Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
79 / 132
むかえに来たよ。

第78話 セッタとシバ

しおりを挟む
 私は絶句した。

「どうしたの?セッタ」
 急に止まった私に、小声で母さんが話しかけてきた。

 私は尻尾で母さんを誘導する。
 そこならメグルが見えるはずだ。

「ッ…!」
 母さんも驚きのあまり、言葉を失っているようだった。
 あの優しいメグルが小動物を殺していた。

 私達は基本的に、食事の為以外に生き物を殺さない。
 メグルも割り切ってはいるが、その最低限の殺生せっしょうでさえも嫌っているのだ。

 だから、彼が食べる事のない小動物を、何度も何度も、原型を留めなくなるまで石で叩き潰す姿は、異様としか言いようがなかった。

 小動物は一匹ではなく、周りに何匹も、メグルを囲むように群がっている。
 彼らは何故か逃げようとしなかった。
 それどころか、近くで仲間が殺されてもピクリともしない。

 メグルの顔と体には返り血がかかる。
 肉が潰れる音と、彼の荒い息遣いだけが聞こえて来た。

 一匹が一つになると、メグルはまた新しい標的へと石を振り下ろす。
 何度も、何度も、何度も。

 返り血を浴びたメグルは息苦しそうに、立ち上がると、今度は小鳥を標的にした。
 あの鳥は彼が愛してやまない種類の鳥だったはずだ。

 青い翼に白い腹、翼の縁は黄色く彩られており、その鳴き声はとても可愛らしい。
 くりくりした瞳、首を傾げるような動作。
 メグルはその全てが好きだと言って、良く、家の前に種をまいては彼らに与えていた。

 母さんもメグルが彼らをどれだけ好きだったか、知っているだろう。
 なんせ、母さんはその自慢話をメグルから聞かされた末に、頬を膨らませ嫉妬したぐらいなのだから。

 そんな彼らにメグルは石を振り下ろす。
 メグルの顔が苦しそうにゆがんだ。

 もう…。もう見ていられない!

「やめて!」
 先に飛び出したのは母さんだった。

 石を振り下ろそうとしていたメグルは母さんに押し倒される。
 その瞬間、小動物たちは正気に戻ったかのように、一斉に逃げ去った。

「か、母さん…」
 私はゆっくりとメグルに近づいた。

「姉さんまで…」
 メグルは持っていた赤い石をゴトリと地面に落とした。

「ち、違うんだ、母さん!これは!…姉さんも聞いて!」
 メグルは必死に叫ぶ。

 しかし、母さんはメグルに抱き着いて、顔をうづめたまま動かなかった。
 私も、今のメグルとは目を合わせられない。

「僕だってしたくてしたわけじゃないんだ!でも…でも、こうすればシバが戻ってくるんだよ?!」
 …生き返る?
 私はそこであの夜の事を思い出した。

 あの時、シバは死んだはずのファイストと歩いていた。
 彼女から生気と言うものは感じなかったが、確かに歩いていた。

 …あり得るのかも知れない…。
 だが、少なくともこんな小動物をいくら殺したところで、シバを蘇らせるかてにはならないだろう。
 それこそ、人間の村、一つ分の対価がいるはずだ。

「…あ!シバ!…ほら!二人とも!シバが来たよ!」
 メグルの声に、彼の視線の先へと顔を向ける。
 母さんも顔をあげてその方向に目をやった。

「シバ!」
 呆然ぼぜんとする母さんの下から抜け出したメグル。
 彼は嬉々ききとしてソレに抱き着いた。

 メグルにシバはと呼ばれたソレ。
 ソレは立っていることが奇跡と言わんばかりに腐敗していた。

 メグルが抱き着いた衝撃で、ソレから黒々とした液体が飛び散る。
 酷い腐臭だった。

 しかし、メグルは気にした様子もなく、ソレを頬擦ほおずる。

 もう完全にダメだった。
 シバの体も、メグルの心も。

「ワゥ」
 楽になりたいんだろ?シバ。

 私がそう問いかけると、生気のないシバの顔がこちらを向いた。
 意識があるのかは分からない。
 唯、音に反応しただけかもしれない。

「バウワゥ。ワゥ。ワゥワゥ」
 大丈夫だ。メグルは私達が責任をもって面倒を見る。
 お前と同じ目には絶対に合わせない。

 私はシバのよどんだ眼を見つめる。
 メグルは不思議そうに私たちのやり取りを観察していた。

「あっ、シバ」
 数秒の沈黙の後、こちらに向けてシバが歩きだした。

 今にも崩れ落ちてしまいそうな足取り。
 しかし、私にはとても力強いものに感じた。

 シバは私の前で倒れ込む。

 きっと、シバはこの時を待っていたのだろう。
 私達がメグルに向き合うその時を。
 最後の最後まで優しい奴だ…。

「ワゥ」
 気付いてやれなくて、すまなかった…。

「ワゥワゥ」
 それと、お疲れ様。

 シバは静かに目を閉じる。
 私はその首元に食らいついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、王太子であるアルス-アスカロンは記憶を取り戻す。 それは自分がゲームのキャラクターである悪役だということに。 気づいた時にはすでに物語は進行していたので、慌てて回避ルートを目指す。 そして、無事に回避できて望み通りに追放されたが……そこは山賊が跋扈する予想以上に荒れ果てた土地だった。 このままではスローライフができないと思い、アルスは己の平穏(スローライフ)を邪魔する者を排除するのだった。 これは自分が好き勝手にやってたら、いつの間か周りに勘違いされて信者を増やしてしまう男の物語である。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

弱小デイトレーダーが異世界に来たら、いきなりチート投資家になったのです。

comsick
ファンタジー
フルダイブ型VR✕異世界転生✕お仕事・ビジネス系=全乗っけ型小説。 ★電脳空間に飛び込んだ弱小デイトレーダーによる、現在ファンタジー ★企業分析が得意なエルフ。 ★ハイファンタジー?剣と魔法?株式投資?マネタイズ? ★幻想的な世界観と、ただのリアル。 投資のことを全く知らなくても楽しめます。でもって、ちょっとだけ投資の勉強にもなったりします。。。

俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。
ファンタジー
悪役令嬢? なにそれ。 乙女ゲーム? 知らない。 そんな元社会人ゲーマー転生者が、空気読まずに悪役令嬢にベタぼれして、婚約破棄された悪役令嬢に求婚して、乙女ゲーム展開とは全く関係なく悪役令嬢と結婚して幸せになる予定です。 一部に流血描写、微グロあり。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

処理中です...