107 / 132
おいで。早く、おいで…。
第105話 ラッカと答え
しおりを挟む
「断る!」
私は緩んでしまった表情を必死に引き締めると、そう言い放った。
危ない。もう少しで、首を縦に振ってしまう所だった…。
内心、安堵の息をつき、自分のペースを取り戻そうと前を見る。
そこには、みるみる落ち込んでいく、エボニの表情。
またしても私の心は、大波乱を迎える結果となった。
「そんな顔をしても駄目だ!駄目ったら駄目だ!」
私は目を瞑ると頭を左右に振り、全力で拒絶の意を表す。
そうでもしないと、エボニの純粋な瞳に、心を打ち抜かれてしまいそうだったのだ。
「…なんで?僕が悪いことしたから?」
悲しそうなエボニの声が耳に響く。
「違う!エボニが悪いわけではない!私が!」
…私が。
次に続く言葉が出てこない。
私が、お前を食べたくて仕方がないからだ。
それだけを言えば、全てが終わると言うのに…。
だから私は「シャァぁ!」と彼の目の前で大きな口を開ける。
彼が怯んで逃げて行けばよいと思ったのだ。
「…怖くないよ」
エボニがどこか悲しげな顔で、その小さな前足を、私の顔に近づけてくる。
私はそれがとても怖かった。
彼が私に触れれば、壊してしまう様な気がして。
今までの毛玉たちの様に、食い殺してしまう気がして。
「あ!待って!ラッカ!」
背後から彼の叫び声が聞こえる。
私は結局、逃げ出したのだ。
優しいエボニ。
彼を壊してしまう事が、何よりも恐ろしかった。
近付けば近づくほどに、その恐怖は大きくなる。
温かさに触れた分。冷たくなった時を想像するのが恐ろしかったのだ。
それを自分の手で行ってしまうかもしれないと思うと、その恐怖は計り知れない。
こんなに彼を思っているのに。
こんなに恐怖しているのに。
こんなに悲しんでいるのに。
収まらない空腹感が私を苛立たせる。
自分ごと、腹の虫を殺してしまいたくなる。
…そんな勇気など、これっぽっちもないくせに。
そう考えると、全てがどうでも良くなってきた。
自分自身に呆れ果ててしまったのだ。
今まで散々怖がらせて追い返してきたエボニ。
そんな彼に恐怖し、逃げだした私。
そんな私自身が笑えて来るほどに、頭の中は空っぽだった。
…そうだ。このまま逃げてしまえば良いじゃないか。
エボニのいない世界でならば、私が悩むことも無い。
そうだ!そうしよう!それがいい!
チクッ。一瞬、胸が痛んだような気がした。
多分、気のせいだろう。
私は意識を集中させると、一心不乱に、闇の中を進んでいく。
彼の光が届かない程、深い闇を目指して…。
私は緩んでしまった表情を必死に引き締めると、そう言い放った。
危ない。もう少しで、首を縦に振ってしまう所だった…。
内心、安堵の息をつき、自分のペースを取り戻そうと前を見る。
そこには、みるみる落ち込んでいく、エボニの表情。
またしても私の心は、大波乱を迎える結果となった。
「そんな顔をしても駄目だ!駄目ったら駄目だ!」
私は目を瞑ると頭を左右に振り、全力で拒絶の意を表す。
そうでもしないと、エボニの純粋な瞳に、心を打ち抜かれてしまいそうだったのだ。
「…なんで?僕が悪いことしたから?」
悲しそうなエボニの声が耳に響く。
「違う!エボニが悪いわけではない!私が!」
…私が。
次に続く言葉が出てこない。
私が、お前を食べたくて仕方がないからだ。
それだけを言えば、全てが終わると言うのに…。
だから私は「シャァぁ!」と彼の目の前で大きな口を開ける。
彼が怯んで逃げて行けばよいと思ったのだ。
「…怖くないよ」
エボニがどこか悲しげな顔で、その小さな前足を、私の顔に近づけてくる。
私はそれがとても怖かった。
彼が私に触れれば、壊してしまう様な気がして。
今までの毛玉たちの様に、食い殺してしまう気がして。
「あ!待って!ラッカ!」
背後から彼の叫び声が聞こえる。
私は結局、逃げ出したのだ。
優しいエボニ。
彼を壊してしまう事が、何よりも恐ろしかった。
近付けば近づくほどに、その恐怖は大きくなる。
温かさに触れた分。冷たくなった時を想像するのが恐ろしかったのだ。
それを自分の手で行ってしまうかもしれないと思うと、その恐怖は計り知れない。
こんなに彼を思っているのに。
こんなに恐怖しているのに。
こんなに悲しんでいるのに。
収まらない空腹感が私を苛立たせる。
自分ごと、腹の虫を殺してしまいたくなる。
…そんな勇気など、これっぽっちもないくせに。
そう考えると、全てがどうでも良くなってきた。
自分自身に呆れ果ててしまったのだ。
今まで散々怖がらせて追い返してきたエボニ。
そんな彼に恐怖し、逃げだした私。
そんな私自身が笑えて来るほどに、頭の中は空っぽだった。
…そうだ。このまま逃げてしまえば良いじゃないか。
エボニのいない世界でならば、私が悩むことも無い。
そうだ!そうしよう!それがいい!
チクッ。一瞬、胸が痛んだような気がした。
多分、気のせいだろう。
私は意識を集中させると、一心不乱に、闇の中を進んでいく。
彼の光が届かない程、深い闇を目指して…。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~
【書籍化決定!】
本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました!
第1巻は10月下旬発売!
よろしくお願いします!
賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。
その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。
一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。
こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる