113 / 132
おいで。早く、おいで…。
第111話 エボ二 of view
しおりを挟む
「……分かったろ」
棚の上から、男女のやり取りに目を奪われていた僕。
そんな僕の背後から、ダルさんが声をかけて来た。
完全に、その存在を忘れていた僕は、思わずビクリと反応してしまう。
「あいつはそう言う奴だ」
…そう言う奴とは、どう言う奴なのだろうか。僕には分らない。
僕たちの面倒を見ながら、僕の同族を、ああも簡単に殺し、自身の同族までも、あのような状態にしておきながら、その傍らで、自身の同族と、手を握って笑いあっている。
…狂っている。……あぁ、そうか、狂っているんだ。
「……分かりました。母さんたちを、あの場所には置いておけない。…行きましょう。案内します。僕の家まで」
僕は、未だに同族の飛び散った破片を奪い合っている、毛玉達を俯瞰しながら答える。
「……あいつらを助けろとは言わないんだな」
…言ったところで、助ける気もない癖に。
「………あれは、ただの毛玉。ただの、動く毛玉です」
僕も彼らを、命をかけてまで、救う気にはなれなかった。詰りは、ダルさんと一緒だ。
僕は、それだけを言うと、踵を返す。
「…そうか」
ダルさんは無機質にそう呟くと、僕の後に続いた。
「……お前の友人とやらの、同族は見なくても良いのか?」
相変わらず、抑揚のない声。
背後にいるダルさんの表情は見えない。
僕は短く「いいです」と、答えると、来た道を進んだ。
「………」
ダルさんは、それ以上何も言わない。僕も何も言わない。行きと何も変わらない風景。空気が変わったと思うのは、僕の、物の見方が変わったからだろう。
「……一旦、街に戻るか?」
垂らした紐を回収しながら、ダルさんが呟く。
「……いや、”アイツ”が僕たちの家を確認した時に、僕がいないと不審がられるかもしれないので…。僕はこのまま家に帰ります」
僕は何もない空間に視線を向け、言葉を紡ぐ。
何故か、相変わらず、ダルさんの顔を見る気には、なれなかったのだ。
「……そうか…」
またしても、無機質な返答。
最初は馴れ馴れしくしてきたと思ったら、僕の身の上話を聞いてからは、妙に突っかかってきて、かと思えば、冷たくあしらう。
一体何なんだ、この人は。イライラする。その全ての言動が耳障りに感じる。何故…。何故こんなにも気に障るんだ……。
…ダメだ。今はそんな事を考えている場合じゃない。
「……一人で帰れるか?」
不意に、人の熱が籠った様な声色。余りの気色の悪さに、背筋がゾクリとする。
「だ、大丈夫です…。道は分かりますから」
僕は警戒する様にダルさんに視線をやるが、彼の顔は影になり、その表情を窺い知る事すら叶わない。
「……そうか…」
「そうかって何だよ!言いたい事があるなら言えば良いじゃないか!」
我に帰り、ハッとなる。
僕とダルさんは、警戒する様に辺りを見回すと、異変のない事を確認し、安堵の息を吐いた。
「…す、すみません……」
僕は素直に謝る。
この様な場所で、不用意に大声を出す事も、人を突然、怒鳴り付ける事も、到底、許される事では無いのだが…。
「…いや、いい。俺も悪かった……。お互い、疲れてるのかもしれないな」
今回に関しては、全面的に僕が悪かった筈なのだ。しかし、何故かダルさんは、申し訳なさ気な態度を取ると、あっさりと許してくれる。
それによって、僕はますます気まずくなり、またも、ダルさんから視線を逸らす結果となった。
「……よし、一旦、それぞれの拠点に戻って、休憩しよう。下の奴等が寝静まってから、行動だ。……それまでに、家族には説明をしておけよ」
先の件は無かったかの様な対応に、少し安心しつつも、未だに、気まずさは拭えない。
「は、はい……」
僕は目線を逸らしながら、返事をすると、軽く作戦会議を行い、その場で解散する流れとなった。
こちらに背を向けたダルさんは、最後に「気を付けろよ」と、呟いて去って行く。
僕はその背中を、申し訳ない様な。恥ずかしい様な。…少し、寂しい様な気持ちで見送る。
この気持ちは、何なのだろうか。
少なくとも、あのイライラは、自分自身のせいで。詰まりは、八つ当たりをしてしまったと言う事で…。
大人の対応で、いなしてくれたダルさんを思い浮かべると、尊敬と言うか、何と言うか…。
脳裏に、再び、先の状況が蘇って来る。
僕は、恥ずかしさから、顔を隠さずにはいられず、逃げる様にして、その場から立ち去った。
棚の上から、男女のやり取りに目を奪われていた僕。
そんな僕の背後から、ダルさんが声をかけて来た。
完全に、その存在を忘れていた僕は、思わずビクリと反応してしまう。
「あいつはそう言う奴だ」
…そう言う奴とは、どう言う奴なのだろうか。僕には分らない。
僕たちの面倒を見ながら、僕の同族を、ああも簡単に殺し、自身の同族までも、あのような状態にしておきながら、その傍らで、自身の同族と、手を握って笑いあっている。
…狂っている。……あぁ、そうか、狂っているんだ。
「……分かりました。母さんたちを、あの場所には置いておけない。…行きましょう。案内します。僕の家まで」
僕は、未だに同族の飛び散った破片を奪い合っている、毛玉達を俯瞰しながら答える。
「……あいつらを助けろとは言わないんだな」
…言ったところで、助ける気もない癖に。
「………あれは、ただの毛玉。ただの、動く毛玉です」
僕も彼らを、命をかけてまで、救う気にはなれなかった。詰りは、ダルさんと一緒だ。
僕は、それだけを言うと、踵を返す。
「…そうか」
ダルさんは無機質にそう呟くと、僕の後に続いた。
「……お前の友人とやらの、同族は見なくても良いのか?」
相変わらず、抑揚のない声。
背後にいるダルさんの表情は見えない。
僕は短く「いいです」と、答えると、来た道を進んだ。
「………」
ダルさんは、それ以上何も言わない。僕も何も言わない。行きと何も変わらない風景。空気が変わったと思うのは、僕の、物の見方が変わったからだろう。
「……一旦、街に戻るか?」
垂らした紐を回収しながら、ダルさんが呟く。
「……いや、”アイツ”が僕たちの家を確認した時に、僕がいないと不審がられるかもしれないので…。僕はこのまま家に帰ります」
僕は何もない空間に視線を向け、言葉を紡ぐ。
何故か、相変わらず、ダルさんの顔を見る気には、なれなかったのだ。
「……そうか…」
またしても、無機質な返答。
最初は馴れ馴れしくしてきたと思ったら、僕の身の上話を聞いてからは、妙に突っかかってきて、かと思えば、冷たくあしらう。
一体何なんだ、この人は。イライラする。その全ての言動が耳障りに感じる。何故…。何故こんなにも気に障るんだ……。
…ダメだ。今はそんな事を考えている場合じゃない。
「……一人で帰れるか?」
不意に、人の熱が籠った様な声色。余りの気色の悪さに、背筋がゾクリとする。
「だ、大丈夫です…。道は分かりますから」
僕は警戒する様にダルさんに視線をやるが、彼の顔は影になり、その表情を窺い知る事すら叶わない。
「……そうか…」
「そうかって何だよ!言いたい事があるなら言えば良いじゃないか!」
我に帰り、ハッとなる。
僕とダルさんは、警戒する様に辺りを見回すと、異変のない事を確認し、安堵の息を吐いた。
「…す、すみません……」
僕は素直に謝る。
この様な場所で、不用意に大声を出す事も、人を突然、怒鳴り付ける事も、到底、許される事では無いのだが…。
「…いや、いい。俺も悪かった……。お互い、疲れてるのかもしれないな」
今回に関しては、全面的に僕が悪かった筈なのだ。しかし、何故かダルさんは、申し訳なさ気な態度を取ると、あっさりと許してくれる。
それによって、僕はますます気まずくなり、またも、ダルさんから視線を逸らす結果となった。
「……よし、一旦、それぞれの拠点に戻って、休憩しよう。下の奴等が寝静まってから、行動だ。……それまでに、家族には説明をしておけよ」
先の件は無かったかの様な対応に、少し安心しつつも、未だに、気まずさは拭えない。
「は、はい……」
僕は目線を逸らしながら、返事をすると、軽く作戦会議を行い、その場で解散する流れとなった。
こちらに背を向けたダルさんは、最後に「気を付けろよ」と、呟いて去って行く。
僕はその背中を、申し訳ない様な。恥ずかしい様な。…少し、寂しい様な気持ちで見送る。
この気持ちは、何なのだろうか。
少なくとも、あのイライラは、自分自身のせいで。詰まりは、八つ当たりをしてしまったと言う事で…。
大人の対応で、いなしてくれたダルさんを思い浮かべると、尊敬と言うか、何と言うか…。
脳裏に、再び、先の状況が蘇って来る。
僕は、恥ずかしさから、顔を隠さずにはいられず、逃げる様にして、その場から立ち去った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。
初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。
今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字等あれば連絡をお願いします。
感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。
おもしろかっただけでも励みになります。
2021/6/27 無事に完結しました。
2021/9/10 後日談の追加開始
2022/2/18 後日談完結

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる