Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
110 / 132
おいで。早く、おいで…。

第108話 エボニと不可解な男

しおりを挟む
 「お前はあの地下施設から来たと…」
 「はい」
 現在、僕は街中に建っている、ダルさんの家にお邪魔していた。
 「んで、そこにはお前の家族がいて、あの、気色の悪い男がいて…」
 「気色が悪いかはさておき、いつも食べ物をくれる男の人がいます」
 僕の身の上話を聞きたいと言う、ダルさんと、机を挟んで、今までの会話を整理している所だ。
 「んで、あの、凶暴なニョロニョロ野郎と仲良くなろうとしていると」
 「だ!か!ら!彼女は凶暴じゃないですし、野郎でもありません!立派な女性です!」
 それを聞いたダルさんは、またしても「あぁ~!」と言って、頭を抱える。
 「だからな?!地下の男は俺達の命を道具の一つとしか思っていない、冷酷な奴で、あの、ニョロニョロ…娘は、俺達を食って生きている様な奴なんだ!」
 「そんなはずない!」
 「そうなんだ!」
 「……」
 両者、机に乗り出し、無言のにらみ合い。
 何度繰り返しても、ここより先には話が進まなかった。
 「……分かった。そこまで言うなら、確かめてみると良い」
 ダルさんが机の上から身を引くと、不機嫌そうに机に肘を立てて、その上に頭を預ける。
 「言われなくても、そのつもりさ」
 何回話をしても堂々巡り。こちらの話など、否定ばかりで、全く聞く耳も持たない。
 僕は、無駄な時間を割いてしまったと、苛立ちを隠せず、席を立つ。
 「……まて、誰も出て行って良いなんて言ってないぞ」
 扉に手をかけ、外に出ようとする僕の背に、ダルさんが強めの声色で話しかけてくる。
 その言葉はまたも、僕の神経を逆なでし、募りに募った、イライラが爆発した。
 初めから、妙に馴れ馴れしいとは思っていたが、身の上話をしてからは、必要に突っかかってくる。
 「誰も、あんたの承認なんて!」
 「…俺も行く」
 …え?
 ……なんだって?
 「な、なんで、あんたが付いてくるのさ……」
 僕は戸惑いを隠せず、ダルさんの方へ振り返る。
 「別に、お前の為じゃねぇ。おめぇさんの家族が、その研究施設に捕まっているって言うなら、助け出さなきゃなんねぇ。そのついでに、あの男の本性も教えてやるよ」
 ダルさんは、それだけ言うと、革の衣と物入を身に着け、鋭い棒までたずさえて、僕の前まで来た。
 僕より身長の高いダルさん。その風貌は、今までの軽い雰囲気を全く感じさせない、鋭い物だった。
 そんな彼から、高圧的な目線を受けた僕は、少したじろいでしまう。
 「……着いてきな」
 ダルさんは、そんな僕を気にした風もなく、扉に手をかけ、先に出て行ってしまった。
 「……ちょ、ちょっと、待ってくださいよ!」
 こちらの声も聞かず、先を行ってしまうダルさん。
 僕はすくんだ脚に、力を籠めると、見失わないように、全力で彼を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

落第錬金術師の工房経営~とりあえず、邪魔するものは爆破します~

みなかみしょう
ファンタジー
錬金術師イルマは最上級の階級である特級錬金術師の試験に落第した。 それも、誰もが受かるはずの『属性判定の試験』に落ちるという形で。 失意の彼女は師匠からすすめられ、地方都市で工房経営をすることに。 目標としていた特級錬金術師への道を断たれ、失意のイルマ。 そんな彼女はふと気づく「もう開き直って好き放題しちゃっていいんじゃない?」 できることに制限があると言っても一級錬金術師の彼女はかなりの腕前。 悪くない生活ができるはず。 むしろ、肩身の狭い研究員生活よりいいかもしれない。 なにより、父も言っていた。 「筋肉と、健康と、錬金術があれば無敵だ」と。 志新たに、生活環境を整えるため、錬金術の仕事を始めるイルマ。 その最中で発覚する彼女の隠れた才能「全属性」。 希少な才能を有していたことを知り、俄然意気込んで仕事を始める。 採取に町からの依頼、魔獣退治。 そして出会う、魔法使いやちょっとアレな人々。 イルマは持ち前の錬金術と新たな力を組み合わせ、着実に評判と実力を高めていく。 これは、一人の少女が錬金術師として、居場所を見つけるまでの物語。

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。 暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...