116 / 132
おいで。早く、おいで…。
第114話 エボ二 of view
しおりを挟む
「………」
穴の中から、辺りを見回し、辺りの安全を確認する。
「他に人間?あぁ、別の部屋にも何個か置いてあるよ。魔力の良い燃料に……」
透明な壁の向こうには、ヤツがいた。が、どうやら、先程見かけた少女との会話に熱中しているらしく、こちらに注意は向いていない。
僕は奴を警戒しつつ、気付かれないように、慎重に穴から抜け出る。
「……よし」
ここまでくれば、もう、怪しまれる事はない。
胸を撫で下ろした僕は、真っ先に母さんの下へ向かった。
「…ただいま」
疲れていた僕は、息を吐きながら、母さんに声をかける。
「おかえりなさい」
母さんは、相も変わらず、優しい笑顔で、出迎えてくれた。
僕は、その姿を見て、安心すると、倒れ込むように、母さんの毛の中に、顔を埋めた。
「あらあら…」
特に、困った風もなく、柔らかい声で、そう呟く母さん。
「………」
母さんに顔を埋めたまま、どう説明したものか。と、僕は考える。
僕は、始め、ダルさんの言う事が信じられなかった。
今だって、あの状況を見ていなければ、信じられなかっただろう。
何て言えば…。何て言えば、この場から母さんたちを連れだせる?
……いや、そもそも、母さんたちを連れ出すのは正解なのか?
ここは危険かもしれないが、外も危険だ。それは今日、少し遠出しただけで、痛いほど分かった。
外で生活するようになれば、もっと危険な目に合うかもしれないし、それこそ、この場所に住んでいた方が良かったなんて、思う事もあるかもしれない。
「………あ」
母さんは、何も言わず、僕の頭を撫で始めた。
心地が良い。このまま眠って、何事もなかったかのように、過ごしたい。
「……」
僕は何も言わず、母さんに抱き着く。
母さんは何も言わずに、僕を撫で続けた。
いつも、母さんは、僕に何も言わない。
肯定して、優しくして、甘やかして……。
…だから僕は、自信が持てるんだ。
そして、そんな母さんを、僕は、僕以上に信頼している。
「……母さん。あのね…」
僕は母さんから離れ、しっかりと向かい合う。
「…なぁに?」
そんな僕の改まった態度を見ても、母さんはいつも通りだった。
少し緊張が解れる。
僕は、僕なりの真実を母さんに伝えた。ここが危険な事も。外が危険な事も。
僕が話す間、母さんは、口を挟まず、頷きながら、聞いてくれる。
「…信じられないかもしれないけど、全部本当の事なんだ」
全てを話し終えた僕の心は、信じて貰えるか、不安で一杯だった。
だからこそ、誠意を示す様に、不安を振り切って、母さんの目を見つめる。
…そこには、母さんの考え込む様な顔があった。
やはり、信じて貰えなかったのだろうか…。僕は不安になる。
「……それで、エボニはどうしたいの?」
唐突な質問。
でも、大丈夫。その答えは、もう出ている。
「僕は、母さんの判断に任せようと思う。僕が一番信頼しているのは、母さんだから。どんな結果になっても、受け入れる」
恥ずかしさのあまり、背けそうになる顔を必死に抑え、母さんにそう告げる。
今、僕の顔は、赤色で染まりきっている事だろう。
「う~ん…」と、目を瞑って、考え込む母さん。
僕は深呼吸をし、心を落ち着けると、静かに、その答えを待った。
穴の中から、辺りを見回し、辺りの安全を確認する。
「他に人間?あぁ、別の部屋にも何個か置いてあるよ。魔力の良い燃料に……」
透明な壁の向こうには、ヤツがいた。が、どうやら、先程見かけた少女との会話に熱中しているらしく、こちらに注意は向いていない。
僕は奴を警戒しつつ、気付かれないように、慎重に穴から抜け出る。
「……よし」
ここまでくれば、もう、怪しまれる事はない。
胸を撫で下ろした僕は、真っ先に母さんの下へ向かった。
「…ただいま」
疲れていた僕は、息を吐きながら、母さんに声をかける。
「おかえりなさい」
母さんは、相も変わらず、優しい笑顔で、出迎えてくれた。
僕は、その姿を見て、安心すると、倒れ込むように、母さんの毛の中に、顔を埋めた。
「あらあら…」
特に、困った風もなく、柔らかい声で、そう呟く母さん。
「………」
母さんに顔を埋めたまま、どう説明したものか。と、僕は考える。
僕は、始め、ダルさんの言う事が信じられなかった。
今だって、あの状況を見ていなければ、信じられなかっただろう。
何て言えば…。何て言えば、この場から母さんたちを連れだせる?
……いや、そもそも、母さんたちを連れ出すのは正解なのか?
ここは危険かもしれないが、外も危険だ。それは今日、少し遠出しただけで、痛いほど分かった。
外で生活するようになれば、もっと危険な目に合うかもしれないし、それこそ、この場所に住んでいた方が良かったなんて、思う事もあるかもしれない。
「………あ」
母さんは、何も言わず、僕の頭を撫で始めた。
心地が良い。このまま眠って、何事もなかったかのように、過ごしたい。
「……」
僕は何も言わず、母さんに抱き着く。
母さんは何も言わずに、僕を撫で続けた。
いつも、母さんは、僕に何も言わない。
肯定して、優しくして、甘やかして……。
…だから僕は、自信が持てるんだ。
そして、そんな母さんを、僕は、僕以上に信頼している。
「……母さん。あのね…」
僕は母さんから離れ、しっかりと向かい合う。
「…なぁに?」
そんな僕の改まった態度を見ても、母さんはいつも通りだった。
少し緊張が解れる。
僕は、僕なりの真実を母さんに伝えた。ここが危険な事も。外が危険な事も。
僕が話す間、母さんは、口を挟まず、頷きながら、聞いてくれる。
「…信じられないかもしれないけど、全部本当の事なんだ」
全てを話し終えた僕の心は、信じて貰えるか、不安で一杯だった。
だからこそ、誠意を示す様に、不安を振り切って、母さんの目を見つめる。
…そこには、母さんの考え込む様な顔があった。
やはり、信じて貰えなかったのだろうか…。僕は不安になる。
「……それで、エボニはどうしたいの?」
唐突な質問。
でも、大丈夫。その答えは、もう出ている。
「僕は、母さんの判断に任せようと思う。僕が一番信頼しているのは、母さんだから。どんな結果になっても、受け入れる」
恥ずかしさのあまり、背けそうになる顔を必死に抑え、母さんにそう告げる。
今、僕の顔は、赤色で染まりきっている事だろう。
「う~ん…」と、目を瞑って、考え込む母さん。
僕は深呼吸をし、心を落ち着けると、静かに、その答えを待った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います
真理亜
恋愛
ここセントール王国には一風変わった習慣がある。
それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。
要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。
そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、
「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」
と言い放ったのだった。
少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる