100 / 132
おいで。早く、おいで…。
第98話 セッタと救世主な少女
しおりを挟む
「えへへっ…メグルぅ~」
メグルにプレゼントしてもらった人形とお話しする母さん。
その視線はお人形に夢中だった。
こちらにもちゃんと反応してくれる。ご飯も料理して食べてくれる。
…ただ、人形を片時も放さず、メグルと接するように話し続けているのは、目の毒だった。
と言っても、阿保二人組。元い、ビーグと、コッカ―以外は皆、沈みがちである。
因みに、ビーグ曰く「メグルもシバも生きてるんでしょ?だったら問題ないじゃん!」との事。
コッカ―も「生きてるなら何とかなるさ!俺らは俺らのできる事をしようぜ!…まずは、二人を悲しませないために、思いっきり楽しまなきゃな!」と、言って、いつも通り、はしゃいでいるのである。
彼らがいるおかげで、空気が沈み切らないのは感謝しているが…。
どうしてあそこまで楽観的にいられるのだろうか。
羨ましい限りである。
それはさておき、家の中で一番重症なのは、見ての通り母さんだ。
「あ、なにするのよ、セッタ~」
首根っこを咥える私に、母さんは甘い声で返してきた。
まるで幼児後退である。
まぁ、私も甘える時はあるが、流石に、四六時中こうではない。
加えて、母さんの心が弱っている姿なんて、見た事がなかった。
無敵だと思っていた母さんが、ここまで壊れてしまうと、私も戸惑ってしまう。
兎にも角にも、そんな母さんを咥え、外まで引きずりだした。
今し方、現れた訪問者に、会わせる為だ。
特に抵抗なく運び出された母さんは、私が口を離すと、その場にバタンと倒れ込んでしまう。
「うわぁ~。やられた~。起こしてぇ~」
そう言って両手を伸ばす母さん。
幼児後退、ここに至れり。と言った風貌に、訪問者は目を丸くし、私は溜息を吐いた。
「これは…。酷いわね」
地面に転がる母さんの顔を覗き込んだ訪問者。
黒髪の彼女は私達を闇から救ってくれた者だ。
その小さな身で、多彩な魔法を操り、途轍もない量の魔力をその内に秘めている。
「で、アンタらは、あの子を守れなかったどころか、こいつを私にどうにかして欲しいと…」
彼女に鋭い視線で睨まれ、私は怯んでしまう。
あの魔力の量は反則だ。
魔力を感じ取れる者であれば、その迫力だけで足がすくんでしまう。
「…わぁ~ったよ。やれるだけやってみんから、そんな目で見るな」
少女はそう言うと、母さんに視線を戻す。
如何やら引き受けてくれるらしい。
良かった…。
「おい、お前さんよぉ」
少女が、地面に横たわる母さんに睨みつけた。
母さんはきょとんとした顔で、首を傾げる。
…本当に良かったのだろうか。
早くも心配になってきた。
「!?」
少女は母さんの腕から人形を取り上げた。
場の空気が凍り付く。
「こんなお人形さんで、遊んでないでよぉ。本物のメグルでも探しに行ったらどうだ?」
そんな場の空気を、更に凍り付かせるような発言を続ける彼女。
母さんの左腕が振り下ろされるもの無理のない事だろう。
しかし、そんな母さんの腕も、見えない壁によって簡単に止められてしまった。
「あぁ、そうか。探しに行くも何も、捨てられたのは、お前さんの方だったか」
そこからは母さんの猛攻が始まった。
しかし、少女は一歩も動かず、続ける。
「そうだ!暴れろ暴れろ!無駄に暴れて、疲れ果てちまいな!そのまま、メグルが死んで行くのを口に指をくわえながら待ってればいいさ!」
そこで、母さんの猛攻が止まる。
私も、聞き捨てならないその台詞に、少女を睨む。
「おおっと、私が彼をどうにかしようとしてるんじゃねぇぜ?じゃなきゃ、アンタらなんて助けてないだろうよ。…でもな、メグルを連れて行ったその女。間違いなく、あいつを殺すぜ?」
…そんな雰囲気には見えなかったが…。
でも、確かに、妙な点は多かった。
シバをだしに、無意味な殺戮をメグルに強要した事。
メグルを煽り、惑わせたりするような言動をした事。
私は見ていないが、最後にはメグルを連れ去ってしまった事。
まるでメグルを誘導しているようだった。
もしそれが本当なら…。
「その通りだぜ、わんこちゃん」
そう言って彼女は私を見る。
如何やら、わんこちゃんと言うのは私の事らしい。
わんこちゃんと言うものが何なのかは分からないが、彼女は私の心が読めているのか?
「あぁ、手に取る様に読めるぜ。…と、まぁ、この際、そんな話はどうでも良いだろう。あの女はメグルの命を使って、とある封印を解こうとしている。…もたもたしてっと」
彼女はそこまで言うと、親指を立て、自身の首の前で一線を描いた。
「こちとら、準備があるんでな。14日後に迎えに来る。そん時までに決めときな」
そう言うと、彼女は人形を地面に放り捨て、去って行った。
まるで嵐のような子だ。
私達が踏み入れられない部分を全力で踏みにじる。
それがどれだけ難しい事か、私は最近の一件で、良く分かった。
それが、相手の事を思ってなら、なおさらだ。
彼女は、強い。私なんかよりもずっと…。
母さんは急いでその人形を拾うと、ギュッと無言で抱きしめる。
その横顔に、もう幼さは無かった。
メグルにプレゼントしてもらった人形とお話しする母さん。
その視線はお人形に夢中だった。
こちらにもちゃんと反応してくれる。ご飯も料理して食べてくれる。
…ただ、人形を片時も放さず、メグルと接するように話し続けているのは、目の毒だった。
と言っても、阿保二人組。元い、ビーグと、コッカ―以外は皆、沈みがちである。
因みに、ビーグ曰く「メグルもシバも生きてるんでしょ?だったら問題ないじゃん!」との事。
コッカ―も「生きてるなら何とかなるさ!俺らは俺らのできる事をしようぜ!…まずは、二人を悲しませないために、思いっきり楽しまなきゃな!」と、言って、いつも通り、はしゃいでいるのである。
彼らがいるおかげで、空気が沈み切らないのは感謝しているが…。
どうしてあそこまで楽観的にいられるのだろうか。
羨ましい限りである。
それはさておき、家の中で一番重症なのは、見ての通り母さんだ。
「あ、なにするのよ、セッタ~」
首根っこを咥える私に、母さんは甘い声で返してきた。
まるで幼児後退である。
まぁ、私も甘える時はあるが、流石に、四六時中こうではない。
加えて、母さんの心が弱っている姿なんて、見た事がなかった。
無敵だと思っていた母さんが、ここまで壊れてしまうと、私も戸惑ってしまう。
兎にも角にも、そんな母さんを咥え、外まで引きずりだした。
今し方、現れた訪問者に、会わせる為だ。
特に抵抗なく運び出された母さんは、私が口を離すと、その場にバタンと倒れ込んでしまう。
「うわぁ~。やられた~。起こしてぇ~」
そう言って両手を伸ばす母さん。
幼児後退、ここに至れり。と言った風貌に、訪問者は目を丸くし、私は溜息を吐いた。
「これは…。酷いわね」
地面に転がる母さんの顔を覗き込んだ訪問者。
黒髪の彼女は私達を闇から救ってくれた者だ。
その小さな身で、多彩な魔法を操り、途轍もない量の魔力をその内に秘めている。
「で、アンタらは、あの子を守れなかったどころか、こいつを私にどうにかして欲しいと…」
彼女に鋭い視線で睨まれ、私は怯んでしまう。
あの魔力の量は反則だ。
魔力を感じ取れる者であれば、その迫力だけで足がすくんでしまう。
「…わぁ~ったよ。やれるだけやってみんから、そんな目で見るな」
少女はそう言うと、母さんに視線を戻す。
如何やら引き受けてくれるらしい。
良かった…。
「おい、お前さんよぉ」
少女が、地面に横たわる母さんに睨みつけた。
母さんはきょとんとした顔で、首を傾げる。
…本当に良かったのだろうか。
早くも心配になってきた。
「!?」
少女は母さんの腕から人形を取り上げた。
場の空気が凍り付く。
「こんなお人形さんで、遊んでないでよぉ。本物のメグルでも探しに行ったらどうだ?」
そんな場の空気を、更に凍り付かせるような発言を続ける彼女。
母さんの左腕が振り下ろされるもの無理のない事だろう。
しかし、そんな母さんの腕も、見えない壁によって簡単に止められてしまった。
「あぁ、そうか。探しに行くも何も、捨てられたのは、お前さんの方だったか」
そこからは母さんの猛攻が始まった。
しかし、少女は一歩も動かず、続ける。
「そうだ!暴れろ暴れろ!無駄に暴れて、疲れ果てちまいな!そのまま、メグルが死んで行くのを口に指をくわえながら待ってればいいさ!」
そこで、母さんの猛攻が止まる。
私も、聞き捨てならないその台詞に、少女を睨む。
「おおっと、私が彼をどうにかしようとしてるんじゃねぇぜ?じゃなきゃ、アンタらなんて助けてないだろうよ。…でもな、メグルを連れて行ったその女。間違いなく、あいつを殺すぜ?」
…そんな雰囲気には見えなかったが…。
でも、確かに、妙な点は多かった。
シバをだしに、無意味な殺戮をメグルに強要した事。
メグルを煽り、惑わせたりするような言動をした事。
私は見ていないが、最後にはメグルを連れ去ってしまった事。
まるでメグルを誘導しているようだった。
もしそれが本当なら…。
「その通りだぜ、わんこちゃん」
そう言って彼女は私を見る。
如何やら、わんこちゃんと言うのは私の事らしい。
わんこちゃんと言うものが何なのかは分からないが、彼女は私の心が読めているのか?
「あぁ、手に取る様に読めるぜ。…と、まぁ、この際、そんな話はどうでも良いだろう。あの女はメグルの命を使って、とある封印を解こうとしている。…もたもたしてっと」
彼女はそこまで言うと、親指を立て、自身の首の前で一線を描いた。
「こちとら、準備があるんでな。14日後に迎えに来る。そん時までに決めときな」
そう言うと、彼女は人形を地面に放り捨て、去って行った。
まるで嵐のような子だ。
私達が踏み入れられない部分を全力で踏みにじる。
それがどれだけ難しい事か、私は最近の一件で、良く分かった。
それが、相手の事を思ってなら、なおさらだ。
彼女は、強い。私なんかよりもずっと…。
母さんは急いでその人形を拾うと、ギュッと無言で抱きしめる。
その横顔に、もう幼さは無かった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。
辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
異世界大使館はじめます
あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?!
チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。
不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。
作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。
カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416
一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170
同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる