Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
57 / 132
ダメ!それは私の!

第56話 カーネと過去

しおりを挟む
「このクソガキが!」
 父が私を殴る。
 如何どうやら私の目が気に入らなかったらしい。

「どうして?どうして貴方はそんな髪の色なの?」
 母が泣きながら私の髪を引っ張る。泣きたいのは私なのに。

「おい!見ろよ!悪魔の使いだぜ!」
「こっちくな!悪魔め!」
 村の子どもたちが私に石を投げる。何故そんな事をするの?

 痛い。痛い。皆が痛い事をする。
 私は何にも悪い事なんてしてないのに。

「くそぅ…。なんでこうも上手くいかねぇんだ…」
 その日も父は朝からお酒を飲んでいた。
 外に出る事を許されていない私は、部屋の隅で丸くなり、父の癇癪かんしゃくおびえている。
 いつも通りの日常だった。

「なんだその目は?」
 父さん方など見てもいないのに、言い掛かりをつけられる。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」
 私はそれでも必死に謝った。
 そうするしかなかったから。そうする以外の方法を知らなかったから。

 しかし、その日は一段と父の機嫌が悪く、私は酒瓶さかびんこぶしで何度も殴られた。

「あ」
 とうとう私はあまりの痛みに我慢しきれず、父の腕を払いのけてしまった。
 父は酒に酔っていたせいもあり、それだけでバランスを崩して倒れてしまう。

 それを見た私は戦慄せんりつした。
 起き上がった父から振るわれるであろう暴力を想像して。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」
 私は怯えながらも床に頭をこすり付けて謝る。
 当時の私には本当にそれしかなかったのだ。
 そう、この日までは。

「…あ、れ?」
 いつまでっても振るわれる事のない暴力を疑問に思い、私は顔を上げた。

 父は倒れたままだった。…もう動かなかった。
 その時私は知ったのだ。こうすればよかったのだと。

 悪い事をしなくても、痛い事をされるなら、悪い事をして、痛い事をされても同じだ。

 それに、痛い事をしてくる相手を殺してしまえば、それだけで痛い思いをせずに済む。

 気まぐれに、父の顔を覗き込んでみれば、驚いたような表情のまま死んでいた。
 まるで、非力な私に抵抗されるなんて、夢にも思わなかったような表情だ。

 …これは使えると思った。
 きっと母も私に油断しているはず…。

 その時、私の心は妙に軽くなった。
 そうと決まれば準備あるのみだ。

 玄関の前に酒瓶を散らばす。
 後は玄関にある棚の上に私が登って…。

 母が帰ってきたのを確認すると、酒瓶を持った私はその上に飛び降りた。

「な、なに?!」
 残念な事に私が放った渾身こんしんの一撃は外れてしまったが、うろたえた母は酒瓶に足を取られた。

 バランスを崩した母に追い打ちをかける様に飛び掛かる。
 それだけで、母は床に倒れた。

「この悪魔め!何をするの!」
 床に転がった母の頭は私の身長より下にあった。
 これなら…いける。

「え?!ちょ、ちょっと待って!何をするきぃ?!」
 母の言葉を聞き終える前に、私は酒瓶を振り下ろした。
 一発では足りない。何度も何度も。

 割れた酒瓶は投げ捨て、すぐにそばに落ちている酒瓶を拾い直す。
 そうして、念入りに母の顔を潰していった。

「はぁ、はぁ。……ふぅ」
 流石さすがに息が切れた私は、動かなくなった母を見て安堵あんどの息を吐いた。

 今までにない感情。
 今思えば達成感だったのかもしれない。
 私は安心感と、気持ちの良い疲労で、眠たくなる。

 その日は床ではなく、父と母のベッドで眠った。
 怯える必要もない。好きな物も食べられる。
 とても幸せな夜だった。

 私はしばらくその家に潜伏せんぷくしたが、気づかれるのも時間の問題だと、タイミングを見計らって村を出た。

 その後の私は大きな町のスラム街に流れ着き、そこでしいたげられていたリリーと出会う事になるのだが、どうやら私はもう目覚めなければいけないらしい。


「あぁ」
 声を出して目を開ければ、そこには血の海が広がっていた。
 燃え盛る炎が、赤い海に反射する。とても美しい光景。

 立ち上がり、辺りを見回せばもう黒い少女も牙獣のペアも見当たらなくなっていた。

 私はてのひらに意識を集中させると、火の球を生み出す。

 これは彼女からのプレゼントのようだった。
 体にみょうな模様のあざができているが、そんなものはこの力を与えてくれた事と比べれば些細ささいな物だった。

「バイバイ」
 私は村人達の死体に向かって火を放つ。

 その言葉は村人に向けて言った言葉なのか、はたまたこの村で育った自分自身に向けた言葉のか。

 心なしか胸が苦しくなったのは、私がリリーを探す為、走り始めたせいだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

追放から始まる新婚生活 【追放された2人が出会って結婚したら大陸有数の有名人夫婦になっていきました】

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
 役に立たないと言われて、血盟を追放された男性アベル。 同じく役に立たないと言われて、血盟を解雇された女性ルナ。  そんな2人が出会って結婚をする。 【2024年9月9日~9月15日】まで、ホットランキング1位に居座ってしまった作者もビックリの作品。 最終的には。9月9日~9月28日までホトラン20位以内をキープしてました@@:  結婚した事で、役に立たないスキルだと思っていた、家事手伝いと、錬金術師。 実は、トンデモなく便利なスキルでした。  最底辺、大陸商業組合ライセンス所持者から。 一転して、大陸有数の有名人に。 これは、不幸な2人が出会って幸せになっていく物語。 極度の、ざまぁ展開はありません。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。

向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...