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ダメ!それは私の!
第58話 メグルと取捨選択
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爆発と共に跳躍した僕は、彼女が冷静に僕を見据えている事に気が付く。
嫌な予感がした僕は空中で再度、爆発を起こすと、自身でも予想できない方向に進行方向をずらした。
当然、体勢を崩した僕は地面へと転がるが、受け身を取って即座に立ち上がる。
多少の痛みなど気にしている暇はなかった。
すると、彼女の掌から火球が消えている事に気が付く。
一体どこに…。
次の瞬間、背後から大地をも揺るがす爆発音が響いてきた。
爆音の後、辺りは静寂と暗闇に包まれる。
驚きのあまり後ろに振り返ると、燃えていた村が吹き飛んでいた。
なんて威力だ。
改めて、カーネの方を振り返る。
村が消し飛んだと言うのに、彼女は気にした様子もなく、次の火球を生み出そうとしていた。
月明りと、自身の生み出した火球に照らされ、虚ろな表情をする彼女。
僕は純粋に彼女が狂っていると思った。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
それにそんなものを森に放たれた日には母さんたちも無事では済まないだろう。
彼女には申し訳ないが、殺す気で行かせてもらう。
僕は再び地面を蹴ると勢いそのまま彼女に殴りかかった。
いや、殴りかかるように見せかけて、土塊をまとめ上げて作った砲弾を、死角から彼女に放ったのだ。
どんなに魔力があろうとも、その集中を乱せば火球は暴走し、爆発する。それを狙った攻撃なのだが…。
「よし!」
案の定、土くれを正面から喰らった彼女は驚いたような顔をして、火球を爆発させた。
同時に爆風が空中にいた僕を襲う。
不完全だった火球にそこまでの威力はなかったが、それでも空中にいた僕が吹き飛ばされるほどの威力はあった。
中心にいた彼女は一溜りもないだろう。
爆煙が晴れると、予想通り、彼女はその場に伸びていた。
「ふぅ…」
僕は汗を腕で拭いつつ、溜息を吐いた。
彼女には悪いが、このまま放置できる存在ではなかったのだ。
僕は彼女の息を確認する為に傍にゆっくりと腰を下ろす。
「嘘…」
生きてる。…息をしている。
あれだけのダメージを負っておきながら、肢体の一つも失っていなかった。
周りを見ると土塊が散乱している。
まさか、僕が土塊を操作したあの一瞬で、使い方を覚えて、壁を作ったの?
…怖い。今手を打たなければどうなってしまうかわからない。
僕は懐から愛用の解体用ナイフを取り出し、彼女の上に跨った。
今なら彼女をやれる。首に刃を当てて、引くだけだ。
大丈夫…できる。今僕がやらなければ皆が危険に晒されるんだ!
カーネのあどけない表情を見ると、ナイフを持つ手が震える。
今にも手から零れ落ちてしまいそうだった。
それを抑えるために僕はさらに強く刃物を握る。
ふと、彼女の顔に赤い液体が零れた。
自分の腕を見てみれば血が滴《したた》り落ちているのが見える。
如何やらナイフを強く握りすぎた為に、爪が掌の皮膚に食い込んでしまったらしい。
しかし、痛みなど全く感じなかった。
未だに震える腕をもう片方の腕で抑え込む。
大きく息を吸い込むと、僕は勇気を振り絞ってその細い首に刃を当てがった。
彼女の息が僕の顔に掛かる。彼女はまだ生きている。
…僕が…殺す。
ちょっと大人っぽい雰囲気を醸し出す彼女。
それでいて中身は結構、子どもっぽかったりする。
村で初めてあった時には黒髪同士という事で、良くしてくれたし、リリーにだって会わせてくれた。
彼女の暗い過去だって「皆には秘密よ」と言いながら教えてくれた。
同じような境遇の子がいる事にどれだけ心が救われたか。
リリーはお姉ちゃん子だと言う。
彼女を殺したら僕はどれだけ恨まれるだろうか?
いや、そんな事はどうでも良い。僕は彼女の未来を奪えるのか?
僕だってマロウさん達が居なければ、一歩間違えば今頃そっち側だったんだ。
そんな彼女の未来を、こんなあどけない表情をした彼女を…僕は。
「無理…。そんなの無理だよっ!」
僕はナイフを彼女の横に突き刺すと、逃げ出した。
そんな事をしても何の解決にもならないと知りながら。
嫌な予感がした僕は空中で再度、爆発を起こすと、自身でも予想できない方向に進行方向をずらした。
当然、体勢を崩した僕は地面へと転がるが、受け身を取って即座に立ち上がる。
多少の痛みなど気にしている暇はなかった。
すると、彼女の掌から火球が消えている事に気が付く。
一体どこに…。
次の瞬間、背後から大地をも揺るがす爆発音が響いてきた。
爆音の後、辺りは静寂と暗闇に包まれる。
驚きのあまり後ろに振り返ると、燃えていた村が吹き飛んでいた。
なんて威力だ。
改めて、カーネの方を振り返る。
村が消し飛んだと言うのに、彼女は気にした様子もなく、次の火球を生み出そうとしていた。
月明りと、自身の生み出した火球に照らされ、虚ろな表情をする彼女。
僕は純粋に彼女が狂っていると思った。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
それにそんなものを森に放たれた日には母さんたちも無事では済まないだろう。
彼女には申し訳ないが、殺す気で行かせてもらう。
僕は再び地面を蹴ると勢いそのまま彼女に殴りかかった。
いや、殴りかかるように見せかけて、土塊をまとめ上げて作った砲弾を、死角から彼女に放ったのだ。
どんなに魔力があろうとも、その集中を乱せば火球は暴走し、爆発する。それを狙った攻撃なのだが…。
「よし!」
案の定、土くれを正面から喰らった彼女は驚いたような顔をして、火球を爆発させた。
同時に爆風が空中にいた僕を襲う。
不完全だった火球にそこまでの威力はなかったが、それでも空中にいた僕が吹き飛ばされるほどの威力はあった。
中心にいた彼女は一溜りもないだろう。
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「ふぅ…」
僕は汗を腕で拭いつつ、溜息を吐いた。
彼女には悪いが、このまま放置できる存在ではなかったのだ。
僕は彼女の息を確認する為に傍にゆっくりと腰を下ろす。
「嘘…」
生きてる。…息をしている。
あれだけのダメージを負っておきながら、肢体の一つも失っていなかった。
周りを見ると土塊が散乱している。
まさか、僕が土塊を操作したあの一瞬で、使い方を覚えて、壁を作ったの?
…怖い。今手を打たなければどうなってしまうかわからない。
僕は懐から愛用の解体用ナイフを取り出し、彼女の上に跨った。
今なら彼女をやれる。首に刃を当てて、引くだけだ。
大丈夫…できる。今僕がやらなければ皆が危険に晒されるんだ!
カーネのあどけない表情を見ると、ナイフを持つ手が震える。
今にも手から零れ落ちてしまいそうだった。
それを抑えるために僕はさらに強く刃物を握る。
ふと、彼女の顔に赤い液体が零れた。
自分の腕を見てみれば血が滴《したた》り落ちているのが見える。
如何やらナイフを強く握りすぎた為に、爪が掌の皮膚に食い込んでしまったらしい。
しかし、痛みなど全く感じなかった。
未だに震える腕をもう片方の腕で抑え込む。
大きく息を吸い込むと、僕は勇気を振り絞ってその細い首に刃を当てがった。
彼女の息が僕の顔に掛かる。彼女はまだ生きている。
…僕が…殺す。
ちょっと大人っぽい雰囲気を醸し出す彼女。
それでいて中身は結構、子どもっぽかったりする。
村で初めてあった時には黒髪同士という事で、良くしてくれたし、リリーにだって会わせてくれた。
彼女の暗い過去だって「皆には秘密よ」と言いながら教えてくれた。
同じような境遇の子がいる事にどれだけ心が救われたか。
リリーはお姉ちゃん子だと言う。
彼女を殺したら僕はどれだけ恨まれるだろうか?
いや、そんな事はどうでも良い。僕は彼女の未来を奪えるのか?
僕だってマロウさん達が居なければ、一歩間違えば今頃そっち側だったんだ。
そんな彼女の未来を、こんなあどけない表情をした彼女を…僕は。
「無理…。そんなの無理だよっ!」
僕はナイフを彼女の横に突き刺すと、逃げ出した。
そんな事をしても何の解決にもならないと知りながら。
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