118 / 132
おいで。早く、おいで…。
第116話 エボ二 of view
しおりを挟む
「じゃあ、この穴も、脱出用に皆が掘ったやつだったんだ……」
穴を抜け出し、外界に出た僕は、この穴の正体を知って、ガッカリしつつも、納得した。
「元々、アンタが大きくなったら、この穴から脱出する。って、話だったしね」
そう、呟きながら、穴を登ってくるキバナに、僕は手を差し伸べる。
その背中には、数日過ごすには十分な食料と、ちょっとした便利道具が背負われていた。
キバナは「ありがと」と、素直にお礼を言い。僕の手を握って、勢いよく穴を抜ける。
「まぁ、お前がこの穴を使って、こっち側に来てたのは、暫くの間、気が付かなかったけどな」
先に穴を抜けていたパキラが、辺りを警戒しながら、呟いた。
その隣では、昔に描いたと言う、周辺図を広げながら、バイモが、ルートを思案している。
やはり、兄弟たちは、僕よりも、この世界に慣れている様だ。
「お前が言っていた、ダルと言う男は、この場所で待っているんだよな?
バイモは図に視線を向けたまま、僕に近づいて来る。
「…うん。集合場所は、多分、そこであってるよ」
如何せん、図と実際の風景の対比が難しい。
普段から、意識して見ていれば違うのであろうが、突然、図を出され、どこだ。と聞かれても、確信が持てる答えが出せない。
「良かった…。それで、同族の街があるのは、どの辺りだ?」
いつになく真剣な雰囲気で聞いて来るバイモ。初めて、お兄さんに見えた気がした。
「ん~…。同族の街は、その図に書いてない部分かな?多分、この辺り」
僕は、図から見て、適当な空白位置を指差す。
「ま、まぁ、僕が案内するし、大丈夫だよ…」
真剣なバイモに、確信の無い位置を教える事が憚られ、有耶無耶にしようとうする僕。
「いや、皆が襲われ、バラバラになった時、集合場所が分からなくなっては、まずい。分かる範囲で良いから、この図に描き足してくれ」
しかし、僕が考えていなかった場面を例に挙げられ、却下されてしまった。
僕は、バイモは頭が良いんだな…。と、思いつつ、バイモに指示された通り、図に、特徴物や、壁等を書き足していく。
「…こ、こんな感じかな?」
僕は元の図に比べれば、拙いながらも、何とか納得のいく図を書き上げ、バイモに渡す。
「…成程、そうか……。ありがとう」
「え?…あ、うん」
僕は突然のお礼に驚き、ぶっきら棒な返しをしてしまう。
あのバイモが、お礼を言うなど、考えても見なかったからだ。
「皆、集まってくれ」
しかし、バイモはそんな僕の様子を気にした風もなく、皆を集める。
皆も、その声を聴くと、すぐに集まり、その場に伏せるようにして、身を下ろした。
バイモは、移動経路は勿論の事、はぐれた時や、戦闘になった場合等、様々な状況を仮定して、指示を出していく。
それを、皆は黙って聴いていた。
「以上。…質問はあるか?」
「………」
皆はその問いに、沈黙で答えると「よし」と、言って、パキラが二足歩行に戻る。
「んじゃぁ、敵の気配がないうちに、さっさと行こうぜ。匂いで集まってこられても厄介だ」
それに釣られて、皆も身を起こす。と、言っても、作戦通り、見張りのパキラ以外は四足歩行だが。
道案内役は、はぐれる様な事がなければ、僕の役目だ。
途中までは、良く知る道だが、ダルさんと合流する場所は、昼間に初めて通った道だ。不安になる。
それ以上に、この場所に対する恐怖心を持ってしまった。
今までは、ラッカが守ってくれていたのだろう。そうでなければ、こんな危険な場所で、あんなにも無知でいられるはずがない。
…ラッカは………。
「道案内お願いね。エボニ」
母さんが、不意に声をかけてくる。
僕を勇気付けてくれたのだろうが、別の事で頭が一杯になっていた僕は、驚いてしまった。
いけない。今は、別の事を気にしている余裕はない。下手すれば、この場の全員が命を落とす。
「うん。ありがと。お母さん」
僕は母さんの応援に、笑顔で答えると、気持ちを切り替え、前に進んだ。
穴を抜け出し、外界に出た僕は、この穴の正体を知って、ガッカリしつつも、納得した。
「元々、アンタが大きくなったら、この穴から脱出する。って、話だったしね」
そう、呟きながら、穴を登ってくるキバナに、僕は手を差し伸べる。
その背中には、数日過ごすには十分な食料と、ちょっとした便利道具が背負われていた。
キバナは「ありがと」と、素直にお礼を言い。僕の手を握って、勢いよく穴を抜ける。
「まぁ、お前がこの穴を使って、こっち側に来てたのは、暫くの間、気が付かなかったけどな」
先に穴を抜けていたパキラが、辺りを警戒しながら、呟いた。
その隣では、昔に描いたと言う、周辺図を広げながら、バイモが、ルートを思案している。
やはり、兄弟たちは、僕よりも、この世界に慣れている様だ。
「お前が言っていた、ダルと言う男は、この場所で待っているんだよな?
バイモは図に視線を向けたまま、僕に近づいて来る。
「…うん。集合場所は、多分、そこであってるよ」
如何せん、図と実際の風景の対比が難しい。
普段から、意識して見ていれば違うのであろうが、突然、図を出され、どこだ。と聞かれても、確信が持てる答えが出せない。
「良かった…。それで、同族の街があるのは、どの辺りだ?」
いつになく真剣な雰囲気で聞いて来るバイモ。初めて、お兄さんに見えた気がした。
「ん~…。同族の街は、その図に書いてない部分かな?多分、この辺り」
僕は、図から見て、適当な空白位置を指差す。
「ま、まぁ、僕が案内するし、大丈夫だよ…」
真剣なバイモに、確信の無い位置を教える事が憚られ、有耶無耶にしようとうする僕。
「いや、皆が襲われ、バラバラになった時、集合場所が分からなくなっては、まずい。分かる範囲で良いから、この図に描き足してくれ」
しかし、僕が考えていなかった場面を例に挙げられ、却下されてしまった。
僕は、バイモは頭が良いんだな…。と、思いつつ、バイモに指示された通り、図に、特徴物や、壁等を書き足していく。
「…こ、こんな感じかな?」
僕は元の図に比べれば、拙いながらも、何とか納得のいく図を書き上げ、バイモに渡す。
「…成程、そうか……。ありがとう」
「え?…あ、うん」
僕は突然のお礼に驚き、ぶっきら棒な返しをしてしまう。
あのバイモが、お礼を言うなど、考えても見なかったからだ。
「皆、集まってくれ」
しかし、バイモはそんな僕の様子を気にした風もなく、皆を集める。
皆も、その声を聴くと、すぐに集まり、その場に伏せるようにして、身を下ろした。
バイモは、移動経路は勿論の事、はぐれた時や、戦闘になった場合等、様々な状況を仮定して、指示を出していく。
それを、皆は黙って聴いていた。
「以上。…質問はあるか?」
「………」
皆はその問いに、沈黙で答えると「よし」と、言って、パキラが二足歩行に戻る。
「んじゃぁ、敵の気配がないうちに、さっさと行こうぜ。匂いで集まってこられても厄介だ」
それに釣られて、皆も身を起こす。と、言っても、作戦通り、見張りのパキラ以外は四足歩行だが。
道案内役は、はぐれる様な事がなければ、僕の役目だ。
途中までは、良く知る道だが、ダルさんと合流する場所は、昼間に初めて通った道だ。不安になる。
それ以上に、この場所に対する恐怖心を持ってしまった。
今までは、ラッカが守ってくれていたのだろう。そうでなければ、こんな危険な場所で、あんなにも無知でいられるはずがない。
…ラッカは………。
「道案内お願いね。エボニ」
母さんが、不意に声をかけてくる。
僕を勇気付けてくれたのだろうが、別の事で頭が一杯になっていた僕は、驚いてしまった。
いけない。今は、別の事を気にしている余裕はない。下手すれば、この場の全員が命を落とす。
「うん。ありがと。お母さん」
僕は母さんの応援に、笑顔で答えると、気持ちを切り替え、前に進んだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

愛しくない、あなた
野村にれ
恋愛
結婚式を八日後に控えたアイルーンは、婚約者に番が見付かり、
結婚式はおろか、婚約も白紙になった。
行き場のなくした思いを抱えたまま、
今度はアイルーンが竜帝国のディオエル皇帝の番だと言われ、
妃になって欲しいと願われることに。
周りは落ち込むアイルーンを愛してくれる人が見付かった、
これが運命だったのだと喜んでいたが、
竜帝国にアイルーンの居場所などなかった。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる