Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

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むかえに来たよ。

第83話 ジャグランと平和な内部分裂

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「今日もリリーちゃんの作った料理はうまいねぇ!」
 食堂で料理を配っているリリーに手下どもの一人が声を掛けていた。

「ありがとうございます」
 リリーはそれに笑顔で答える。

 コランによると、昔、リリーは賊にとらわれていたことがあるらしいのだが…。
 そんな事は一切感じさせられなかった。

「…それにしても、うめぇな」
 俺はリリーが作ったという料理を食べながらそう呟いた。

 なんでも、秘伝のレシピがあるらしい。
 全く教えてくれる気はないようだが、こうやって料理を振る舞ってくれるので、文句はない。

「悪かったね。私達の料理がゲロまずで」
 そう言って、いつの間にやら背後にいたソムニが、俺の肩に腕を乗せてくる。

「いや、お前らの料理が不味い訳じゃねぇんだけどよ…」
 俺は振り返り、かさずフォローする。

「はぁ~…。あんたが皮肉を言わずに、フォローするほど、料理のレベルに差があるのは分かってるよ」
 そう言うと、最後にもう一度大きな溜息を吐いて、ソムニが俺の隣に座った。

「家事は完璧。料理は美味いし、洗濯には石鹸。とか言うのもを使い始めた。あの子はすごいねぇ…」
 ソムニはそんな事を言いながら、俺の分の飯を摘み「旨いねぇ~」と、呟いた。

「それに比べて、姉貴の方は駄目駄目だね。家事が全くできない。というかやる気すらない」
 そう言って、再び俺の食事に手を伸ばそうとする。

「おい、これは、俺んだ。自分の分を食え」
 俺はその手を叩き落とすと「それとな…」と、続けた。

「コランはすげぇぜ。多分、この森で相手になる獣はいねぇ。大喰らいですら、単身無傷で狩れっちまう。その肉と、毛皮のおかげで俺たちは危険を冒してまで山賊家業をしなくてよくなった」
 正直、あの強さは人間の域を越えていると、俺は思う。
 相棒とやらを持っている時は勿論、この頃は相棒を持たなくても、俺らは勝てなくなった。

 毎朝早くに起きて自主訓練。
 ご飯休憩を終え、俺らと訓練。午後は山に籠って訓練だ。
 そのスケジュールはおろか、訓練内容すら、常人の域を超えている。

 俺はなして、崩して、隙を見て。の心得で、何とか、相棒を持たないコランに勝てている状況だ。
 日に日に強くなる力に、戦闘技術まで付いてくれば最早もはや、敵はいないだろう。

「何言ってんだい。解体も料理も家事さえも、リリーが全部やってんだ。コランは一人の戦力としては一番かもしれないけどね…。集団としちゃ、リリーの方が優秀に決まってんだろ?」
 確かに、リリーの存在はとても重要だ。
 その容姿だけで、手下どもの士気は上がる。
 その上、胃袋を掴まれるのには圧倒的に弱いのだ。

 洗濯物も良い匂いがするし、夜、ふかふかの布団に飛び込む瞬間は至極の時間になりつつある。
 士気と言うものが、集団にどれ程重要か、ソムニは分かっているのだろう。

「いや、そうであったとしてもコランという戦闘力は大きい。それにな、この頃は手下どもと訓練してるんだ。コランは強さと、男勝りな性格で、結構人気があるんだぜ?それに、年下の、加えて、女に負けてられねぇ。って事で、手下どもの士気も高まっている。コラン自身も成長しているしな…。どうだ?凄いだろ?」
 俺はドヤ顔で返してやる。
 すると、ソムニは「ふ~ん」と言って、俺を睨んできた。

「本当に、アンタは負けず嫌いだね」
「あぁ?そいう問題じゃねぇだろ。コランがどれだけ凄いかって話だ」
 俺も、ソムニを睨み返す。

「そうかい、そうかい…。じゃあ、皆に聞いてみるって言うのはどうだい?」
 確かに、このままではらちが明かない。

「そいつは良い提案だ。吠え面かくなよ、ソムニ」
 俺は挑発気味にソムニを睨みつける。

「そりゃ、こっちの台詞さね!」
 今ここに、リリー派、コラン派の勢力が生まれた。

 本人たちが仲良く、食事をしている、その横で。
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