Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
87 / 132
むかえに来たよ。

第86話 リリーと願い

しおりを挟む
 いつも私は、メグルのくれた本を読んで色々な物を作っている。

 そうなると、本を見ながら作業する事が多くなり、本を汚してしまうのではないかと心配だった。

 丁度、コランも本に書いてある、魔法とやらが使えそうだという事で、部屋の外に本を持ち出したいと言っていたのだ。

 本を汚すのは嫌だ。
 それでも本は使いたい。
 そうなれば、写しをとろうと思うのは当然の行動だった。

 どうせ、写しをとるなら、外装も同じものにしたい。
 これは二人に共通した思いだった。
 その方が、メグルと一緒に居られる気がする。

「メグル…」
 私は胸元のペンダントを優しく握る。
 金属のそれは、冬の空気に触れ、冷たくなっていた。

 あの時メグルは、私達を逃がすために囮になった。

 彼なら大丈夫。
 そんな言葉を軽々しく口にできる相手ではなかった。

 メグルは生きているかもしれなし、死んでいるかもしれない。

 生きていれば万々歳だ。
 その時は盛大にお祝いをしよう。

 きっと、今磨いている料理の腕が役立つはずだ。
 それに家事スキルも、後々必要になってくるだろう。
 なんせ、メグルの面倒を見るのは私の仕事なのだから。

 でも、そうでなかった場合。
 死んでしまっていた場合。

 …私は聞いた事がある。
 教会が死者を復活させる秘術を持っていると。
 その秘術を盗み出すことができれば、メグルは帰ってくるのだ。

 最初は半信半疑だった。
 でも、メグルの本に書かれていた魔法という不思議な存在。
 それは本当に、死者をも蘇らせてしまいそうだった。

 教会についてはメグルの本にも書いてあった。
 どれだけ汚い奴らなのか、憎しみを込めて書かれていたのだ。
 そして、如何やら私もその被害者のようだった。

 私は奴らの欲する者になりきって、懐に潜入する予定だ。
 秘術を取得した後には教会をめちゃくちゃにしてやる。

 勿論、この予定はコランには内緒だ。
 絶対、止めるに決まっている。
 それにコランは教会の汚い部分や秘術についても何も知らないのだ。

 …知らない方が良い。
 私は汚い世界で育ってきた。
 だから、今更汚れたって、どうなる問題でもないのだ。

 でも、コランは違う。
 皆に愛されて、皆を愛して生きてきた。
 これからも綺麗なままでいて欲しい。
 心からの笑顔で笑い続けて欲しい。

 だから、コランの本にも汚い部分は写さない。
 全部秘密。
 汚い事は全部私がして、コランはここで幸せに暮らせば良いのだ。

 全てが終わった後に迎えに来る。
 …まぁ、その時はコランの口から小言の嵐が吹き荒れるだろうが…。

「…よし」
 私はペンダントから手を離すと、作業に戻る。

 冷たくなっていたペンダントは、優しい彼女の体温で温められていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

名無し令嬢の身代わり聖女生活

音無砂月
ファンタジー
※タイトル変更:名無しの妹は嫌われ聖女の身代わり アドリス公爵家は代々、光の魔法を使う聖女の家系 アドリス家に双子の女の子が生まれた。一人は聖女の家系に相応しい魔力を有し、アニスと名付けられた。 一人は魔力が少ない、欠陥品として名前をつけられず、万が一のスペアとして生かされた。 アニスは傲慢で我儘な性格だった。みんなから嫌われていた。そんなアニスが事故で死んだ。 聖女の家系として今まで通り権威を振るいたいアドリス公爵家は残った妹にアニスの身代わりをさせた。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

処理中です...