56 / 132
ダメ!それは私の!
第55話 カーネとヤミ
しおりを挟む
私はカクタスが居なくなったのを見計らい、森に向かって駆ける。
世界どうこうの前に、まずはリリーを助けなければならない。
話はそれからだった。
「ちょっと、カーネちゃん!どこ行くの?!」
酒屋のおばさんが村人の集団から離れる私を見て声を掛けて来た。
それにより、こちらに全く気付いていなかった村人たちの視線までもが、こちらを向く。
この期に及んで、まだこの世界は私の邪魔をしようと言うのか。鬱陶しい。
「妹がまだ帰ってきていないんです!探しに行かないと!」
私は心の中で燻る黒を覆い隠し、懇願するような表情で皆に訴えかけた。
「カーネちゃん。気持ちは分かるが、今は夜だ。それにカクタスさんもいる。それでも見つからなかったら、明日、明るいうちに皆で探しに行こうな」
隣のおじさんが私を宥める様な口調でそんな事を言い始めた。
まるで自分達が正しいかのように。
その間にリリーに何かあったらどうするんだ!
他人事だからそんな悠長な事が言えるんだ!
私はそう叫びたくなった。
しかし、そうしなかったのは、周囲の人々の視線が、おじさんと同じものであったからに他ならない。
やはりこの世界は狂っている。
そんなものに構って時間を浪費した私が馬鹿だった。
…どこか期待していたのだろうか?皆が一緒に探してくれることに。
…馬鹿馬鹿しい。リリーが待っている。もう行かなくては。
私は背を向け、駆け出す。
「カーネーちゃん!」
しかし、大人はその力で私に追いつき、拘束する。
「やめて!はなして!リリーを!リリーを助けに行かないと!」
私は拘束を解こうと、必死にもがいた。
しかし、それすらも、大人の力の前にねじ伏せられてしまう。
「いい加減にしなさいカーネちゃん!我儘ばっかり言っているとカクタスさんに言いつかるからね!」
そんな事はどうでも良い。
もうあんな奴の下へ帰るつもりもないし、今後一切会う予定もない。
「誰か!助けて!」
私の叫びに呼応するかのように、背後で村人たちの悲鳴が上がった。
私を拘束していた村人もそちらに気を取られ、拘束が緩くなる。
私はその瞬間を見逃さずに、相手を蹴って拘束から抜け出した。
「あ!ちょっと、カーネちゃ」
そこまで口に出した村人の声が途切れた。
その代わりと言っては何だが、ブチブチブチと、肉を引き千切る様な音が聞こえてくる。
私はその異変に堪らず振り返った。
丁度その時、私の顔に生暖かい何かが掛かる。
「いや!」
私は咄嗟に袖で顔を拭った。
鉄のような匂いと、ぬめぬめした暖かい感触が顔面を這う。
目を開け、真っ赤に染まった袖と、辺りの惨状を見ればこれが何かは一目瞭然だった。
…あぁ、これは血だ。
何故すぐに気が付かなかったのだろう。
昔は慣れ親しみ、最も警戒した物の一つだったはずなのに。
「グルルルルゥ」
目の前には村人の返り血を一杯に浴びた二匹の牙獣が立っていた。
「はははっ」
自然と笑いが零れる。
血の匂いも嗅ぎ分けられなくなった私は丁度良い末路かも知れない。
力のない私は彼らを振り払う事などできないのだから。
「…」
私の覚悟とは裏腹に、牙獣達は襲ってこなかった。
私など殺す価値もないと言うのだろうか。
しかし如何やらそうではないらしい。
私の前に霧のような、黒い何かが集まり始めたのを見れば、それは一目瞭然だった。
しかし、我ながら殺す価値がないとは笑える。
一度、対峙した相手は、生かす価値のない限り殺すのが鉄則だろう。
本当にどこまでも私の頭は腐ってしまっているようだった。
しかし、生かす価値があると言うのであれば身を任せよう。
どんなに正義を叫ぼうとも、どんなに優しくあろうとも、死んでしまってはどうにもならない。
私はそれを良く知っている。
私は大人しくその場に立ち尽くしていると、目の前に少女が現れた。
色は黒一色。
顔は無く、辛うじて長い髪から少女であると憶測する事しかできなかった。
彼女はゆっくりとその小さな掌を私に伸ばす。
しかし、それだけの行為で私は今までに感じた事がないほどの恐怖を感じた。
私は彼女が怖い。
逆らえば殺されるよりも恐ろしい事が待っている。そう思えた。
「あ」
少女の手が私に触れる。そこで私の意識は途絶えた。
世界どうこうの前に、まずはリリーを助けなければならない。
話はそれからだった。
「ちょっと、カーネちゃん!どこ行くの?!」
酒屋のおばさんが村人の集団から離れる私を見て声を掛けて来た。
それにより、こちらに全く気付いていなかった村人たちの視線までもが、こちらを向く。
この期に及んで、まだこの世界は私の邪魔をしようと言うのか。鬱陶しい。
「妹がまだ帰ってきていないんです!探しに行かないと!」
私は心の中で燻る黒を覆い隠し、懇願するような表情で皆に訴えかけた。
「カーネちゃん。気持ちは分かるが、今は夜だ。それにカクタスさんもいる。それでも見つからなかったら、明日、明るいうちに皆で探しに行こうな」
隣のおじさんが私を宥める様な口調でそんな事を言い始めた。
まるで自分達が正しいかのように。
その間にリリーに何かあったらどうするんだ!
他人事だからそんな悠長な事が言えるんだ!
私はそう叫びたくなった。
しかし、そうしなかったのは、周囲の人々の視線が、おじさんと同じものであったからに他ならない。
やはりこの世界は狂っている。
そんなものに構って時間を浪費した私が馬鹿だった。
…どこか期待していたのだろうか?皆が一緒に探してくれることに。
…馬鹿馬鹿しい。リリーが待っている。もう行かなくては。
私は背を向け、駆け出す。
「カーネーちゃん!」
しかし、大人はその力で私に追いつき、拘束する。
「やめて!はなして!リリーを!リリーを助けに行かないと!」
私は拘束を解こうと、必死にもがいた。
しかし、それすらも、大人の力の前にねじ伏せられてしまう。
「いい加減にしなさいカーネちゃん!我儘ばっかり言っているとカクタスさんに言いつかるからね!」
そんな事はどうでも良い。
もうあんな奴の下へ帰るつもりもないし、今後一切会う予定もない。
「誰か!助けて!」
私の叫びに呼応するかのように、背後で村人たちの悲鳴が上がった。
私を拘束していた村人もそちらに気を取られ、拘束が緩くなる。
私はその瞬間を見逃さずに、相手を蹴って拘束から抜け出した。
「あ!ちょっと、カーネちゃ」
そこまで口に出した村人の声が途切れた。
その代わりと言っては何だが、ブチブチブチと、肉を引き千切る様な音が聞こえてくる。
私はその異変に堪らず振り返った。
丁度その時、私の顔に生暖かい何かが掛かる。
「いや!」
私は咄嗟に袖で顔を拭った。
鉄のような匂いと、ぬめぬめした暖かい感触が顔面を這う。
目を開け、真っ赤に染まった袖と、辺りの惨状を見ればこれが何かは一目瞭然だった。
…あぁ、これは血だ。
何故すぐに気が付かなかったのだろう。
昔は慣れ親しみ、最も警戒した物の一つだったはずなのに。
「グルルルルゥ」
目の前には村人の返り血を一杯に浴びた二匹の牙獣が立っていた。
「はははっ」
自然と笑いが零れる。
血の匂いも嗅ぎ分けられなくなった私は丁度良い末路かも知れない。
力のない私は彼らを振り払う事などできないのだから。
「…」
私の覚悟とは裏腹に、牙獣達は襲ってこなかった。
私など殺す価値もないと言うのだろうか。
しかし如何やらそうではないらしい。
私の前に霧のような、黒い何かが集まり始めたのを見れば、それは一目瞭然だった。
しかし、我ながら殺す価値がないとは笑える。
一度、対峙した相手は、生かす価値のない限り殺すのが鉄則だろう。
本当にどこまでも私の頭は腐ってしまっているようだった。
しかし、生かす価値があると言うのであれば身を任せよう。
どんなに正義を叫ぼうとも、どんなに優しくあろうとも、死んでしまってはどうにもならない。
私はそれを良く知っている。
私は大人しくその場に立ち尽くしていると、目の前に少女が現れた。
色は黒一色。
顔は無く、辛うじて長い髪から少女であると憶測する事しかできなかった。
彼女はゆっくりとその小さな掌を私に伸ばす。
しかし、それだけの行為で私は今までに感じた事がないほどの恐怖を感じた。
私は彼女が怖い。
逆らえば殺されるよりも恐ろしい事が待っている。そう思えた。
「あ」
少女の手が私に触れる。そこで私の意識は途絶えた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる