68 / 132
むかえに来たよ。
第67話 メグルと黒い影
しおりを挟む
「速かったら言ってね」
僕は現在、薙刀を杖代わりに、山道を進んでいた。
「はい」
そう言って、リリーは嬉しそうに僕の手を取る。
確かにこうすれば同じペースで歩ける。
リリーは頭が回る様だった。
今回の目的地は洞窟の家だ。
勿論、母さんたちに会う為である。
僕がどう思われていようが、シバの事だけは伝えなくてはならない。
僕がシバを殺した。
それを知ったら皆はどんな顔をするだろうか。
兄弟よりも村人の命を優先させた僕を軽蔑するだろうか。
それとも、事情を汲んで、慰めてくれるのだろうか。
…どっちも嫌だな…。
そんな考えが僕の足取りを重たくする。
コランを背負っているせいもあってか、山慣れしている僕でも、自然にリリーと歩速が合った。
僕が横を向けば、リリーと目が合う。
「…?」
リリーは、どうしたの?と、言いたげに首を傾げた。
僕は、何でもない。と、言う風に首を振り、前に向き直る。
リリー達の事もどうにかしなければいけない。
家で一時的に匿ってもらう。
確かにそれは可能だ。
しかし、皆が僕に対してどのような態度を示してくるか分からない。
最悪。…戦闘になってもおかしくない。
僕はそれだけの事をしたのだから。
自然と奥歯に力が籠る。
そうなった場合…。
…リリー達には悪いが、僕はそこで終わりにさせてもらう。
そして、もし皆が僕たちを受け入れてくれた場合。
それでも、家に長居させるというには気が引けた。
預かる方、預けられる方、双方に負担が大きすぎる。
「森…。静かですね」
そんな事を考えていると、リリーがポツリと呟いた。
僕は意識を現実に戻し、耳を澄ませる。
…確かに静かだ。
いや、静かすぎる。
流石に、鳥の囀り一つ聞こえないのは、異様だった。
「変…。ですよね?」
意識を別に向けていた僕とは違い、リリーは初めから異変に気付いた様だった。
一つの事に集中すると周りが見えなくなと言う、僕の癖は、どうしても抜けないらしい。
「そうだね…。どうしたんだろう」
あれだけの爆発があったのだ。
森の動物たちが警戒して出てこないだけかもしれない。
…でも、そうじゃないかもしれない。
僕は一度、思考を中断し、辺りを警戒しながら進む。
途中、何度か魔力を放ち、辺りを確認した。
しかし、動物どころか、昆虫などの小さな生き物まで見られない…。
僕は一層、警戒を強めた。
…そういえば母さんたちは大丈夫なのだろか。
ふと、頭をよぎった疑問に、背筋が凍った。
これだけの異変が起きているのだ。
母さんたちだけが巻き込まれていないとは考えにくい。
「まさか…」
カーネが?と、口に出しそうになった所で、リリーの存在を思い出した。
それでも思ってしまう。
殺しておけばよかったと。
「…大丈夫ですか?」
リリーが両手で、僕の手を包み込んでくれた。
僕はハッとなって、リリーの手を離す。
僕が掴んでいた彼女の手は真っ赤に染まっていた。
「ごめん…」
焦燥感を押し殺し、何とか謝った僕。
しかし、彼女の顔を正面から見る事は出来なかった。
彼女を見ていると、自分の事しか考えられない自分が嫌になる。
彼女はこんなにも僕を心配してくれていると言うのに。
「…ッ?!」
そんな時、僕は背後から嫌な雰囲気を感じた。
いや、雰囲気と言うよりは、存在を感じたといった方が良いかもしれない。
それ程に、その気配は濃く。僕の存在の全てが、それを拒絶した。
チュンチュンチュン
ワォ~ン!
ブヒィ!
静かだった森に、様々な動物の鳴き声が鳴り響く。
そう、僕の背後、その一点から。
「キャッ!」
僕は振り返りざまに、リリーの手を引くと体ごと抱き寄せた。
そして、リリーを守る様に、背に回す。
少し乱暴な気もするが、そんな事に気を割く余裕もない。
振り向いた先には歪な形をした黒い少女が立っていた。
少女の体では、至る所で、動物のパーツが現れたり、飲み込まれたりを繰り返している。
まるで、動物たちが、少女の外に出たがっているようだった。
…この世の生き物とは思えない程、醜悪な見た目をしている。
それでも辛うじて少女だと認識できたのは、長い髪のおかげだろう。
「し…ま。…むか…きた、よ…」
少女は何かを呟くと、今にも崩れだしそうな体で、こちらに両手を伸ばした。
僕は現在、薙刀を杖代わりに、山道を進んでいた。
「はい」
そう言って、リリーは嬉しそうに僕の手を取る。
確かにこうすれば同じペースで歩ける。
リリーは頭が回る様だった。
今回の目的地は洞窟の家だ。
勿論、母さんたちに会う為である。
僕がどう思われていようが、シバの事だけは伝えなくてはならない。
僕がシバを殺した。
それを知ったら皆はどんな顔をするだろうか。
兄弟よりも村人の命を優先させた僕を軽蔑するだろうか。
それとも、事情を汲んで、慰めてくれるのだろうか。
…どっちも嫌だな…。
そんな考えが僕の足取りを重たくする。
コランを背負っているせいもあってか、山慣れしている僕でも、自然にリリーと歩速が合った。
僕が横を向けば、リリーと目が合う。
「…?」
リリーは、どうしたの?と、言いたげに首を傾げた。
僕は、何でもない。と、言う風に首を振り、前に向き直る。
リリー達の事もどうにかしなければいけない。
家で一時的に匿ってもらう。
確かにそれは可能だ。
しかし、皆が僕に対してどのような態度を示してくるか分からない。
最悪。…戦闘になってもおかしくない。
僕はそれだけの事をしたのだから。
自然と奥歯に力が籠る。
そうなった場合…。
…リリー達には悪いが、僕はそこで終わりにさせてもらう。
そして、もし皆が僕たちを受け入れてくれた場合。
それでも、家に長居させるというには気が引けた。
預かる方、預けられる方、双方に負担が大きすぎる。
「森…。静かですね」
そんな事を考えていると、リリーがポツリと呟いた。
僕は意識を現実に戻し、耳を澄ませる。
…確かに静かだ。
いや、静かすぎる。
流石に、鳥の囀り一つ聞こえないのは、異様だった。
「変…。ですよね?」
意識を別に向けていた僕とは違い、リリーは初めから異変に気付いた様だった。
一つの事に集中すると周りが見えなくなと言う、僕の癖は、どうしても抜けないらしい。
「そうだね…。どうしたんだろう」
あれだけの爆発があったのだ。
森の動物たちが警戒して出てこないだけかもしれない。
…でも、そうじゃないかもしれない。
僕は一度、思考を中断し、辺りを警戒しながら進む。
途中、何度か魔力を放ち、辺りを確認した。
しかし、動物どころか、昆虫などの小さな生き物まで見られない…。
僕は一層、警戒を強めた。
…そういえば母さんたちは大丈夫なのだろか。
ふと、頭をよぎった疑問に、背筋が凍った。
これだけの異変が起きているのだ。
母さんたちだけが巻き込まれていないとは考えにくい。
「まさか…」
カーネが?と、口に出しそうになった所で、リリーの存在を思い出した。
それでも思ってしまう。
殺しておけばよかったと。
「…大丈夫ですか?」
リリーが両手で、僕の手を包み込んでくれた。
僕はハッとなって、リリーの手を離す。
僕が掴んでいた彼女の手は真っ赤に染まっていた。
「ごめん…」
焦燥感を押し殺し、何とか謝った僕。
しかし、彼女の顔を正面から見る事は出来なかった。
彼女を見ていると、自分の事しか考えられない自分が嫌になる。
彼女はこんなにも僕を心配してくれていると言うのに。
「…ッ?!」
そんな時、僕は背後から嫌な雰囲気を感じた。
いや、雰囲気と言うよりは、存在を感じたといった方が良いかもしれない。
それ程に、その気配は濃く。僕の存在の全てが、それを拒絶した。
チュンチュンチュン
ワォ~ン!
ブヒィ!
静かだった森に、様々な動物の鳴き声が鳴り響く。
そう、僕の背後、その一点から。
「キャッ!」
僕は振り返りざまに、リリーの手を引くと体ごと抱き寄せた。
そして、リリーを守る様に、背に回す。
少し乱暴な気もするが、そんな事に気を割く余裕もない。
振り向いた先には歪な形をした黒い少女が立っていた。
少女の体では、至る所で、動物のパーツが現れたり、飲み込まれたりを繰り返している。
まるで、動物たちが、少女の外に出たがっているようだった。
…この世の生き物とは思えない程、醜悪な見た目をしている。
それでも辛うじて少女だと認識できたのは、長い髪のおかげだろう。
「し…ま。…むか…きた、よ…」
少女は何かを呟くと、今にも崩れだしそうな体で、こちらに両手を伸ばした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる