Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
121 / 132
おいで。早く、おいで…。

第119話 エボ二 of view

しおりを挟む
 合流地点に近づくと、ダルさんが壁に寄り掛かり、僕たちを待っている姿が見えた。
 僕は思わず、顔を逸らす。

 …ダルさんが、僕のお父さんだと言う話は、皆から聞いていた。
 先刻の件で、元々、気まずい対面だったのだが、お父さんと言う、良く分からない肩書を携える事で、より、一層、気まずくなる。

 「よぉ」
 もう少し進むと、ダルさんが、片手を上げ、挨拶してくる。

 「どうも…」
 僕は頭を軽く下げると、小さく、言葉を返した。

 「父さん!」
 そんな僕の横を、兄弟たちが、追い抜いていく。
 皆、親し気に、ダルさんに纏わりつくと、親し気に、話し始めた。

 ……僕も、ああするべきなのだろうか?皆の反応を見るにあれが正解なんだろうけど…。
 …でも、僕はダルさんと親しいって訳じゃないし…。あれは、何か違う気が……。

 そんな事を考えている僕の横を、今まで、じっとしていた母さんが、速足で通り過ぎる。

 ダルさんの方へ、一直線で向かう母さん。
 兄弟たちは、母さんが近づくと、直ちにダルさんから離れる。

 そして、ダルさんの目の前で、止まる、母さん。
 兄弟の誰もが、動きを止めて、その様子を見ていた。

 ダルさんは、引きつったような笑みで、母さんの顔を見ている。
 こちらからは見えないが、母さんは一体、どんな表情をしているのだろうか…。

 そんな事を考えていると、母さんは、ダルさんの、両の髭を掴み…。引っ張った。

 「イタタタタタッ!痛い!痛いって!千切れるぅぅ!!!」
 ダルさんは、その痛みに、情けない声を上げる。

 確かに、僕も髭を挟んで、引っ張ってしまった事があったが、悶絶する程の痛さだった。
 その痛みを想像して、僕は思わず、髭を両手で覆う。

 母さんの攻撃は、数瞬きの間続き、解放されたダルさんは、ヒィヒィ言いながら、その場にへたり込む。

 「五月蠅い!怪物が寄ってきちゃうでしょ?!」
 母さんは、そう言って、へたり込むダルさんに、止めの蹴りを入れた。

 ……ダルさんは、ピクリとも動かなくなる。
 母さんは、そんなダルさんを、無言で背負った。

 「エボニ。道案内、お願い」
 感情を抑えようとはしているが、未だに怒気を孕んだ声。
 僕は「はぃ…」と、消え入りそうな声で返事をする。

 あんな怖い母さんは、初めて見た。
 流石に兄弟たちも、動揺しているようで、上を見たり、下を見たり、誰一人として、母さんの方に顔を向けてはいなかった。

 しかし、こんな大きな音を出して、この場でグズグズしている訳にもいかない。
 母さんの機嫌を損ねない為にも、毛玉達の街へと足を進める。
 っと、道中、バイモが、頻りに鼻を動かし始めた。僕たちも、辺りを警戒する。

 !!!
 ラッカの匂いだ!

 兄弟たちは、すぐに物陰に隠れて、各自で持っていた布を被った。
 この布は、匂いを通さないらしい。また、薄汚れていて、僕たちが布を被っている姿も、風景の一部に見えると言う、優れものだ。

 「……」
 僕も悩んだ末に、布を被る。ラッカがこちらに気付いた場合、逃げられる可能性があったからだ。

 体全体を、しっかりと布で覆う僕。
 ただ、匂いが漏れないように隙間を塞ぐと、息ができなくなり、辺りの様子を窺う事も出来ない。それに、暑い。

 頼りになるのは、音だけだ。
 しかし、バクバクと動く、心臓の音が邪魔で、その音すらも聴こえ辛い。

 先程、練習した時よりも、息苦しい。
 ラッカの、床を這う音が近づいて来る。
 匂いがかげない。見る事も出来ない。心音が収まらない。…息が苦しい。

 少しの振動も逃さないように、髭と耳を床に着け、全神経を集中させる。
 あと、少し、あと少しで…。

 はやる心を抑え、じっと待つ。
 ……今だ!
 
 僕は布から飛び出した。
 ラッカは、こちらに気が付いたようだが、もう遅い。

 「ラッカ~~~!」
 僕は、ラッカの首元目掛け、飛びつくと、今度は逃がさないように、しっかりと抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...