82 / 132
むかえに来たよ。
第81話 メグルと別れ
しおりを挟む
「はぁっ!」
まず僕は土の板壁を母さんの前に配置した。
母さんは驚く事もなく、左腕を振り下ろし、それを破壊する。
どうやら母さんは僕が魔法を使う事を知っていたようだった。
本当に、母さんは僕の事なら何でも知ってる。
…その目を、ちょっと、シバにも向けてくれたらよかったのにな。
きっと、いくら壁を作った所で破壊されるか、回り道をされてしまう。
母さんを囲えれば一番良いのだが、残念ながら、僕の魔力量と、操作技術では難しい。
土壁の出現が遅すぎて逃げられるか、壁の一部が脆すぎて突破されるかの二択だろう。
それならばと、僕は先ほどより分厚い土壁を出現させる。
当然、母さんはもう一度、腕を振り下ろすが、腕や爪の当たった部分は泥の様に崩れ落ち、瞬時に元の壁に戻った。
接触を魔力で感知し、強い衝撃だけを泥状にして逃しているのだ。
難しい操作なので、広範囲で行えないのが傷だが、姉さんの牙さえも跳ね返した特性の魔法だ。
母さんとて、そう簡単には破れまい。
母さんは一、二度腕を振るうと、諦めたのか、回り道をしてくる。
思ったよりも、母さんが冷静で時間が稼げなかった。
僕は焦りつつも、分厚い土の壁を母さんの方向に向かって流し溶かす。
これには母さんも驚いたようで、一瞬のうちに泥に飲み込まれてしまった。
僕は母さんが泥から顔を出したのを見計らい、土を固める。
「よしっ!」
流石の母さんでも、身動きが取れなくなればこっちのもの…。
と、思っていたのだが、母さんは力んでいる様子もないのに、辺りの土が盛り上がって行く。
僕は急いで、母さんの周りの土に込められるだけの魔力を込める。
これが、今僕が土で出せる最大硬度だ。
「だ…。駄目か…」
土の中から難なく這い出した母さんは、またしてもこちらに向かってくる。
しかし、母さんは魔力を扱えない。
そうなればどこまで行ってもここは僕のフィールドだ。
僕は母さんの足元を緩くして行く。
未だ僕の魔力が残っている土たちは、すんなりという事を聞き、母さんの体を再び飲み込んで行った。
手をかけて上がろうにも、泥の様に崩れ落ちる。
かと言って進もうとすれば、壁の様に固くなり、進行を阻害する。
変化する土を前に、母さんの進行は止まった。
いつの間にやら僕は、母さんより強くなっていたらしい。
そう考えると、自然と口角が上がった。
「もう諦めたら?母さん」
気分の良くなった僕は挑発気味に言葉を投げかける。
しかし、その余裕の表情は、母さんの鋭い視線によって崩された。
あんな目で見られたのは初めてだった。
怒ってる?怒ってるの?
嫌われちゃった?
「そ、そんな目をしたって怖くないからね!僕は母さんより強いんだ!絶対に逃がさない!」
そうだ。そうだよ。
僕は母さんより強いんだ。
母さんが僕を捨てようとしても、逃がさなければ良い。
強ければ何でも手に入るんだ!
「そうよ…」
彼女が耳元で囁く。
「力があれば、何だって思い通り。あの女も手に入るし、シバだって生き返る。世界の嫌なところ、全部壊して従わせられる」
彼女は、「ほら」というと、健康体になったシバを見せつけて来た。
「でもね。こういうのは今回だけよ?」
彼女は続ける。
「これは私の力。貴方は貴方の力で貴方のしたい事をすれば良い」
そうだ。確かにこれは僕の力じゃない。
でも、僕に力があればできる事だ。
もし、母さんたちが死んでしまったらどうしよう。
次は彼女の助けが借りられない。
「簡単よ。貴方も私と同じだけの力を手に入れれば良い」
彼女の言う通りだった。
でも、どうやってそんな力を…。
「一緒に来ない?」
彼女が僕に手を差し伸べる。
きっと、母さんたちは連れて行けないだろう。
僕は今一度、母さんを見つめる。
「ダメよ!メグル!」
母さんは叫ぶそうにそう言った。
僕を心配している様な表情だった。
…なぁ~んだ。僕、嫌われてなかったんだ。
僕は安堵の息をつくと、少女の目を見る。
いつの間にか、彼女には顔ができていた。
何故、今の今まで僕は気が付かなかったのだろう。
そんな事を思いながらも、僕は彼女の手を取る。
彼女はその手を満足そうに握ると、笑顔を返してくれた。
「母さん。皆。行ってくるね」
背後の森に向かって別れを告げる。
長くなってしまうかもしれないが、それでも皆でずっと楽しく暮らすためだ。
彼女に手を引かれると、僕は涙を堪えて、笑顔で森を後にした。
まず僕は土の板壁を母さんの前に配置した。
母さんは驚く事もなく、左腕を振り下ろし、それを破壊する。
どうやら母さんは僕が魔法を使う事を知っていたようだった。
本当に、母さんは僕の事なら何でも知ってる。
…その目を、ちょっと、シバにも向けてくれたらよかったのにな。
きっと、いくら壁を作った所で破壊されるか、回り道をされてしまう。
母さんを囲えれば一番良いのだが、残念ながら、僕の魔力量と、操作技術では難しい。
土壁の出現が遅すぎて逃げられるか、壁の一部が脆すぎて突破されるかの二択だろう。
それならばと、僕は先ほどより分厚い土壁を出現させる。
当然、母さんはもう一度、腕を振り下ろすが、腕や爪の当たった部分は泥の様に崩れ落ち、瞬時に元の壁に戻った。
接触を魔力で感知し、強い衝撃だけを泥状にして逃しているのだ。
難しい操作なので、広範囲で行えないのが傷だが、姉さんの牙さえも跳ね返した特性の魔法だ。
母さんとて、そう簡単には破れまい。
母さんは一、二度腕を振るうと、諦めたのか、回り道をしてくる。
