Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
125 / 132
おいで。早く、おいで…。

第122話 エボニ of view

しおりを挟む
 ふと、目が覚めると、一瞬、ラッカと目が合った。
 ラッカは、咄嗟に目を逸らしたが、尻尾の先がちょろちょろしているので、バレバレである。

 「………」
 僕が寝ている間、ずっと、僕を見ていたのだろうか。
 ジーっと、ラッカを見つめる僕。
 ラッカも無言だ。

 「……寝ないの?」
 僕の問いに、ラッカは「あぁ」と、答える。
 未だに、彼女の視線は、彼方を向いていた。

 「……ラッカ。お腹空いてるでしょ?」
 意地悪な問いに、彼方を向いていたラッカが、ピクリと反応した。
 尻尾の先まで、ピーン!となって……。ちょっと可愛い。

「もしかして、お腹が空いて、眠れないの?」
 僕たちは、あの後、お父さんから投げつけられた布の図を手掛かりに、外に出ようとした。
 結果、その場所まで辿り着いた僕たちは、そ隙間から光を零す、木の板を確認した。きっと、外に繋がる、最後の板なのだろう。

 しかし、布には、その場所から光が漏れている時には、開けるべからず。と、記載されていたのだ。
 僕たちは、忠告を守る事にし、今は安全そうな場所を見つけて、休憩中なのである。

「わ、私は、辺りに危険がないか、見ているだけじゃ!」
 僕を騙したいなら、せめて、尻尾の先をブンブンと震わせながら、言わないで欲しい。
 それに、ここが安全だと言ったのも、ラッカだし…。
 第一、僕は、今、巨大なラッカの巻いた、蜷局とぐろの中心にいるんだから、誰も襲ってこないよ…。

 でも、もう、ラッカも限界なのかもしれない。
 僕と出会ってからは、食事を一度も摂っていないと聞いているので、少なくとも……僕のご飯、100食分は抜きだ!死んでしまう!

「大変だ!ちょっと待っててね!」
 僕はラッカの蜷局をよじ登り、体の上を駆け抜ける。
 途中「おぃ!」と言って、ラッカが僕を止めようと、身をくねらせた。
 いつものラッカなら止められただろう。しかし、今の動きには切れがなく、反応も緩慢だった。…それだけ、弱っていると言う事なんだろう。

 僕は、例の毛玉の遺体が置いてあった場所へ向かう。
 板をちょっとずらして、辺りを確認。……なんだか部屋の壁や床中に、白色で、変な模様が書き足されているけど……。誰もいないし、大丈夫だよね?
 紐を下ろし、素早く棚の上に飛び降りる。

 「チュウチュウチュウ」
 入れ物に入った、同族たちが見える。…彼らは何を考えているのだろうか?
 僕は再び辺りを確認する。……上の位置からでは、棚に隠れて見えなかったが、先刻の少女が、椅子に座ったまま、机に頭を預けて、眠っていた。
 ……今なら、あの、同族が入った、入れ物の蓋を開けられるだろうか?

 「………」
 僕は、ササッと、棚から降りると、同族の元へ向かう。

 「チュウチュウチュウ」
 相変わらず、同族が何を言っているかは分からなかったが、片っ端から、入れ物の蓋を開けて行く。
 同族たちは、暫く、空いた蓋を見つめた後、次々に、入れ物化が這い出してきた。

 ……同族の、僕を見つめる瞳が、怖い……。
 僕は、素早く棚の上に戻ると、下を見下ろした。

 「チチィ!」「チュチュゥ!」「チチチチチチッ!」
 棚の淵から下を見下ろすと、違う入れ物同士の同族が、争っていた。いや、殺し合っていた。そして、死んだ奴はむさぼられて……。

 「………」
 あまりの惨状に言葉を失う。
 こんな事になるとは、思っても見なかった。
 …いや、良い子ぶるな。そんな物は演技だろ?心の何処かでは、思っていたんだ。こんな結末になるんじゃないかって。…こんな状況になれば良いって。

 この状況を見て、恐怖している僕は、確かにいる。しかし、それ以上に安心しているんだ。
 だって、こんな奴らが相手なら……。僕も一線を越えられる。
 …そうしないと、ラッカがいつまでも、苦しそうだしね。

 僕は、この惨状を目に焼き付ける。僕らと、彼らは全く別の生き物なのだと。
 見た目が似ているだけ、ただそれだけの存在なのだ。
 これだけ、僕が苦悩し、見つめていても、毛玉達は、殺し合いに夢中で、こちらに目を向けようともしない。

 きっと、彼らは、僕が目の前に来れば、何の躊躇もなく、何も考えず、僕を食らうのだろう。
 だから、僕らは、彼らを食べて、彼らもその機会があれば、僕らを食べる。そこに感情はいらない。

 ……もういいかな。
 僕は、視線を上げると、棚の淵から、身を引く。

 …さて!これからが本番だぞ!
 気合を入れ直すと、容器に入った、肉片達を見つめる。

 ラッカの好みは、どれなのだろうか。どれだけあれば、お腹一杯になってくれるのだろうか。…ラッカは喜んでくれるだろうか。
 …まぁ、初めの内は、気まずい空気になるのは仕方ないけど……。大丈夫。少しずつ慣れて行こう。

 僕は容器を持ち上げると、慎重に歩き出す。
 その歩みに、もう迷いはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

二次ヒーロー. 私の親友は主人公の女性で、彼女が私を別の世界に引きずり込み、私は脇役になりました。

RexxsA
ファンタジー
私の名前はアレックス・ササキ。危機に瀕した世界を救うために友人とともに召喚されました。 しかし、この物語では親友のエミが主人公であり、私はドラマからは距離を置く脇役に過ぎません。 目立ちたくない私とは裏腹に、恵美はいつも私を問題に巻き込んでしまう。 私の能力は決して素晴らしいものではありません。私が成功の背後にあることを誰にも知られずに、周りの人たちを強化し、障害を克服するために必要な後押しを与えることができます。 エミが壮大な戦いや課題に直面している間、私は影に残り、脚光を浴びることなく意図せず手伝い

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...