72 / 132
むかえに来たよ。
第71話 メグルと白昼夢
しおりを挟む
「確かに今のシバは私に操られているだけ」
僕に負ぶさった彼女が優しく語りかける。
気づけば動物たちの鳴き声も消えていた。
「でも、シバに心を戻せるとしたら?」
その甘い言葉に、脳が痺れたような感覚を覚える。
彼女の話を聞いてはいけない。
分かっていても、心が傾いてしまう。
「…戻せるわ。私の魔法をもってすれば、ね」
そんなのは嘘だ。
死んだ生き物が蘇るだなんて…。そんな…。
それでも、僕は期待してしまう。
それに、シバの隣にいたあの狼。
確かに死んでいたにも拘らず、生気を感じた。
優しさい温もりを感じた。
「…どうすれば良いの?」
ついに返事を返してしまった僕。
彼女はそれに満足したのか、フフフフフッと、蠱惑的に笑う。
「教えてあげたいのは山々なのだけれど、時間切れみたい…」
そう言うと、背から彼女の重みが消える。
「また、迎えに行くわ」
その声に振り向けば、少女は無邪気に笑いながら、こちらに手を振っている。
表情など無いはずなのに…。
シバも彼女の下へ駆けて行った。
そうして、二人は森の奥深くへと消えて行く。
僕は、二人の消えて行った方向に手を伸ばす。
足が上手く動かずに、倒れ込んでしまった。
その場には泥だらけの僕以外、何も残らない。
全てが夢のようだった。
「シバが生き返る…」
例えるなら悪夢だろうか。
甘く、蕩けてしまいそうな。
覚めてないで欲しい悪夢。
「大丈夫?!」
頭上から誰かの声がした。
見上げてみれば、幼い少女の顔がある。
またしても、見た事のない少女だ。
しかし、黒いのは髪の毛だけ。
歴とした人間だった。
少女は僕を見て、安心した様に「良かった…」と、呟く。
その後、僕の体を抱き起して、泥を払うと、鋭い視線で僕を見つめた。
「今ここで見た事は全部忘れなさい。黒い彼女の事も、私の事も」
睨みつける様な視線。
それは僕の瞳の奥深くをも覗き込み、心に刻みつける様なものだった。
「そして、あなたの日常に戻りなさい。皆が貴方を待っているわ…」
一転、彼女は慈愛に満ちたような表情をすると、僕を優しく抱き留めた。
僕は何が何だか、良く分からなかった。
でも、その温かな抱擁はとても落ち着く。
…どこか、懐かしい様な、愛おしい様な…。
僕は彼女に会ったことがある?
そこで、彼女は僕から離れた。
「じゃあね」
彼女も手を振り森の中へ消えて行く。
「あ…」
僕は再び手を伸ばすと、今度は足が動いた。
しかし、もう彼女は追い付けない。
あの少女たちは一体何なのだろか。
シバは本当に生き返るのだろうか。
母さんたちは無事なのだろか。
考えなければならない事は沢山ある。
それでも、僕の頭は靄がかかったかのように、何も考えられなかった。
「…帰ろう」
僕はぎこちない足取りで、日常の帰路に着く。
まだ少し、夢を見ている気分だった。
僕に負ぶさった彼女が優しく語りかける。
気づけば動物たちの鳴き声も消えていた。
「でも、シバに心を戻せるとしたら?」
その甘い言葉に、脳が痺れたような感覚を覚える。
彼女の話を聞いてはいけない。
分かっていても、心が傾いてしまう。
「…戻せるわ。私の魔法をもってすれば、ね」
そんなのは嘘だ。
死んだ生き物が蘇るだなんて…。そんな…。
それでも、僕は期待してしまう。
それに、シバの隣にいたあの狼。
確かに死んでいたにも拘らず、生気を感じた。
優しさい温もりを感じた。
「…どうすれば良いの?」
ついに返事を返してしまった僕。
彼女はそれに満足したのか、フフフフフッと、蠱惑的に笑う。
「教えてあげたいのは山々なのだけれど、時間切れみたい…」
そう言うと、背から彼女の重みが消える。
「また、迎えに行くわ」
その声に振り向けば、少女は無邪気に笑いながら、こちらに手を振っている。
表情など無いはずなのに…。
シバも彼女の下へ駆けて行った。
そうして、二人は森の奥深くへと消えて行く。
僕は、二人の消えて行った方向に手を伸ばす。
足が上手く動かずに、倒れ込んでしまった。
その場には泥だらけの僕以外、何も残らない。
全てが夢のようだった。
「シバが生き返る…」
例えるなら悪夢だろうか。
甘く、蕩けてしまいそうな。
覚めてないで欲しい悪夢。
「大丈夫?!」
頭上から誰かの声がした。
見上げてみれば、幼い少女の顔がある。
またしても、見た事のない少女だ。
しかし、黒いのは髪の毛だけ。
歴とした人間だった。
少女は僕を見て、安心した様に「良かった…」と、呟く。
その後、僕の体を抱き起して、泥を払うと、鋭い視線で僕を見つめた。
「今ここで見た事は全部忘れなさい。黒い彼女の事も、私の事も」
睨みつける様な視線。
それは僕の瞳の奥深くをも覗き込み、心に刻みつける様なものだった。
「そして、あなたの日常に戻りなさい。皆が貴方を待っているわ…」
一転、彼女は慈愛に満ちたような表情をすると、僕を優しく抱き留めた。
僕は何が何だか、良く分からなかった。
でも、その温かな抱擁はとても落ち着く。
…どこか、懐かしい様な、愛おしい様な…。
僕は彼女に会ったことがある?
そこで、彼女は僕から離れた。
「じゃあね」
彼女も手を振り森の中へ消えて行く。
「あ…」
僕は再び手を伸ばすと、今度は足が動いた。
しかし、もう彼女は追い付けない。
あの少女たちは一体何なのだろか。
シバは本当に生き返るのだろうか。
母さんたちは無事なのだろか。
考えなければならない事は沢山ある。
それでも、僕の頭は靄がかかったかのように、何も考えられなかった。
「…帰ろう」
僕はぎこちない足取りで、日常の帰路に着く。
まだ少し、夢を見ている気分だった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
楽園の天使
飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。
転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。
何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。
やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。
全14話完結。
よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる