78 / 132
むかえに来たよ。
第77話 マロウと仮初の日常
しおりを挟む
あの日、メグルは目覚めると、私達の無事を喜んで泣いた。
私達もそれを受け取め、お互いの無事を改めて確かめ合う。
メグルが壊れてしまったのではないかと心配していた私たちは、安堵の息をついた。
その後から、メグルは何事もなかったかのように生活している。
私と家事をして、兄弟たちと狩りに出かけて、空いた時間にモノづくり。
良く笑って、良く照れて、たまに不安そうな顔をする。
いつも通りのメグルだった。
いつも通りすぎた。
皆は困惑していたが、深く掘り返すことはしない。
下手をしたらメグルが壊れてしまうかもしれないから。
皆の心には、あの日、身も心もボロボロになって帰ってきた、メグルの姿が染み付いている。
誰も触れられなかった。シバの事に。
メグルが話さないのだから、言えるわけがなかった。
…それで良いの?
心の中の私が言う。
シバの件で痛い目を見たのではないか、と。
そうだ。逃げる事は、自分に言い訳する事はいつでもできる。
その事を後悔するのは、全てが終わってしまった後なのだ。
「…?どうしたの?母さん?」
メグルのくりくりとした目が私を見つめる。
「なんでもないわ」
私は止まっていた手を動かして、再度、鍋をかき回し始める。
そんな私を見て、メグルは不思議そうに小首を傾げた。
彼の可愛らしい動作に、私がクスリと笑う。
すると、メグルは満足したのか、楽し気に自分の作業に戻って行った。
やはりいつも通りのメグルだ。
…そして、あんなに優しいメグルが、シバが死んだ事を気にしない訳がない。
私が遠目にメグルを見つめていると、同じくメグルを見守っていたセッタと目が合った。
…メグルがおかしい。
私と彼女は一瞬で通じ合った。
やはり、異変を感じているのは私だけではないらしい。
どうにかして、原因を突き止めなければ。
そうしなければ、メグルもシバと同じように…。
そうなった時、私はメグルを止めなければいけなくなるのだろうか。
メグルがシバにした様に…。
私の手でメグルを…。
手がメグルの赤で染まる。
目の前でメグルが冷たくなって行く。
私のせいで、私の手で。
考えるだけで頭が痛くなった。
考えるだけでこれなのだ。
やはり今のメグルは正常ではない。
では、どうすれば良い?
正面から聞いてみる?
いや、駄目だ。
もし、無理をして平静を取り繕っていた場合、メグルが壊れてしまう。
それに、ショックでシバを忘れているのかもしれない。
その場合、シバには悪いが忘れていて貰うのがメグルの為だ。
シバを思い出させるような発言は控えたい。
と、なると別の方法が必要になってくるが…。
「ワゥ」
セッタの声が私の意識を呼び戻す。
…大丈夫だ。まだ鍋は焦げていない。
「ワゥ!」
セッタが先程より強く声を上げた。
私は何事かと顔を上げる。
彼女の見つめる先。
そこに居たはずのメグルが消えていた。
そういえば、この頃、不意にメグルの姿を見なくなる事があった。
兄弟たちの所へ行っているのかと思ったのだが、今はこの場に全員がいる。
セッタが歩き始めた。きっとメグルの後を追うのだろう。
私も鍋の火を消すと、すぐにその後に続いた。
私達もそれを受け取め、お互いの無事を改めて確かめ合う。
メグルが壊れてしまったのではないかと心配していた私たちは、安堵の息をついた。
その後から、メグルは何事もなかったかのように生活している。
私と家事をして、兄弟たちと狩りに出かけて、空いた時間にモノづくり。
良く笑って、良く照れて、たまに不安そうな顔をする。
いつも通りのメグルだった。
いつも通りすぎた。
皆は困惑していたが、深く掘り返すことはしない。
下手をしたらメグルが壊れてしまうかもしれないから。
皆の心には、あの日、身も心もボロボロになって帰ってきた、メグルの姿が染み付いている。
誰も触れられなかった。シバの事に。
メグルが話さないのだから、言えるわけがなかった。
…それで良いの?
心の中の私が言う。
シバの件で痛い目を見たのではないか、と。
そうだ。逃げる事は、自分に言い訳する事はいつでもできる。
その事を後悔するのは、全てが終わってしまった後なのだ。
「…?どうしたの?母さん?」
メグルのくりくりとした目が私を見つめる。
「なんでもないわ」
私は止まっていた手を動かして、再度、鍋をかき回し始める。
そんな私を見て、メグルは不思議そうに小首を傾げた。
彼の可愛らしい動作に、私がクスリと笑う。
すると、メグルは満足したのか、楽し気に自分の作業に戻って行った。
やはりいつも通りのメグルだ。
…そして、あんなに優しいメグルが、シバが死んだ事を気にしない訳がない。
私が遠目にメグルを見つめていると、同じくメグルを見守っていたセッタと目が合った。
…メグルがおかしい。
私と彼女は一瞬で通じ合った。
やはり、異変を感じているのは私だけではないらしい。
どうにかして、原因を突き止めなければ。
そうしなければ、メグルもシバと同じように…。
そうなった時、私はメグルを止めなければいけなくなるのだろうか。
メグルがシバにした様に…。
私の手でメグルを…。
手がメグルの赤で染まる。
目の前でメグルが冷たくなって行く。
私のせいで、私の手で。
考えるだけで頭が痛くなった。
考えるだけでこれなのだ。
やはり今のメグルは正常ではない。
では、どうすれば良い?
正面から聞いてみる?
いや、駄目だ。
もし、無理をして平静を取り繕っていた場合、メグルが壊れてしまう。
それに、ショックでシバを忘れているのかもしれない。
その場合、シバには悪いが忘れていて貰うのがメグルの為だ。
シバを思い出させるような発言は控えたい。
と、なると別の方法が必要になってくるが…。
「ワゥ」
セッタの声が私の意識を呼び戻す。
…大丈夫だ。まだ鍋は焦げていない。
「ワゥ!」
セッタが先程より強く声を上げた。
私は何事かと顔を上げる。
彼女の見つめる先。
そこに居たはずのメグルが消えていた。
そういえば、この頃、不意にメグルの姿を見なくなる事があった。
兄弟たちの所へ行っているのかと思ったのだが、今はこの場に全員がいる。
セッタが歩き始めた。きっとメグルの後を追うのだろう。
私も鍋の火を消すと、すぐにその後に続いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、王太子であるアルス-アスカロンは記憶を取り戻す。
それは自分がゲームのキャラクターである悪役だということに。
気づいた時にはすでに物語は進行していたので、慌てて回避ルートを目指す。
そして、無事に回避できて望み通りに追放されたが……そこは山賊が跋扈する予想以上に荒れ果てた土地だった。
このままではスローライフができないと思い、アルスは己の平穏(スローライフ)を邪魔する者を排除するのだった。
これは自分が好き勝手にやってたら、いつの間か周りに勘違いされて信者を増やしてしまう男の物語である。

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
【連載再開】
長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^)
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る
ムーン
ファンタジー
完結しました!
魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。
無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。
そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。
能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる