Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
108 / 132
おいで。早く、おいで…。

第106話 エボニと出会い

しおりを挟む
「待って!待ってよ!ラッカ!」
 必死にラッカの後を追う僕。
 それでも、ラッカとの距離はぐんぐんと開いて行った。

 巨大な闇に呑み込まれて行くラッカ。

「ラッカ…。待ってよ…」
 仕舞いには僕の体力も尽き、完全に彼女を見失ってしまった。

 息も絶え絶え、何とか惰性だせいで走る僕。
 結局ラッカは何も話してくれなかった。

 それでも、何かに邪魔され、彼女の意思に反する形で、僕と仲良くできない。という事が分かった。
 ほんの少し…。だけど、確実に一歩、彼女に近づいたのである。

 このまま彼女を追いかけても、絶対に追いつけない。
 物理的に追いついたところで、僕は彼女の心に近づけないのだ。

「チュゥ、チュゥ、チュゥゥ~…」
 僕は足を止めると、その場にへたり込む。
 今は動く時じゃない。考える時だ。
 ゆっくりと息を吸って、呼吸を整える。

「おう!坊主!お前、スゲーな!」
 そんな僕の耳に、聞き覚えの無い、男の声が飛び込んできた。
 僕は重い腰を上げると、周囲を見渡す。

「おぉ。驚いた。おめぇさん。二足歩行までできんのか」
 そう言って、暗闇から出てきたのは、母さんと同じぐらいの歳に見える、男の同族だった。

 男も二足歩行をして、こちらに向かってくる。
 その顔はへらへらとしていて、軽い印象だった。

「は、初めまして…」
 僕は様子をうかがうように挨拶をする。

「お!おぉ!始めましてだな!俺の名前はブライダルベール。気軽にダルと呼んでくれ!」
 軽快な声と共に近づいてきた彼は、勢いそのまま、僕の肩を勢い良く叩く。

「い、痛いですよ」
 僕が反発の声を上げると、男は「わりぃ、わりぃ」と言って、笑いながら、僕との距離を取り直した。

「…いやぁ、済まなかった。喋れる仲間にあったのは数年ぶりでよぉ!興奮しちまった」

 ……?喋れる仲間…?
 喋れない仲間なんていないだろうに。
 喋る相手がいなかったと言いたいのかな?

「ん?その反応。あんた、下の研究施設出身か?あの、薄気味悪い男がいる場所の…」

 彼は薄気味悪くなどないが、下の研究施設と言えば、確かに僕たちの家がある場所で間違いないだろう。
 僕は無言で首を縦に振る。

「そうか、そうか…。俺もお前さんと一緒で、あそこから逃げて来た口なんだよ」
 …僕は逃げてきたわけじゃないけど…。
 と言うか、逃げる要素がない気がする。

「安心しろ!あの長い化け物を追い払える奴なら、この場所に敵はいないからな!」
 そう言って、男は僕の肩に腕を乗せてくる。
 長い化け物?ラッカの事を言っているのかな?
 確かに見た目は怖いかもしれないけど、悪い奴じゃ…。

「いやぁ。こちらとしても、アンタみたいな強者がいてくれると助かるんだが…」
 男の窺う様な視線。

「ちょっと待ってください!僕は強くなんてありませんよ?!それに!あっ…」

 男は「こまけぇ事は良いじゃねぇか」と言って僕の手を引っ張る。
 確かに、悪い人ではない。…悪い人ではないのだが…。

 エボニは彼に腕を引かれながら、何とも言えない顔をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、王太子であるアルス-アスカロンは記憶を取り戻す。 それは自分がゲームのキャラクターである悪役だということに。 気づいた時にはすでに物語は進行していたので、慌てて回避ルートを目指す。 そして、無事に回避できて望み通りに追放されたが……そこは山賊が跋扈する予想以上に荒れ果てた土地だった。 このままではスローライフができないと思い、アルスは己の平穏(スローライフ)を邪魔する者を排除するのだった。 これは自分が好き勝手にやってたら、いつの間か周りに勘違いされて信者を増やしてしまう男の物語である。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...