105 / 132
おいで。早く、おいで…。
第103話 エボニと頭の良さ
しおりを挟む
「今日もいない…か」
いつもなら、向こうから絡んでくるのだが…。
あの日以来、こちらから探しに行こうとも、ラッカの姿を見る事は出来なかった。
折角、こちらから歩み寄ったと言うのに、何が気に食わなかったのだろうか。
…何が気に食わなかったかなんて分からない。
なんせ、何故彼女が、僕を助けてくれたのかすら、分からないのだから。
僕は彼女の事を何も知らない。
始めは怖かった彼女。
そんな彼女はいつの間にか、好敵手になっていた。
それはきっと、彼女が本気じゃなかったからだろう。
つまり僕は、彼女に遊んでもらっていたわけだ。
頭が良いと思っていた僕は、結局、井の中の蛙だった。
彼女に相手をしてもらっていた事にも気づかなければ、最後に見せた悲しげな表情の意味すら、理解できないのだから。
彼女は何を考えていたのだろう。
彼女は今どこにいるのだろう。
そんな事を考えていると、大好物の液体も碌に喉を通らない。
静かな暗闇。
寂しくて、不安で…。いつもの風景が、ちょっぴり怖く映る。
僕は早々に家に帰ると、母さんの胸に飛び込んだ。
「あらあら、どうしたの?甘えんぼさん」
そう言う、母さんはとても温かかった。
兄弟たちの笑い声だって、悪い気はしない。
僕の居場所はここだ。そう思える。
…彼女には帰る家があるのだろうか?
ずっと、一人であの薄暗い世界にいるのではないだろうか?
それは…とっても嫌だ。
僕がそんな状況に置かれるのも、彼女がそんな場所に居続けていると考えるのも、心がチクチクとして嫌なのである。
でも、家から、家族から、知っている場所から離れるのは怖い。
あの静かな暗闇の先に向かったら、もう戻ってこれなくなってしまう。そんな気がするのだ。
…でも。それでも、最後に見せたラッカの悲しげな表情が頭から離れない。
「…僕。行ってくるよ」
僕は何も知らないであろう母さんに呟いた。
僕が行った所でどうなる問題ではないのかもしれない。
それどころか、迷惑をかけてしまうかもしれない。
それでも、僕は行きたかった。
何もできなくても、彼女の傍いたい。
これは僕の我儘だ。
「そう…頑張ってね。行ってらっしゃい」
全てを包み込むような優しい母さんも声。
僕は驚く。
何も知らないであろう母さんから、しっかりとした返事が返ってくるとは、思わなかったからだ。
そんな僕を母さんは、唯々、優しい表情で、見返してくる。
「やっぱり、母さんはすごいや」
ガラスの外にいる彼は、母さんを最優良個体と言っていた。
しかし、僕の言っている事は、そう言う事ではない。
「ふふふっ。当たり前でしょう。私は貴方のお母さんなんだから」
多分。お互いに何か意味を込めて、話している言葉ではない。
そんな、頭の悪い会話は、僕の心を優しく包み込んだ。
今なら、あの闇の先に向かえる気がする。
孤独と、不安の向こうから彼女を連れだせる気がするのだ。
…とか言って、彼女が元気そうだったら恥ずかしいなぁ…。
まぁ、それはそれで良いか。
「チュチュッ」
我ながら、頭の悪い思考に、笑いが零れる。
そうだ。いつだって、考えていても始まらないのだ。
行動あるのみ。
頭の悪い僕にはぴったりすぎて、またしても笑えて来る。
僕は家を後にすると、彼女を探しに向かった。
…彼女にあって、どうするかだって?
そんな事は分からない。
なんせ、僕の頭は悪いのだから。
いつもなら、向こうから絡んでくるのだが…。
あの日以来、こちらから探しに行こうとも、ラッカの姿を見る事は出来なかった。
折角、こちらから歩み寄ったと言うのに、何が気に食わなかったのだろうか。
…何が気に食わなかったかなんて分からない。
なんせ、何故彼女が、僕を助けてくれたのかすら、分からないのだから。
僕は彼女の事を何も知らない。
始めは怖かった彼女。
そんな彼女はいつの間にか、好敵手になっていた。
それはきっと、彼女が本気じゃなかったからだろう。
つまり僕は、彼女に遊んでもらっていたわけだ。
頭が良いと思っていた僕は、結局、井の中の蛙だった。
彼女に相手をしてもらっていた事にも気づかなければ、最後に見せた悲しげな表情の意味すら、理解できないのだから。
彼女は何を考えていたのだろう。
彼女は今どこにいるのだろう。
そんな事を考えていると、大好物の液体も碌に喉を通らない。
静かな暗闇。
寂しくて、不安で…。いつもの風景が、ちょっぴり怖く映る。
僕は早々に家に帰ると、母さんの胸に飛び込んだ。
「あらあら、どうしたの?甘えんぼさん」
そう言う、母さんはとても温かかった。
兄弟たちの笑い声だって、悪い気はしない。
僕の居場所はここだ。そう思える。
…彼女には帰る家があるのだろうか?
ずっと、一人であの薄暗い世界にいるのではないだろうか?
それは…とっても嫌だ。
僕がそんな状況に置かれるのも、彼女がそんな場所に居続けていると考えるのも、心がチクチクとして嫌なのである。
でも、家から、家族から、知っている場所から離れるのは怖い。
あの静かな暗闇の先に向かったら、もう戻ってこれなくなってしまう。そんな気がするのだ。
…でも。それでも、最後に見せたラッカの悲しげな表情が頭から離れない。
「…僕。行ってくるよ」
僕は何も知らないであろう母さんに呟いた。
僕が行った所でどうなる問題ではないのかもしれない。
それどころか、迷惑をかけてしまうかもしれない。
それでも、僕は行きたかった。
何もできなくても、彼女の傍いたい。
これは僕の我儘だ。
「そう…頑張ってね。行ってらっしゃい」
全てを包み込むような優しい母さんも声。
僕は驚く。
何も知らないであろう母さんから、しっかりとした返事が返ってくるとは、思わなかったからだ。
そんな僕を母さんは、唯々、優しい表情で、見返してくる。
「やっぱり、母さんはすごいや」
ガラスの外にいる彼は、母さんを最優良個体と言っていた。
しかし、僕の言っている事は、そう言う事ではない。
「ふふふっ。当たり前でしょう。私は貴方のお母さんなんだから」
多分。お互いに何か意味を込めて、話している言葉ではない。
そんな、頭の悪い会話は、僕の心を優しく包み込んだ。
今なら、あの闇の先に向かえる気がする。
孤独と、不安の向こうから彼女を連れだせる気がするのだ。
…とか言って、彼女が元気そうだったら恥ずかしいなぁ…。
まぁ、それはそれで良いか。
「チュチュッ」
我ながら、頭の悪い思考に、笑いが零れる。
そうだ。いつだって、考えていても始まらないのだ。
行動あるのみ。
頭の悪い僕にはぴったりすぎて、またしても笑えて来る。
僕は家を後にすると、彼女を探しに向かった。
…彼女にあって、どうするかだって?
そんな事は分からない。
なんせ、僕の頭は悪いのだから。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
楽園の天使
飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。
転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。
何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。
やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。
全14話完結。
よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる