Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
93 / 132
むかえに来たよ。

第92話 ベルガモットと憔悴のコラン

しおりを挟む
「リリー…どこなの?出てきて。リリー…」
 ふらふらと、今にもどこかへ消えて行ってしまいそうな、コラン。
 僕はその腕をしっかりと掴んで、誘導する。

 その脇を、何か考えるような仕草をするソフウィンド。幸せそうな表情で、コランに抱き着くビリアが取り囲んでいた。

 まぁ、相棒を持ったコランが本気を出せば、僕達が何人いようが、何をしようが無駄な抵抗ではあるのだが…。

 ただ、数日間、森の中を駆けずり回ったコランは、もう、本気を出す気力も、体力もないように見える。

 時折、あらぬ方向へ歩いて行こうとするのだが、僕が腕を引くだけで、その体は簡単に引き戻された。

「…大丈夫ですか?」
 僕に引っ張らっれた勢いで倒れそうになったコランを、ソフウィンドが支える。

 こんなに弱々しいコランを見たのは初めてだった。
 心がチクチクする。

 とは言え、また、体力が回復すれば何をしだすか分からない。
 申し訳ないが、コランには地下牢にまでご同行願った。

「良いな?お前は落ち着くまでここに居るんだぞ?」
 牢の中にまで、抵抗なく誘導されたコラン。
 彼女のよどんだ眼を見て、話をするが、反応は全く返ってこなかった。

「…その薙刀。預かるからな」
 僕の声に、ピクリとコランが反応する。

 その表情を見るに、怯えている様だった。
 リリーが失踪しっそうしてから、初めて返ってきた反応がこれだと言うのだから、少し悲しくなってしまう。

 コランはもっと阿保で、元気で、阿保で、明るくて、阿保だけど、優しくて…。
 僕達を信頼してくれていると思っていたのに…。

「はぁ…。調子狂うぜ」
 僕は頭をきながら、コランに詰め寄った。

「い、いや!あっち行って!」
 コランは薙刀を抱き抱えながら、逃げる様に、後退あとずさりしていく。
 しかし、それも長くは続かず、ぐに、牢のすみに追いやられてしまった。

「…悪いな。コラン」
 コランが大事そうに抱える薙刀を、僕は奪う。
 そうでもしないと、この牢であっても、破壊して脱走してしまうだろうから…。

「ダメ!返して!」
 コランが必死の形相ぎょうそうで掴みかかってくる。

 しかし、その力は想像以上に弱かった。
 …これがコランの全力だとは思いたくなかった。

「大丈夫ですよ。姉様。私がついていますからね…」
 ビリアが暴れるコランを優しく抑え込む。
 頬を紅潮させ、息を荒くし、よだれを垂らしそうになっているが…。
 今は目を瞑ろう。

「悪い…。二人とも。後は頼んだ」
 僕がここにいても、コランを刺激するだけだ。
 二人に後を任せると牢を出る。

「返せぇえええ!返せぇえええ!」
 最後まで、コランの物とは思えない、憎悪に満ちた叫びが響いていた。

 そのせいか、頭が痛くなってくる。
 コランを追いかけまわして、僕も疲れているのだろうか? 

 カラン。
 不意に眩暈めまいがして、僕は薙刀を取りこぼしてしまう。
 すると、少し体が楽になった気がした。

「…」
 僕はもう一度、薙刀を持つ。
 …やはり、気分が悪くなった。

 何かこの薙刀には秘密があるのかもしれない。
 …その秘密が分かれば僕も強くなれるのだろうか?
 今のコランを救ってあげられるのだろうか?

 試しに薙刀を振ってみれば、僕の体とは思えない程の速度で腕が振るわれた。
 僕は吐き気をこらえ、薙刀をぎゅっと握る。

 これさえあれば!

 暗転。
 そこで僕の意識は途絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

楽園の天使

飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。 転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。 何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。 やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。 全14話完結。 よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

処理中です...