Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
75 / 132
むかえに来たよ。

第74話 リリーと阿呆

しおりを挟む
「私はここで待っています」
 森を抜ける直前。私はそう言った。

「…?…なんで?もう、日が落ちるよ?」
 コランさんが心底、不思議そうに首をかしげる。

「はぁ…」
 その反応に、私は今日、何度目になるか分からない、溜息をいた。

「私の髪は何色ですか?」
 そう聞いた私に、コランさんはあきれ顔で「黒に決まってるじゃん」と答える。

 呆れたいのは私の方だ。
 こんなにも、あからさまな言い回しをして気づかないとは…。
 頭が痛くなってくる。

「そう。私の髪は黒なんです。そんな私が村に行ったらややこしくなるでしょう?」
 コランさんは私の答えに首を傾げる。

「村じゃ、皆あんまり気にしてなかったよ?」
 私は頭の血管が切れそうになった。
 そういう問題ではない。

「いろいろな場所を見て回ってきた私が言います。あの村はおかしいので、全く参考にはなりません」
 コランさんは「ヒドッ!」と、オーバーなリアクションをとる。
 それでも、私の発言を受けて、考え直したのか「そんなものなのかな…」と、言葉を続けた。

 やっと分かってくれたと、私は安堵あんどの溜息を吐く。
 いや、心労からくる溜息か…。

「でも、もう暗くなるし、そうじゃなくても森は危ないよ」
 そんな事は私も分かっている。

 それでも、私が村に行くことはできない。
 私の為にも、コランさんの為にも。

「大丈夫!大丈夫!私に任せておきなさい!なんたってお姉ちゃんなんだからね!」
 コランさんは私の表情を読み取ってか、軽快けいかいな声でそう言った。
 本当に他人の感情に鋭い人だ。
 …阿保あほだけど。

「それでも私は行きませんからね。なんせ”私が”怖いんですから」
“私が”の部分を強調してコランさんに念を押す。

「えぇ~。大丈夫だよ。何かあったらお姉ちゃんが守ってあげるし…ね?」
 やたらとお姉ちゃんとい単語を使いたがるコランさん。
 お姉ちゃんになりたい理由でもあるのだろか。
 …いや、理由の有無など関係ない。

「そもそも私はコランさんをお姉ちゃんだと認めてませんからね!」
 阿保で、おっちょこちょいで、こんなに抜けているお姉ちゃんなど、まっぴらごめんだ。

 私がそっぽを向くと「そんなこと言わないでよ~」と言って、両手を広げたコランさんが近づいてくる。

 満面の笑みだ。
 悪い事を考えている笑みだ。
 きっと私を捕まえて実力行使じつりょくこうしに出る気だろう。

「来ないで!」
 私は逃げ出す。

「待てぇ~!」
 コランさんが両手をあげながら追ってくる。
 しかし、その速度ではとてもではないが、私には追いつけなかった。

 本気で走れば追いつくのに。と思いつつ、私は前を見る。
 気付けば、私が走っている方向には村があった。

「はぁ…」
 私は両手を上げ降参のポーズをとる。
 今回は私の負けだ。

「捕まえた!」
 コランさんが私に飛びつく。

「えぇ?!なんで?!私を村に誘導するつもりじゃなかったんですか?!」
 私は驚きのあまり叫ぶ。

 するとコランさんは首を傾げ…。
 少し間を開けてから成程なるほど、と言う様に手を打った。

「はぁ…」
 もしかしたら阿呆は私なのかもしれない。

「まぁ、それはさておき…」
 そんな事を言いながら、私に跨ったコランさんが両手をワキワキさせる。

「え?…じょ、冗談ですよね?」
 私の顔色は一気に悪くなる。

 フフフフフ。と不気味に笑うコランさん。
 その時、丁度太陽が沈み切った。
 辺りは真っ暗である。

 コランさんは暗闇の中で、ニヤリと笑う。

「ひゃ、ひゃめぇてええええええ!」

 私の叫び声は虫の声と共に、秋夜しゅうやの空に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...