73 / 132
むかえに来たよ。
第72話 コランと難題
しおりを挟む
「落ち着いた?」
俯いたリリーちゃんを撫でなら、私は声を掛けた。
「…うん」
蹲ったまま、弱々しい声で答えるリリーちゃん。
私は、唯ひたすらに彼女の頭を撫で続ける。
空を見上げれば、もう、日は傾き始めていた。
現在私たちは、隣村の見える森の中にいる。
黒い少女から逃げきった私は、あれから力を押さえて、この場所まで走ってきたのだ。
如何やら、力の扱いが上手くなってきているらしい。
それに、力の上限も増えているような気がする。
私はそばに立て掛けて置いた薙刀を見た。
母さんは、この子の話を、私が森で倒れた次の日に教えてくれた。
今年と同じように、食べ物が無くなった村。
その時に、冒険者だったお母さんが、たまたま村に立ち寄ったらしい。
そこで、母さんは一肌脱ごうと、森に入って沢山の獣の肉を持ち帰ってきた。
村人に感謝された母さんは、お父さんと、丁度住む場所を探していたこともあって、そのまま村に住むことになりましたとさ。
めでたし、めでたし。
その後、母さんはこの子を使う事は無かったと言う。
しかし、冒険者時代。この子なしでは潜り抜けられなかった死線が、いくつもあった事を語ってくれた。
その冒険譚に、私は心躍らせながら聞き入る。
そして、話の最後に母から「私の相棒だったのよ…」と言うセリフを聞かされた時、私はこの子をなくしてきたことを酷く後悔したのだが…。
それはまた別の話だ。
兎にも角にも、この子は母さんの相棒なのである。
そして、彼が最後に私に託してくれた子。
この子がいれば何でもできる気がした。
身体的には勿論、精神的にも強くなれる。
この子がいればどんどん私は強くなっていける。
私は薙刀を手に取った。
もう、無理やり力を引き出される事は無い。
薙刀を杖代わりに、私は腰を上げた。
「そろそろ行こっか。リリーちゃん」
私は落ち着いてきた彼女に手を差し伸べる。
リリーちゃんはその手に少し戸惑っていた。
彷徨う視線が時たま私を捉える。
私は逸る気持ちを抑え、辛抱強く待った。
不意に私を見上げる不安げな表情。
私は優しい表情で受け止める。
リリーは再度、私の掌を見つめると、その手を取ってくれた。
しかし、まだその表情はすぐれない。
私は彼女を引き上げると、勢いそのまま抱え上げる。
お姫様抱っこと言うやつだ。
その拍子に、腕に引っ掛けていた薙刀が暴れて、私は慌てる。
余裕ぶった大人の態度で、リリーを安心させてあげようかと思ったのだが…。
リリーは疲れたようにこめかみを抑えると「もう」と、溜息を吐く。
私は決まりが悪く、苦笑した。
そんな私を見て、リリーがクスリと笑う。
作戦は失敗してしまったが、結果オーライと言うやつだろう。
…ただ、大人の余裕を見せつけられないのは、少し癪だ。
「私はこんなに貴方が好きだと言うのに!」
そう、演技がかった声で叫ぶと、私は無防備なリリーのお腹の上で顔をぐりぐりする。
「ひゃっ!や、やめ!フフフッ。やめて!コランさん!アハハハハハッ!」
くすぐったいのか、リリーは私の上で笑い転げた。
「やめてほしくば、私をお姉ちゃんと呼ぶのだ!…はい!コランお姉ちゃんって言ってみて!」
「わ、分かりました!クフフッ!コランお姉ちゃん!これでしょう?!」
私は「良かろう」と言って、顔を離す。
リリーちゃんは「はぁ、はぁ」と息を乱して、かなり色っぽい事になっていた。
リリーちゃんは直ぐに息と、服を整えると「もう良いです!」と言って私の腕の中から飛び降りる。
「あっ…」
私は怒らせてしまったのかと、不安になり、その肩を掴んだ。
すると、リリーちゃんは悪戯っぽい笑みを返して振り向いたではないか。
…大人っぽくするのって、難しい…。
私はまたしても人生の難題にぶつかるのだった。
俯いたリリーちゃんを撫でなら、私は声を掛けた。
「…うん」
蹲ったまま、弱々しい声で答えるリリーちゃん。
私は、唯ひたすらに彼女の頭を撫で続ける。
空を見上げれば、もう、日は傾き始めていた。
現在私たちは、隣村の見える森の中にいる。
黒い少女から逃げきった私は、あれから力を押さえて、この場所まで走ってきたのだ。
如何やら、力の扱いが上手くなってきているらしい。
それに、力の上限も増えているような気がする。
私はそばに立て掛けて置いた薙刀を見た。
母さんは、この子の話を、私が森で倒れた次の日に教えてくれた。
今年と同じように、食べ物が無くなった村。
その時に、冒険者だったお母さんが、たまたま村に立ち寄ったらしい。
そこで、母さんは一肌脱ごうと、森に入って沢山の獣の肉を持ち帰ってきた。
村人に感謝された母さんは、お父さんと、丁度住む場所を探していたこともあって、そのまま村に住むことになりましたとさ。
めでたし、めでたし。
その後、母さんはこの子を使う事は無かったと言う。
しかし、冒険者時代。この子なしでは潜り抜けられなかった死線が、いくつもあった事を語ってくれた。
その冒険譚に、私は心躍らせながら聞き入る。
そして、話の最後に母から「私の相棒だったのよ…」と言うセリフを聞かされた時、私はこの子をなくしてきたことを酷く後悔したのだが…。
それはまた別の話だ。
兎にも角にも、この子は母さんの相棒なのである。
そして、彼が最後に私に託してくれた子。
この子がいれば何でもできる気がした。
身体的には勿論、精神的にも強くなれる。
この子がいればどんどん私は強くなっていける。
私は薙刀を手に取った。
もう、無理やり力を引き出される事は無い。
薙刀を杖代わりに、私は腰を上げた。
「そろそろ行こっか。リリーちゃん」
私は落ち着いてきた彼女に手を差し伸べる。
リリーちゃんはその手に少し戸惑っていた。
彷徨う視線が時たま私を捉える。
私は逸る気持ちを抑え、辛抱強く待った。
不意に私を見上げる不安げな表情。
私は優しい表情で受け止める。
リリーは再度、私の掌を見つめると、その手を取ってくれた。
しかし、まだその表情はすぐれない。
私は彼女を引き上げると、勢いそのまま抱え上げる。
お姫様抱っこと言うやつだ。
その拍子に、腕に引っ掛けていた薙刀が暴れて、私は慌てる。
余裕ぶった大人の態度で、リリーを安心させてあげようかと思ったのだが…。
リリーは疲れたようにこめかみを抑えると「もう」と、溜息を吐く。
私は決まりが悪く、苦笑した。
そんな私を見て、リリーがクスリと笑う。
作戦は失敗してしまったが、結果オーライと言うやつだろう。
…ただ、大人の余裕を見せつけられないのは、少し癪だ。
「私はこんなに貴方が好きだと言うのに!」
そう、演技がかった声で叫ぶと、私は無防備なリリーのお腹の上で顔をぐりぐりする。
「ひゃっ!や、やめ!フフフッ。やめて!コランさん!アハハハハハッ!」
くすぐったいのか、リリーは私の上で笑い転げた。
「やめてほしくば、私をお姉ちゃんと呼ぶのだ!…はい!コランお姉ちゃんって言ってみて!」
「わ、分かりました!クフフッ!コランお姉ちゃん!これでしょう?!」
私は「良かろう」と言って、顔を離す。
リリーちゃんは「はぁ、はぁ」と息を乱して、かなり色っぽい事になっていた。
リリーちゃんは直ぐに息と、服を整えると「もう良いです!」と言って私の腕の中から飛び降りる。
「あっ…」
私は怒らせてしまったのかと、不安になり、その肩を掴んだ。
すると、リリーちゃんは悪戯っぽい笑みを返して振り向いたではないか。
…大人っぽくするのって、難しい…。
私はまたしても人生の難題にぶつかるのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!
ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。
私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
異世界大使館はじめます
あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?!
チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。
不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。
作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。
カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416
一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170
同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる