Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
111 / 132
おいで。早く、おいで…。

第109話 エボニと薄暗い研究所

しおりを挟む
 街を出て、暗い道を進む事、数十分。
 途中、物陰に隠れて、八本足の生き物や、長細い胴にびっしりと足を生やした生き物などから、身を隠して進んできた。

 「そろそろ…」
 「黙ってろ」
 ダルさんの指示で、僕は口をつむぐ。
 ついて来るなら、緊急時をいて喋らない事。自分たち以外は、たとえ同族であっても敵だと思う事。ダルさんの指示には従う事。が、条件だったのだ。
 そんな条件をんでまで、ダルさんに付いてきている理由。それは、彼が、ラッカの同族に会わせてくれると言うからだ。
 このままラッカを見つけ出しても、また同じことの繰り返しになると言う事は目に見えている。
 僕はもっと、彼女の事を知らないといけないのだ。

 「……ここだ。そっちを持て」
 ダルさんは床に敷かれた、木の板に手をかけ、指示を出してくる。
 「…」
 僕は無言で、板の反対側に手をかける。
 「…よし、いくぞ」
 二人同時に板を引くと、その下には穴が開いていた。
 僕は恐る恐る、その穴を覗いてみる。すると、どうやらそこは、僕のよく知る、透明な板で区切られた、向こう側の部屋と、よく似ている場所だった。
 「どいてろ」
 そう言って、ダルさんは物入から取り出したひもを、辺りの物に巻き付け、穴の中に垂らして行く。
 「…降りるぞ」
 ダルさんを先頭に、紐を伝って、僕らは天井に近い、物置棚の上へと降り立った。
 「こっちだ」
 僕はダルさんの後を追い、棚を降りていく。
 その途中には、色々なものが置かれており…。

 「ひっ!…」
 透明な入れ物の中、僕たちの仲間が、液体に浸され、死んでいた。
 「…おい、そんな物ぐらいで足を止めるな。置いて行くぞ」
 そ、そんな物って!仲間が!仲間が死んでいるのに!
 しかし、僕が抗議の声を出す間もなく、ダルさんはどんどんと先に進んで行く。
 僕は、言葉を飲み込むと、急いでダルさんの後を追う。
 その脇では、透明な入れ物の中、様々な生き物の死体が、液体に浸され、浮かんでいた。
 原形をとどめている物など、まだ良い方で、腐敗していたり、バラバラにされた体の一部だけが浮かんでいる光景は、吐き気すら覚える。
 「腐ってるやつらは失敗品だな。魔力が足りなかったんだろう」
 ダルさんがポツリとつぶやいた。その、冷酷な言葉に、またしても、苛立ちが募る。
 しかし、この空間は異常だ。彼とめている場合ではない。…それに、こんな場所を見ては、もう引けない。
 「ちゅぅ。ちゅぅ」
 同族の声に、視線を向けてみれば、籠の中には大勢の仲間たち。
 あの人たちも、いずれ、透明な入れ物の中に入れられて…。
 「…今、あいつらを助けてる余裕はねぇからな」
 その声に、僕は反射的に、ダルさんを睨む。が、彼はこちらに振り向く事すらせず、一心不乱に、足を進めている。
 ……これは、ガラスの向こうにいた彼が行っている事なのだろうか。
 いや、彼が直接手を下していなかったとして、この状況を知らないと言う事はあるのか?
 …騙されて?るいは、脅されて?
 ……。
 …………。

 「…着いたぞ」
 僕は、ダルさんの声に足を止め、棚の上から、下を見下ろす。
 「……こ、ここは…」
 そこには、沢山の生き物。そして、いつも、僕ら家族の面倒を見てくれている彼の姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。
ファンタジー
悪役令嬢? なにそれ。 乙女ゲーム? 知らない。 そんな元社会人ゲーマー転生者が、空気読まずに悪役令嬢にベタぼれして、婚約破棄された悪役令嬢に求婚して、乙女ゲーム展開とは全く関係なく悪役令嬢と結婚して幸せになる予定です。 一部に流血描写、微グロあり。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、王太子であるアルス-アスカロンは記憶を取り戻す。 それは自分がゲームのキャラクターである悪役だということに。 気づいた時にはすでに物語は進行していたので、慌てて回避ルートを目指す。 そして、無事に回避できて望み通りに追放されたが……そこは山賊が跋扈する予想以上に荒れ果てた土地だった。 このままではスローライフができないと思い、アルスは己の平穏(スローライフ)を邪魔する者を排除するのだった。 これは自分が好き勝手にやってたら、いつの間か周りに勘違いされて信者を増やしてしまう男の物語である。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

処理中です...