Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
71 / 132
むかえに来たよ。

第70話 メグルと後悔

しおりを挟む
 僕が生み出した土の壁は一瞬で溶けた。

 崩れ去った壁の向こう。
 少女は相変わらず、つたない足取りでこちらに歩いて来ている。
 先程までと違うのは、彼女の背後から触手のようなものが伸びている事ぐらいだろうか。

 僕は再度、少女を観察できるように、角を削った土壁を配置した。

 彼女の触手が伸びる。
 攻撃と言うほどの速度では無いそれは、土壁に、ちょん。と触る。
 それだけで土壁は崩れ去った。

 僕は崩れ去った土壁を魔力ソナーで分析ぶんせきする。
 すると、魔力が感じられなくなっている事に気が付いた。

 如何やらあの触手は魔力を吸収する事ができるらしい。
 いや、触手だけではないだろう。
 彼女に触れたらすべての魔力を吸い取られる。

 魔力は命の源だ。
 全て吸収されれば…死ぬ。

 僕は土壁を無駄だと判断し、再び距離をとる。
 そして、今度は炎と風を混ぜた遠距離攻撃を繰り出した。

 いくら魔力を吸い取れるからと言って、魔力で起こした現象をキャンセルすることはできない。
 炎をまとった風のうずが少女を飲み込む。

「はぁあああああ!」
 僕は息を吐きながら、途切れさせないよう、炎の渦を出し続けた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
 炎が散れば無傷の少女が歩みを進めている姿が目に入る。
 こちらの攻撃など、気にも留めていない様子だった。

「だよね」
 ダメで元々だ。
 生物としての存在を感じさせない黒。
 それは、呼吸もしていなければ、焼け爛《ただ》れる皮膚《ひふ》も持ち合わせていないのだろう。

「って、呼吸も何も、口すらない、のっぺらぼうだもんね」
 しかし、彼女に顔が無いのは助かった。
 人間味が薄れてより、攻撃しやすくなる。

 息を整えた僕は、魔力で無数の土塊を持ち上げ、彼女に向けて放る。
 それを見た彼女はたちまち触手の数を増やし、全てを叩き落とした。

「反則でしょ…」
 あの触手の数に制限らしい制限は無いように思える。

 加えて、土塊を叩き落としたときの速度。風を切る音がしていた。
 つまり、彼女がその気になればいつでも無数の触手を展開し、あの速度で僕を捕える事ができる。と言う事だ。
 彼女にとって、僕は敵どころか、玩具にすらならないのかもしれない。

「クソッ」
 試しに、辺りの地面を泥のように変化させてみる。
 しかし、彼女の足元だけは、魔力を吸われ、どうしても崩せない。

 勿論、彼女が歩く道は、彼女の魔法によって、元に戻されて行く。
 今の所、一番有効な対抗手段は、彼女が唯一反応した、土塊をぶつける物理攻撃だけだ。

 それならばと、僕は周辺に生えている木を片っ端から爆破して彼女の進路をふさいでいく。
 これで少しは時間が稼げるはずだ。

 僕は木を倒しながら、コランが消えて行った方向とは逆へ走る。
 少しでも、長く。少しでも遠くへ。

「え?」
 そんな時、僕の目の前に一匹の狼が現れた。

「シバ…?」
 そう、それはシバだった。
 怪我をしてボロボロのままだが確かにこちらに向かって歩いてくる。

 そんな…。
 シバが生きているはずがない。
 僕が殺したのだから。

 違う!これはシバじゃない!
 僕はシバの姿をした何かに掌を向ける。
 後は魔力を込めるだけだ。

「クゥ~ン」
 シバが甘えるような声を上げて、僕に擦り寄る。

 シバじゃない。
 そう分かっていても僕には魔法が放てなかった。

「やめろっ!」
 僕は苦しまぎれに、シバを腕でもって、振り払う。

「クゥン?」
 振り払われたシバは不思議そうに首を傾げた。
 その瞳は唯、僕だけを映している。

「違う!違うんだよ!シバ!シバはシバじゃないんだ!」
 上手く言葉が出ない。

「もう、シバは死んじゃったんだよ…。僕が、僕が殺したんだよ…」
 足に力が入らなくなる。

「ワゥ」
 しゃがみ込んだ僕の顔をシバが舐めた。
 元気を出せと言っているように。

 あぁ、違う。そうんじゃない。
 シバは唯、命令されて動いているだけだ。
 あの少女に。

 …それでも、それでも僕は…。

 背中に、冷たい様な、暖かい様な…。優しい感触がぶさる。
 まるで、僕が初めに死を覚悟したときのような安らかさだった。

「捕まえた」
 耳元でささやく少女の声。
 その蠱惑的こわくてきな声は、今、鮮明に僕の耳に届いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

処理中です...