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むかえに来たよ。
第70話 メグルと後悔
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僕が生み出した土の壁は一瞬で溶けた。
崩れ去った壁の向こう。
少女は相変わらず、拙い足取りでこちらに歩いて来ている。
先程までと違うのは、彼女の背後から触手のようなものが伸びている事ぐらいだろうか。
僕は再度、少女を観察できるように、角を削った土壁を配置した。
彼女の触手が伸びる。
攻撃と言うほどの速度では無いそれは、土壁に、ちょん。と触る。
それだけで土壁は崩れ去った。
僕は崩れ去った土壁を魔力ソナーで分析する。
すると、魔力が感じられなくなっている事に気が付いた。
如何やらあの触手は魔力を吸収する事ができるらしい。
いや、触手だけではないだろう。
彼女に触れたらすべての魔力を吸い取られる。
魔力は命の源だ。
全て吸収されれば…死ぬ。
僕は土壁を無駄だと判断し、再び距離をとる。
そして、今度は炎と風を混ぜた遠距離攻撃を繰り出した。
いくら魔力を吸い取れるからと言って、魔力で起こした現象をキャンセルすることはできない。
炎を纏った風の渦が少女を飲み込む。
「はぁあああああ!」
僕は息を吐きながら、途切れさせないよう、炎の渦を出し続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
炎が散れば無傷の少女が歩みを進めている姿が目に入る。
こちらの攻撃など、気にも留めていない様子だった。
「だよね」
ダメで元々だ。
生物としての存在を感じさせない黒。
それは、呼吸もしていなければ、焼け爛《ただ》れる皮膚《ひふ》も持ち合わせていないのだろう。
「って、呼吸も何も、口すらない、のっぺらぼうだもんね」
しかし、彼女に顔が無いのは助かった。
人間味が薄れてより、攻撃しやすくなる。
息を整えた僕は、魔力で無数の土塊を持ち上げ、彼女に向けて放る。
それを見た彼女はたちまち触手の数を増やし、全てを叩き落とした。
「反則でしょ…」
あの触手の数に制限らしい制限は無いように思える。
加えて、土塊を叩き落としたときの速度。風を切る音がしていた。
つまり、彼女がその気になればいつでも無数の触手を展開し、あの速度で僕を捕える事ができる。と言う事だ。
彼女にとって、僕は敵どころか、玩具にすらならないのかもしれない。
「クソッ」
試しに、辺りの地面を泥のように変化させてみる。
しかし、彼女の足元だけは、魔力を吸われ、どうしても崩せない。
勿論、彼女が歩く道は、彼女の魔法によって、元に戻されて行く。
今の所、一番有効な対抗手段は、彼女が唯一反応した、土塊をぶつける物理攻撃だけだ。
それならばと、僕は周辺に生えている木を片っ端から爆破して彼女の進路をふさいでいく。
これで少しは時間が稼げるはずだ。
僕は木を倒しながら、コランが消えて行った方向とは逆へ走る。
少しでも、長く。少しでも遠くへ。
「え?」
そんな時、僕の目の前に一匹の狼が現れた。
「シバ…?」
そう、それはシバだった。
怪我をしてボロボロのままだが確かにこちらに向かって歩いてくる。
そんな…。
シバが生きているはずがない。
僕が殺したのだから。
違う!これはシバじゃない!
僕はシバの姿をした何かに掌を向ける。
後は魔力を込めるだけだ。
「クゥ~ン」
シバが甘えるような声を上げて、僕に擦り寄る。
シバじゃない。
そう分かっていても僕には魔法が放てなかった。
「やめろっ!」
僕は苦し紛れに、シバを腕でもって、振り払う。
「クゥン?」
振り払われたシバは不思議そうに首を傾げた。
その瞳は唯、僕だけを映している。
「違う!違うんだよ!シバ!シバはシバじゃないんだ!」
上手く言葉が出ない。
「もう、シバは死んじゃったんだよ…。僕が、僕が殺したんだよ…」
足に力が入らなくなる。
「ワゥ」
しゃがみ込んだ僕の顔をシバが舐めた。
元気を出せと言っているように。
あぁ、違う。そうんじゃない。
シバは唯、命令されて動いているだけだ。
あの少女に。
…それでも、それでも僕は…。
背中に、冷たい様な、暖かい様な…。優しい感触が負ぶさる。
まるで、僕が初めに死を覚悟したときのような安らかさだった。
「捕まえた」
耳元で囁く少女の声。
その蠱惑的な声は、今、鮮明に僕の耳に届いた。
崩れ去った壁の向こう。
少女は相変わらず、拙い足取りでこちらに歩いて来ている。
先程までと違うのは、彼女の背後から触手のようなものが伸びている事ぐらいだろうか。
僕は再度、少女を観察できるように、角を削った土壁を配置した。
彼女の触手が伸びる。
攻撃と言うほどの速度では無いそれは、土壁に、ちょん。と触る。
それだけで土壁は崩れ去った。
僕は崩れ去った土壁を魔力ソナーで分析する。
すると、魔力が感じられなくなっている事に気が付いた。
如何やらあの触手は魔力を吸収する事ができるらしい。
いや、触手だけではないだろう。
彼女に触れたらすべての魔力を吸い取られる。
魔力は命の源だ。
全て吸収されれば…死ぬ。
僕は土壁を無駄だと判断し、再び距離をとる。
そして、今度は炎と風を混ぜた遠距離攻撃を繰り出した。
いくら魔力を吸い取れるからと言って、魔力で起こした現象をキャンセルすることはできない。
炎を纏った風の渦が少女を飲み込む。
「はぁあああああ!」
僕は息を吐きながら、途切れさせないよう、炎の渦を出し続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
炎が散れば無傷の少女が歩みを進めている姿が目に入る。
こちらの攻撃など、気にも留めていない様子だった。
「だよね」
ダメで元々だ。
生物としての存在を感じさせない黒。
それは、呼吸もしていなければ、焼け爛《ただ》れる皮膚《ひふ》も持ち合わせていないのだろう。
「って、呼吸も何も、口すらない、のっぺらぼうだもんね」
しかし、彼女に顔が無いのは助かった。
人間味が薄れてより、攻撃しやすくなる。
息を整えた僕は、魔力で無数の土塊を持ち上げ、彼女に向けて放る。
それを見た彼女はたちまち触手の数を増やし、全てを叩き落とした。
「反則でしょ…」
あの触手の数に制限らしい制限は無いように思える。
加えて、土塊を叩き落としたときの速度。風を切る音がしていた。
つまり、彼女がその気になればいつでも無数の触手を展開し、あの速度で僕を捕える事ができる。と言う事だ。
彼女にとって、僕は敵どころか、玩具にすらならないのかもしれない。
「クソッ」
試しに、辺りの地面を泥のように変化させてみる。
しかし、彼女の足元だけは、魔力を吸われ、どうしても崩せない。
勿論、彼女が歩く道は、彼女の魔法によって、元に戻されて行く。
今の所、一番有効な対抗手段は、彼女が唯一反応した、土塊をぶつける物理攻撃だけだ。
それならばと、僕は周辺に生えている木を片っ端から爆破して彼女の進路をふさいでいく。
これで少しは時間が稼げるはずだ。
僕は木を倒しながら、コランが消えて行った方向とは逆へ走る。
少しでも、長く。少しでも遠くへ。
「え?」
そんな時、僕の目の前に一匹の狼が現れた。
「シバ…?」
そう、それはシバだった。
怪我をしてボロボロのままだが確かにこちらに向かって歩いてくる。
そんな…。
シバが生きているはずがない。
僕が殺したのだから。
違う!これはシバじゃない!
僕はシバの姿をした何かに掌を向ける。
後は魔力を込めるだけだ。
「クゥ~ン」
シバが甘えるような声を上げて、僕に擦り寄る。
シバじゃない。
そう分かっていても僕には魔法が放てなかった。
「やめろっ!」
僕は苦し紛れに、シバを腕でもって、振り払う。
「クゥン?」
振り払われたシバは不思議そうに首を傾げた。
その瞳は唯、僕だけを映している。
「違う!違うんだよ!シバ!シバはシバじゃないんだ!」
上手く言葉が出ない。
「もう、シバは死んじゃったんだよ…。僕が、僕が殺したんだよ…」
足に力が入らなくなる。
「ワゥ」
しゃがみ込んだ僕の顔をシバが舐めた。
元気を出せと言っているように。
あぁ、違う。そうんじゃない。
シバは唯、命令されて動いているだけだ。
あの少女に。
…それでも、それでも僕は…。
背中に、冷たい様な、暖かい様な…。優しい感触が負ぶさる。
まるで、僕が初めに死を覚悟したときのような安らかさだった。
「捕まえた」
耳元で囁く少女の声。
その蠱惑的な声は、今、鮮明に僕の耳に届いた。
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