Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

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おいで。早く、おいで…。

第110話 ヘーゼルと黒髪の少女

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 「……うぅっ…」
 石壁に囲まれた、薄暗い部屋の中。
 眩暈めまいを催したかのようにふら付く少女は、怪しく煌めく石から手を離す。

 「……本当に。悲しいぐらいに、君には、魔力の適正がないようだね…。黒髪の、特に女性には、魔力適性が強いと言う噂を聞いていたのだけれど……。いや、これはこれで良いサンプルになった」

 その脇に立っていた僕、ヘーゼルは、ボサボサの頭を掻きながら、その少女を優しく支える。
 その体は軽く、身長は、成人を超えて……。しばらくたった僕より、頭二つ分ほど小さかった。

 「…やはり、そうでしたか……」
 彼女は、予想通りだった。と言うかの様に、特に、驚く事もなく、ため息を吐く。

 「…まぁいいさ、僕は君の”ココ”が欲しいわけだしね」
 そう言って、僕は自身の頭を人差し指で、コンコンと、叩いて見せる。

 彼女の頭脳は優秀だ。教会の真実に気付いていただけでなく、この村で行われている、私の実験を見抜くだけの、豊富な知識。
 それに、貴重な魔材まで持ち合わせていて、それらを交渉材料に、僕の下までやって来た、情報収集能力と、何より、行動力!

 僕は彼女を一個人として、評価せざるを得なかった。

 「たとえ、君に魔力の素質がなくとも、気にする事はないよ。実験道具は、ここにいくらでもあるのだから」
 そう言って、僕は部屋の中に目線をやった。
 そこには、小動物は勿論の事、中型の動物から、特殊な装置に繋がれた、継ぎはぎの生物まで、様々な”実験道具”が、置かれている。

 「……”コレ”は?」
 彼女は、真っ先に、僕の最高傑作。人型の被検体を指差す。
 「あぁ、流石、お目が高いね。コレは唯一、高濃度の魔力に耐えられた、人型の被検体だよ」

 「見ていてご覧」
 僕は、そう言うと、毛玉の害獣を一匹、長い尻尾を掴んで、籠の中から取り出した。
 僕は、ゆっくりと、拘束具に縛り付けられた被検体に毛玉の害獣を近づける。

 「ガゥッ!」
 ある程度まで害獣が近づくと、被検体は勢いよく首を伸ばし、尻尾を残して、害獣を食いちぎった。

 「はっはっは。……今の最高傑作でもこの程度さ。理性の欠片もありゃしない」
 そう言って、僕は手に残った害獣の尻尾を、同種の入れ物へと投げ捨てる。

 投げ捨てられた尻尾の残骸には、瞬く間に同族が集まり、噛みちぎったり、引っ張ったりの強奪戦へ。数秒と経たず、残骸は、同族の腹の中へと消えて行く。

「他にも、優秀な個体がいたのだけれどね…。ちょっと目を離した隙に逃げられてしまって……」
 被検体は、上手く摂食する知能もなくしており、害獣の身をかみ砕いて、その大半を辺りにまき散らしている。

 ふと、被検体の口から飛び散った肉片と血液が、彼女の顔面に付着する。
 僕は、しまった!と、思ったが、彼女は、不快な表情一つせず、終始、笑顔と言う無表情を貫いていた。それはある意味、救われたのだが…。

 「……これでもダメか…」
 僕は、そんな彼女の表情を見て、落胆するように項垂うなだれた。

 「申し訳ございません。何か、気に障るような行為を…」
 彼女は、咄嗟に謝るが、僕は「いや、良いんだ」と、言って、それを止める。

 しかし、それでも、なお、僕の態度が気に食わなかったのか、険しい表情を続ける彼女。
 「私は、貴方に支援を求める身。何か不満があれば、申して頂かないと…。こちらも不安で、貴方を信頼できなくなります」

 彼女は、振り絞ったような声で、そう言った。
 彼女なりに、頭を回し、通りを通して、必死に言葉を紡いだのだろう。

 僕も、それに応えられない程、子どもじゃない。

 「……いや、僕の最高傑作を見せても、眉一つ動かさない物だからね。研究者として、負けた気分になってしまったんだよ」
 何とも、新鮮な感情に、むず痒くなって、頬を掻く。

 「…っと、こんな調子では僕らしくないね。情報収集が得意な君なら、もう分っているかもしれないけれど、一応、言っておくね。僕は効率主義。そして、目標は人工勇者の生成だ。その為なら、手段は問わないし、プライドだって捨てる。魔力の知識に置いて、君は僕以上だ。僕は君を利用して、君は僕を利用する。お互い、上手く利用しあって行こう。だって、その方がギスギスした関係よりも…」

 「…効率的ですか?」
 少女はそう呟くと、僕を見上げながら、初めて表情を零す。先程までよりも、より歪な笑みだった。

 「あぁ」
 僕は、その笑みに手を伸ばすと、少女のその細い腕はしっかりと、僕の手を取った。

 「これから、宜しくお願いしますね」
 裏切りは許さないと言ったような、強い握力で僕の掌を締め付けてくる。これが、彼女の本性と言う事なのだろうか。

 …欲にまみれた、とても良い目をしている。

 だから、僕もそれに応えて、"本当"の笑みで返した。
 「こちらこそ。宜しくお願い致しますね」

 二人の薄ら笑いは、冷たい地下室に染み入るように響き渡った。
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