Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
112 / 132
おいで。早く、おいで…。

第110話 ヘーゼルと黒髪の少女

しおりを挟む
 「……うぅっ…」
 石壁に囲まれた、薄暗い部屋の中。
 眩暈めまいを催したかのようにふら付く少女は、怪しく煌めく石から手を離す。

 「……本当に。悲しいぐらいに、君には、魔力の適正がないようだね…。黒髪の、特に女性には、魔力適性が強いと言う噂を聞いていたのだけれど……。いや、これはこれで良いサンプルになった」

 その脇に立っていた僕、ヘーゼルは、ボサボサの頭を掻きながら、その少女を優しく支える。
 その体は軽く、身長は、成人を超えて……。しばらくたった僕より、頭二つ分ほど小さかった。

 「…やはり、そうでしたか……」
 彼女は、予想通りだった。と言うかの様に、特に、驚く事もなく、ため息を吐く。

 「…まぁいいさ、僕は君の”ココ”が欲しいわけだしね」
 そう言って、僕は自身の頭を人差し指で、コンコンと、叩いて見せる。

 彼女の頭脳は優秀だ。教会の真実に気付いていただけでなく、この村で行われている、私の実験を見抜くだけの、豊富な知識。
 それに、貴重な魔材まで持ち合わせていて、それらを交渉材料に、僕の下までやって来た、情報収集能力と、何より、行動力!

 僕は彼女を一個人として、評価せざるを得なかった。

 「たとえ、君に魔力の素質がなくとも、気にする事はないよ。実験道具は、ここにいくらでもあるのだから」
 そう言って、僕は部屋の中に目線をやった。
 そこには、小動物は勿論の事、中型の動物から、特殊な装置に繋がれた、継ぎはぎの生物まで、様々な”実験道具”が、置かれている。

 「……”コレ”は?」
 彼女は、真っ先に、僕の最高傑作。人型の被検体を指差す。
 「あぁ、流石、お目が高いね。コレは唯一、高濃度の魔力に耐えられた、人型の被検体だよ」

 「見ていてご覧」
 僕は、そう言うと、毛玉の害獣を一匹、長い尻尾を掴んで、籠の中から取り出した。
 僕は、ゆっくりと、拘束具に縛り付けられた被検体に毛玉の害獣を近づける。

 「ガゥッ!」
 ある程度まで害獣が近づくと、被検体は勢いよく首を伸ばし、尻尾を残して、害獣を食いちぎった。

 「はっはっは。……今の最高傑作でもこの程度さ。理性の欠片もありゃしない」
 そう言って、僕は手に残った害獣の尻尾を、同種の入れ物へと投げ捨てる。

 投げ捨てられた尻尾の残骸には、瞬く間に同族が集まり、噛みちぎったり、引っ張ったりの強奪戦へ。数秒と経たず、残骸は、同族の腹の中へと消えて行く。

「他にも、優秀な個体がいたのだけれどね…。ちょっと目を離した隙に逃げられてしまって……」
 被検体は、上手く摂食する知能もなくしており、害獣の身をかみ砕いて、その大半を辺りにまき散らしている。

 ふと、被検体の口から飛び散った肉片と血液が、彼女の顔面に付着する。
 僕は、しまった!と、思ったが、彼女は、不快な表情一つせず、終始、笑顔と言う無表情を貫いていた。それはある意味、救われたのだが…。

 「……これでもダメか…」
 僕は、そんな彼女の表情を見て、落胆するように項垂うなだれた。

 「申し訳ございません。何か、気に障るような行為を…」
 彼女は、咄嗟に謝るが、僕は「いや、良いんだ」と、言って、それを止める。

 しかし、それでも、なお、僕の態度が気に食わなかったのか、険しい表情を続ける彼女。
 「私は、貴方に支援を求める身。何か不満があれば、申して頂かないと…。こちらも不安で、貴方を信頼できなくなります」

 彼女は、振り絞ったような声で、そう言った。
 彼女なりに、頭を回し、通りを通して、必死に言葉を紡いだのだろう。

 僕も、それに応えられない程、子どもじゃない。

 「……いや、僕の最高傑作を見せても、眉一つ動かさない物だからね。研究者として、負けた気分になってしまったんだよ」
 何とも、新鮮な感情に、むず痒くなって、頬を掻く。

 「…っと、こんな調子では僕らしくないね。情報収集が得意な君なら、もう分っているかもしれないけれど、一応、言っておくね。僕は効率主義。そして、目標は人工勇者の生成だ。その為なら、手段は問わないし、プライドだって捨てる。魔力の知識に置いて、君は僕以上だ。僕は君を利用して、君は僕を利用する。お互い、上手く利用しあって行こう。だって、その方がギスギスした関係よりも…」

 「…効率的ですか?」
 少女はそう呟くと、僕を見上げながら、初めて表情を零す。先程までよりも、より歪な笑みだった。

 「あぁ」
 僕は、その笑みに手を伸ばすと、少女のその細い腕はしっかりと、僕の手を取った。

 「これから、宜しくお願いしますね」
 裏切りは許さないと言ったような、強い握力で僕の掌を締め付けてくる。これが、彼女の本性と言う事なのだろうか。

 …欲にまみれた、とても良い目をしている。

 だから、僕もそれに応えて、"本当"の笑みで返した。
 「こちらこそ。宜しくお願い致しますね」

 二人の薄ら笑いは、冷たい地下室に染み入るように響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊
ファンタジー
人間と魔族との戦いが終わって暇を持て余す邪神フェリス。 気ままな彼女が中心となって巻き起こすハートフルコメディ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

処理中です...