Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
94 / 132
むかえに来たよ。

第92話 ベルガモットと憔悴のコラン

しおりを挟む
「リリー…どこなの?出てきて。リリー…」
 ふらふらと、今にもどこかへ消えて行ってしまいそうな、コラン。
 僕はその腕をしっかりと掴んで、誘導する。

 その脇を、何か考えるような仕草をするソフウィンド。幸せそうな表情で、コランに抱き着くビリアが取り囲んでいた。

 まぁ、相棒を持ったコランが本気を出せば、僕達が何人いようが、何をしようが無駄な抵抗ではあるのだが…。

 ただ、数日間、森の中を駆けずり回ったコランは、もう、本気を出す気力も、体力もないように見える。

 時折、あらぬ方向へ歩いて行こうとするのだが、僕が腕を引くだけで、その体は簡単に引き戻された。

「…大丈夫ですか?」
 僕に引っ張らっれた勢いで倒れそうになったコランを、ソフウィンドが支える。

 こんなに弱々しいコランを見たのは初めてだった。
 心がチクチクする。

 とは言え、また、体力が回復すれば何をしだすか分からない。
 申し訳ないが、コランには地下牢にまでご同行願った。

「良いな?お前は落ち着くまでここに居るんだぞ?」
 牢の中にまで、抵抗なく誘導されたコラン。
 彼女のよどんだ眼を見て、話をするが、反応は全く返ってこなかった。

「…その薙刀。預かるからな」
 僕の声に、ピクリとコランが反応する。

 その表情を見るに、怯えている様だった。
 リリーが失踪しっそうしてから、初めて返ってきた反応がこれだと言うのだから、少し悲しくなってしまう。

 コランはもっと阿保で、元気で、阿保で、明るくて、阿保だけど、優しくて…。
 僕達を信頼してくれていると思っていたのに…。

「はぁ…。調子狂うぜ」
 僕は頭をきながら、コランに詰め寄った。

「い、いや!あっち行って!」
 コランは薙刀を抱き抱えながら、逃げる様に、後退あとずさりしていく。
 しかし、それも長くは続かず、ぐに、牢のすみに追いやられてしまった。

「…悪いな。コラン」
 コランが大事そうに抱える薙刀を、僕は奪う。
 そうでもしないと、この牢であっても、破壊して脱走してしまうだろうから…。

「ダメ!返して!」
 コランが必死の形相ぎょうそうで掴みかかってくる。

 しかし、その力は想像以上に弱かった。
 …これがコランの全力だとは思いたくなかった。

「大丈夫ですよ。姉様。私がついていますからね…」
 ビリアが暴れるコランを優しく抑え込む。
 頬を紅潮させ、息を荒くし、よだれを垂らしそうになっているが…。
 今は目を瞑ろう。

「悪い…。二人とも。後は頼んだ」
 僕がここにいても、コランを刺激するだけだ。
 二人に後を任せると牢を出る。

「返せぇえええ!返せぇえええ!」
 最後まで、コランの物とは思えない、憎悪に満ちた叫びが響いていた。

 そのせいか、頭が痛くなってくる。
 コランを追いかけまわして、僕も疲れているのだろうか? 

 カラン。
 不意に眩暈めまいがして、僕は薙刀を取りこぼしてしまう。
 すると、少し体が楽になった気がした。

「…」
 僕はもう一度、薙刀を持つ。
 …やはり、気分が悪くなった。

 何かこの薙刀には秘密があるのかもしれない。
 …その秘密が分かれば僕も強くなれるのだろうか?
 今のコランを救ってあげられるのだろうか?

 試しに薙刀を振ってみれば、僕の体とは思えない程の速度で腕が振るわれた。
 僕は吐き気をこらえ、薙刀をぎゅっと握る。

 これさえあれば!

 暗転。
 そこで僕の意識は途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)

おいなり新九郎
ファンタジー
 ハラスメント、なぜだかしたりされちゃったりする仕事場を何とか抜け出して家に帰りついた俺。帰ってきたのはいいけれど・・・。ずっと閉じ込められて開く異世界へのドア。ずっと見せられてたのは、俺がいなくても回るという世界の現実。あーここに居るのがいけないのね。座り込むのも飽きたし、分かった。俺、出ていくよ。その異世界って、また俺の代わりはいくらでもいる世界かな? 転生先の世界でもケガで職を追われ、じいちゃんの店に転がり込む俺・・・だけど。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

二次ヒーロー. 私の親友は主人公の女性で、彼女が私を別の世界に引きずり込み、私は脇役になりました。

RexxsA
ファンタジー
私の名前はアレックス・ササキ。危機に瀕した世界を救うために友人とともに召喚されました。 しかし、この物語では親友のエミが主人公であり、私はドラマからは距離を置く脇役に過ぎません。 目立ちたくない私とは裏腹に、恵美はいつも私を問題に巻き込んでしまう。 私の能力は決して素晴らしいものではありません。私が成功の背後にあることを誰にも知られずに、周りの人たちを強化し、障害を克服するために必要な後押しを与えることができます。 エミが壮大な戦いや課題に直面している間、私は影に残り、脚光を浴びることなく意図せず手伝い

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...