Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
84 / 132
むかえに来たよ。

第83話 ジャグランと平和な内部分裂

しおりを挟む
「今日もリリーちゃんの作った料理はうまいねぇ!」
 食堂で料理を配っているリリーに手下どもの一人が声を掛けていた。

「ありがとうございます」
 リリーはそれに笑顔で答える。

 コランによると、昔、リリーは賊にとらわれていたことがあるらしいのだが…。
 そんな事は一切感じさせられなかった。

「…それにしても、うめぇな」
 俺はリリーが作ったという料理を食べながらそう呟いた。

 なんでも、秘伝のレシピがあるらしい。
 全く教えてくれる気はないようだが、こうやって料理を振る舞ってくれるので、文句はない。

「悪かったね。私達の料理がゲロまずで」
 そう言って、いつの間にやら背後にいたソムニが、俺の肩に腕を乗せてくる。

「いや、お前らの料理が不味い訳じゃねぇんだけどよ…」
 俺は振り返り、かさずフォローする。

「はぁ~…。あんたが皮肉を言わずに、フォローするほど、料理のレベルに差があるのは分かってるよ」
 そう言うと、最後にもう一度大きな溜息を吐いて、ソムニが俺の隣に座った。

「家事は完璧。料理は美味いし、洗濯には石鹸。とか言うのもを使い始めた。あの子はすごいねぇ…」
 ソムニはそんな事を言いながら、俺の分の飯を摘み「旨いねぇ~」と、呟いた。

「それに比べて、姉貴の方は駄目駄目だね。家事が全くできない。というかやる気すらない」
 そう言って、再び俺の食事に手を伸ばそうとする。

「おい、これは、俺んだ。自分の分を食え」
 俺はその手を叩き落とすと「それとな…」と、続けた。

「コランはすげぇぜ。多分、この森で相手になる獣はいねぇ。大喰らいですら、単身無傷で狩れっちまう。その肉と、毛皮のおかげで俺たちは危険を冒してまで山賊家業をしなくてよくなった」
 正直、あの強さは人間の域を越えていると、俺は思う。
 相棒とやらを持っている時は勿論、この頃は相棒を持たなくても、俺らは勝てなくなった。

 毎朝早くに起きて自主訓練。
 ご飯休憩を終え、俺らと訓練。午後は山に籠って訓練だ。
 そのスケジュールはおろか、訓練内容すら、常人の域を超えている。

 俺はなして、崩して、隙を見て。の心得で、何とか、相棒を持たないコランに勝てている状況だ。
 日に日に強くなる力に、戦闘技術まで付いてくれば最早もはや、敵はいないだろう。

「何言ってんだい。解体も料理も家事さえも、リリーが全部やってんだ。コランは一人の戦力としては一番かもしれないけどね…。集団としちゃ、リリーの方が優秀に決まってんだろ?」
 確かに、リリーの存在はとても重要だ。
 その容姿だけで、手下どもの士気は上がる。
 その上、胃袋を掴まれるのには圧倒的に弱いのだ。

 洗濯物も良い匂いがするし、夜、ふかふかの布団に飛び込む瞬間は至極の時間になりつつある。
 士気と言うものが、集団にどれ程重要か、ソムニは分かっているのだろう。

「いや、そうであったとしてもコランという戦闘力は大きい。それにな、この頃は手下どもと訓練してるんだ。コランは強さと、男勝りな性格で、結構人気があるんだぜ?それに、年下の、加えて、女に負けてられねぇ。って事で、手下どもの士気も高まっている。コラン自身も成長しているしな…。どうだ?凄いだろ?」
 俺はドヤ顔で返してやる。
 すると、ソムニは「ふ~ん」と言って、俺を睨んできた。

「本当に、アンタは負けず嫌いだね」
「あぁ?そいう問題じゃねぇだろ。コランがどれだけ凄いかって話だ」
 俺も、ソムニを睨み返す。

「そうかい、そうかい…。じゃあ、皆に聞いてみるって言うのはどうだい?」
 確かに、このままではらちが明かない。

「そいつは良い提案だ。吠え面かくなよ、ソムニ」
 俺は挑発気味にソムニを睨みつける。

「そりゃ、こっちの台詞さね!」
 今ここに、リリー派、コラン派の勢力が生まれた。

 本人たちが仲良く、食事をしている、その横で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

楽園の天使

飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。 転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。 何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。 やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。 全14話完結。 よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...