリル様にはリュエル様がいらっしゃるではないですか?」

「リュエル嬢?彼女に恋愛感情はないよ。彼女から聞く隣国の話には関心があるけれど。それだけで婚約者を交代なんてしないよ。」


「仕方ない。ここまでする気はなかったが。」

そう言うと私を抱き上げてスタスタと歩き始める。
ここは私の私室。今は前室にいるがシリル様が向かっているのは奥の寝室だ。

「えっ、や、ちょっ…」

シリル様の腕の中で暴れてみたがびくともしない。扉を開けて私をベッドにそっと下ろし、その上にのしかかってきた。

「シリルさ…」

唇を合わせてまた口内をシリル様の舌が暴れる。
唾液を送り込まれ息が出来なくて飲み込む。飲みきれないものは口の端から溢れている。

シリル様が唇を離し溢れた物を追いかけて首元まで舌を這わす。
すると背中がゾクゾクとする。思わず背を反らせると喉元にきつく吸いつかれる。

「いたっ、やっ、」

いくつも吸いつき、その上をなぞるように舌を這わされて声を抑えることが出来なくなる。シリル様の唇がどんどん下に下がってきた。今日はアザが薄くなったからと詰め襟ではなく少し胸元が開いている服を着ていた。だから開いていた鎖骨から胸元にかけて吸いつき跡を残す。
シリル様は少し顔を離してうっとりと

「綺麗に跡がついた。まるで紅い華が咲き誇っているようだ。」

つけた赤い華を指で一つ一つなぞる。その指使いにまた身体がビクビクと震える。
頭のどこかでこのままではいけないと思っていても、どうすれば良いのかわからない。

そんな時、コンコンとノックの音がしてドアの外から執事が声をかけてきた。

「お嬢様、シリル殿下。旦那様がお帰りになられお呼びです。開けてもよろしいでしょうか?」

「チッ」と舌打ちが聞こえてシリル様が私の上から退いて抱き起こしてくれた。
と、同時にドアが開けられ執事がメイドと入ってきた。
執事は私を見るとメイドに服と髪の乱れを直し、ショールをかけるように指示した。

「シリル殿下。旦那様がお待ちです。ご一緒に来ていただけますか?」

疑問形なのに何故か有無を言わせない物言いだ。シリル様も何も言わず執事について部屋を出る。


父の執務室ではグレイテス伯爵とシリルが向かい合ってソファーに座っていた。
男性使用人に抱き抱えられてオリビアが部屋に入るとシリルが立ち上がりオリビアを使用人から奪うように抱き抱えると座っていたソファーにおろし、すぐ横に自分も腰掛けた。

目の前から伯爵のため息が聞こえた。

「シリル殿下。今貴方と娘の婚約は解消へ向けての話し合いの最中です。それなのに急な訪問、侍女を部屋の外に出して部屋に2人で籠るなど、一体どういうおつもりか説明お願いできますか?」

「オリビアとの婚約解消はしない。今回の件は全て私が悪かった。それで今日は彼女に謝罪しに来訪した。
侍女を追い出したのは王族たる者がみだりに頭を下げるものではないと言われているので、見られないように出て行ってもらっただけだ。他に意図はない。部屋に2人きりなのも婚約者なんだから問題はないだろう?」

シリルはしきりにオリビアを婚約者として扱い、婚約解消はしないと断言している。
グレイテス伯爵は困り顔で

「婚約解消で話を進めております。なのでお戯れはお止めください。」

シリルはニヤリと笑い、横に座らせたオリビアのショールを抜き取った。
すると先程付けられた赤い華が散らばった胸元が晒された。

「オリビアとは仲直りをしている途中だったのだよ。無粋にも止められてしまったがね。私はオリビアを離す気はないよ。それでも婚約解消を強行する気か?」

おたおたと慌てるオリビアを嬉しげに目を細めて見ながら伯爵に言い切った。
グレイテス伯爵は諦めきった表情で

「わかりました。婚約解消は引き下げましょう。
ですが、婚姻まで手を出すのは控えていただきますよ。」

シリルは嬉しそうに微笑むと

「仕方ない。今後は婚約者としての軽い愛情表現に留め、後は結婚後の楽しみにしておこうか。婚約者が愛らしすぎて早く結婚してしまわないといつ限界が訪れるかわからないけどね。」

そしてオリビアの耳元で、「これからもよろしく。婚約者殿。」と囁くとチュッと頬へキスをした。

真っ赤になるオリビアを蕩けるような目で見ながら抱きしめる。

わたしは悪役ではなくまだシリル様の婚約者でいても良いらしい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

愛しくない、あなた

野村にれ
恋愛
結婚式を八日後に控えたアイルーンは、婚約者に番が見付かり、 結婚式はおろか、婚約も白紙になった。 行き場のなくした思いを抱えたまま、 今度はアイルーンが竜帝国のディオエル皇帝の番だと言われ、 妃になって欲しいと願われることに。 周りは落ち込むアイルーンを愛してくれる人が見付かった、 これが運命だったのだと喜んでいたが、 竜帝国にアイルーンの居場所などなかった。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

処理中です...