思ったよりも、母さんが冷静で時間が稼げなかった。
僕は焦りつつも、分厚い土の壁を母さんの方向に向かって流し溶かす。
これには母さんも驚いたようで、一瞬のうちに泥に飲み込まれてしまった。
僕は母さんが泥から顔を出したのを見計らい、土を固める。
「よしっ!」
流石の母さんでも、身動きが取れなくなればこっちのもの…。
と、思っていたのだが、母さんは力んでいる様子もないのに、辺りの土が盛り上がって行く。
僕は急いで、母さんの周りの土に込められるだけの魔力を込める。
これが、今僕が土で出せる最大硬度だ。
「だ…。駄目か…」
土の中から難なく這い出した母さんは、またしてもこちらに向かってくる。
しかし、母さんは魔力を扱えない。
そうなればどこまで行ってもここは僕のフィールドだ。
僕は母さんの足元を緩くして行く。
未だ僕の魔力が残っている土たちは、すんなりという事を聞き、母さんの体を再び飲み込んで行った。
手をかけて上がろうにも、泥の様に崩れ落ちる。
かと言って進もうとすれば、壁の様に固くなり、進行を阻害する。
変化する土を前に、母さんの進行は止まった。
いつの間にやら僕は、母さんより強くなっていたらしい。
そう考えると、自然と口角が上がった。
「もう諦めたら?母さん」
気分の良くなった僕は挑発気味に言葉を投げかける。
しかし、その余裕の表情は、母さんの鋭い視線によって崩された。
あんな目で見られたのは初めてだった。
怒ってる?怒ってるの?
嫌われちゃった?
「そ、そんな目をしたって怖くないからね!僕は母さんより強いんだ!絶対に逃がさない!」
そうだ。そうだよ。
僕は母さんより強いんだ。
母さんが僕を捨てようとしても、逃がさなければ良い。
強ければ何でも手に入るんだ!
「そうよ…」
彼女が耳元で囁く。
「力があれば、何だって思い通り。あの女も手に入るし、シバだって生き返る。世界の嫌なところ、全部壊して従わせられる」
彼女は、「ほら」というと、健康体になったシバを見せつけて来た。
「でもね。こういうのは今回だけよ?」
彼女は続ける。
「これは私の力。貴方は貴方の力で貴方のしたい事をすれば良い」
そうだ。確かにこれは僕の力じゃない。
でも、僕に力があればできる事だ。
もし、母さんたちが死んでしまったらどうしよう。
次は彼女の助けが借りられない。
「簡単よ。貴方も私と同じだけの力を手に入れれば良い」
彼女の言う通りだった。
でも、どうやってそんな力を…。
「一緒に来ない?」
彼女が僕に手を差し伸べる。
きっと、母さんたちは連れて行けないだろう。
僕は今一度、母さんを見つめる。
「ダメよ!メグル!」
母さんは叫ぶそうにそう言った。
僕を心配している様な表情だった。
…なぁ~んだ。僕、嫌われてなかったんだ。
僕は安堵の息をつくと、少女の目を見る。
いつの間にか、彼女には顔ができていた。
何故、今の今まで僕は気が付かなかったのだろう。
そんな事を思いながらも、僕は彼女の手を取る。
彼女はその手を満足そうに握ると、笑顔を返してくれた。
「母さん。皆。行ってくるね」
背後の森に向かって別れを告げる。
長くなってしまうかもしれないが、それでも皆でずっと楽しく暮らすためだ。
彼女に手を引かれると、僕は涙を堪えて、笑顔で森を後にした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始

ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!
幼子は最強のテイマーだと気付いていません!
akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。
森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。
だが其がそもそも規格外だった。
この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。
「みんなーあしょぼー!」
これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。
猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!
友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。
聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。
ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。
孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。
でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。
住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。
聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。
そこで出会った龍神族のレヴィアさん。
彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する!
追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる