83 / 132
むかえに来たよ。
第82話 ベルガモットと姉妹の日常
しおりを挟む
あぁ…!寒っ!
吐く息は白く、日が昇りかけた世界には靄がかかっている。
まさに冬の朝という感じだった。
僕は服のポケットに手を突っ込み、身を縮ませる。
「コランさん!昨日また私のベットに潜り込みましたね!涎、垂らすんだからやめてください!」
「えへへへぇ…。ごめん」
外に出ると朝っぱらからリリーにコランが叱られていた。
コランは袖や裾の短い服を着て、額には汗を流している。
朝は一段と冷えると言うのに、よくあんな格好で動けるものだ。
コランの脇には、彼女が相棒と呼んでいる薙刀がある。
きっと、いつも通り、特訓とやらをしていたのだろう。
リリーは「もう!」と言いながら、手に持っていた洗濯籠からタオルを取り出す。
そして、そのタオルをコランの顔に、強引に布を押し付け、彼女の汗を拭いた。
コランは「うわぁあああ」と、棒読みな悲鳴を上げ、なされるがままである。
「ほら!ふざけてないで、自分で拭いてください!」
そう言われたコランは「はぁ~い」と、気の無い返事を返し、タオルを受け取る。
まるで親子のようだった。
どちらがどちらとは言わないが。
因みに、リリーは家の家事全般を手伝ってくれている。
今日は天気が良さそうなので、朝から洗濯物を洗っていたのだろう。
…この寒い中、水仕事なんて、僕には無理だ…。
「あ!おはよ~!ベル」
こちらに気が付いたコランが、片手をあげて振ってくる。
「おはようございます。ベルガモットさん」
それに釣られて、こちらを向いたリリーは深々とお辞儀をしてくる。
「おはよ。二人とも」
僕はポケットから手を出す気にはなれず、身を縮めたまま、お辞儀を返した。
「今日も寒いですね」
手を真っ赤にしたリリーが言う。
朝の水は身を切るほど、冷たかっただろうに。
「そう?私はこれぐらいがちょうど良いけど」
汗を拭きながら相槌を打つコラン。
そんなコランを、僕とリリーはジト目で睨む。
それはお前だけだ。と。
或いは、黙れ、筋肉馬鹿。かも知れない。
「朝から悪いな。リリー。洗濯籠、持つよ」
僕はポケットから手を抜き出すと、彼女の手から洗濯籠を奪った。
了承などは得ない。
彼女が遠慮する事を僕はこの数十日間でしっかりと学んだのだ。
洗濯籠を奪う一瞬。彼女の冷たい指が、僕の手に触れる。
氷のようだと、心配になってしまうほどだった。
「あっ」
驚いたように声を上げるリリーだが、不満そうな顔をする事は無い。
それどころか「ありがとうございます」と最高の笑みを返してくれるのだ。
僕はそれが嬉しくなって「気にしないで」と答える。
「じゃあ、私はもうちょっと体動かしたら、食堂に行くね~」
相手にされずに、飽きたのか、コランは相棒を担いで森の中に消えて行く。
きっと、今日も獣を狩ってきてくれるのだろう。
「コランはすごいよな。一人で大喰らいを狩ってきちまうんだから」
コランの消えて行った方向に目をやりながら、僕はそう呟く。
「家の馬鹿姉さまは、力だけが取り柄ですからね」
リリーは呆れたように呟く。
コランの前では頑なに姉さんと呼ばないのに…。
こういう所で、ポロッと零すところ、しっかりと認めてはいるんだろうな。
僕はそう思いながらも、口には出さない。
顔を赤くするリリーは可愛いのだが、数日間、口を利かれなくなるのは、ショックが大きいからである。
「僕も、もう行くよ。これ、いつもの場所に干しておけば良いんでしょ?」
僕はリリーの方に顔だけを向けて聞く。
「はい、お願い致します」
リリーは腰を折って深々と頭を下げる。
もう慣れたので指摘はしないが、そんなにしなくても…。とは思う。
「では、私は一足先に食堂へ向かっていますね」
そう言うとリリーは家の中へと消えて行く。
「うん!今日の料理も期待してるからね!」
僕は手を振り、彼女を見送った。
「さて!行きますか!」
僕は洗濯籠をしっかり持つと、歩き始める。
これが、僕とデコボコ姉妹の新しい日常だった。
吐く息は白く、日が昇りかけた世界には靄がかかっている。
まさに冬の朝という感じだった。
僕は服のポケットに手を突っ込み、身を縮ませる。
「コランさん!昨日また私のベットに潜り込みましたね!涎、垂らすんだからやめてください!」
「えへへへぇ…。ごめん」
外に出ると朝っぱらからリリーにコランが叱られていた。
コランは袖や裾の短い服を着て、額には汗を流している。
朝は一段と冷えると言うのに、よくあんな格好で動けるものだ。
コランの脇には、彼女が相棒と呼んでいる薙刀がある。
きっと、いつも通り、特訓とやらをしていたのだろう。
リリーは「もう!」と言いながら、手に持っていた洗濯籠からタオルを取り出す。
そして、そのタオルをコランの顔に、強引に布を押し付け、彼女の汗を拭いた。
コランは「うわぁあああ」と、棒読みな悲鳴を上げ、なされるがままである。
「ほら!ふざけてないで、自分で拭いてください!」
そう言われたコランは「はぁ~い」と、気の無い返事を返し、タオルを受け取る。
まるで親子のようだった。
どちらがどちらとは言わないが。
因みに、リリーは家の家事全般を手伝ってくれている。
今日は天気が良さそうなので、朝から洗濯物を洗っていたのだろう。
…この寒い中、水仕事なんて、僕には無理だ…。
「あ!おはよ~!ベル」
こちらに気が付いたコランが、片手をあげて振ってくる。
「おはようございます。ベルガモットさん」
それに釣られて、こちらを向いたリリーは深々とお辞儀をしてくる。
「おはよ。二人とも」
僕はポケットから手を出す気にはなれず、身を縮めたまま、お辞儀を返した。
「今日も寒いですね」
手を真っ赤にしたリリーが言う。
朝の水は身を切るほど、冷たかっただろうに。
「そう?私はこれぐらいがちょうど良いけど」
汗を拭きながら相槌を打つコラン。
そんなコランを、僕とリリーはジト目で睨む。
それはお前だけだ。と。
或いは、黙れ、筋肉馬鹿。かも知れない。
「朝から悪いな。リリー。洗濯籠、持つよ」
僕はポケットから手を抜き出すと、彼女の手から洗濯籠を奪った。
了承などは得ない。
彼女が遠慮する事を僕はこの数十日間でしっかりと学んだのだ。
洗濯籠を奪う一瞬。彼女の冷たい指が、僕の手に触れる。
氷のようだと、心配になってしまうほどだった。
「あっ」
驚いたように声を上げるリリーだが、不満そうな顔をする事は無い。
それどころか「ありがとうございます」と最高の笑みを返してくれるのだ。
僕はそれが嬉しくなって「気にしないで」と答える。
「じゃあ、私はもうちょっと体動かしたら、食堂に行くね~」
相手にされずに、飽きたのか、コランは相棒を担いで森の中に消えて行く。
きっと、今日も獣を狩ってきてくれるのだろう。
「コランはすごいよな。一人で大喰らいを狩ってきちまうんだから」
コランの消えて行った方向に目をやりながら、僕はそう呟く。
「家の馬鹿姉さまは、力だけが取り柄ですからね」
リリーは呆れたように呟く。
コランの前では頑なに姉さんと呼ばないのに…。
こういう所で、ポロッと零すところ、しっかりと認めてはいるんだろうな。
僕はそう思いながらも、口には出さない。
顔を赤くするリリーは可愛いのだが、数日間、口を利かれなくなるのは、ショックが大きいからである。
「僕も、もう行くよ。これ、いつもの場所に干しておけば良いんでしょ?」
僕はリリーの方に顔だけを向けて聞く。
「はい、お願い致します」
リリーは腰を折って深々と頭を下げる。
もう慣れたので指摘はしないが、そんなにしなくても…。とは思う。
「では、私は一足先に食堂へ向かっていますね」
そう言うとリリーは家の中へと消えて行く。
「うん!今日の料理も期待してるからね!」
僕は手を振り、彼女を見送った。
「さて!行きますか!」
僕は洗濯籠をしっかり持つと、歩き始める。
これが、僕とデコボコ姉妹の新しい日常だった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。
辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~
丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月
働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。
いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震!
悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。
対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。
・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。
もう少しマシな奴いませんかね?
あっ、出てきた。
男前ですね・・・落ち着いてください。
あっ、やっぱり神様なのね。
転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。
ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。
不定期更新
誤字脱字
理解不能
読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる