Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
55 / 132
ダメ!それは私の!

第54話 ミランとあの頃の私達

しおりを挟む
「ちょっと危ないじゃない!」
 やっと一息つけた私は振り向かずに文句を言う。

「何を言う!貴様が足元ばかりに目を向けているから…。おっとすまん」
 カクタスは興奮からか口調が荒々しくなった事をびているようだった。

「冗談よ。…アンタ。中々良い動きするじゃない。見直したわよ」
 それに対して私も冒険者の時同様の口調で返す。
 こういう血生臭いの。嫌いじゃない。

「フッ…そうか。貴様も先程までとは大違いだ。どっちが本物なんだ?」
 カクタスが私の背中を守りながら意地悪い質問をしてくる。

「そんなのアンタが一番分かってるんだろ?お父さん」
 私はカクタスの背中を守りながらその問いに皮肉で返した。

「はっはっは!これは一本取られた!お前の旦那は良くお前を手に入れられたものだ!」
 敵に囲まれている事など気にもしないように、カクタスは豪快ごうかいに笑う。

「うっさいわね!んな事はどうでも良いのよ!」
 私は顔を赤らめながら、牙獣の首を切り落とした。

「そうだな!今はどうでも良い事だ!」
 後ろでも接戦が繰り広げられているだろうに、それを全く感じさせない返答。
 あぁ、楽しい。こんなにも危機迫る戦いだと言うのに、何故にこうにも楽しいのか。

 私は一瞬思い浮かんだコランの顔をすぐに頭からかき消す。
 今の私は親ではない。親であってはらないのだ。
 もし親に戻ってしまったら、失う恐怖で体が動かなくなってしまうから。

 私は冒険者ミランだ。
 そして背を任せるのは二児の父親ではなく、鬼の衛兵長カクタス。
 お互いの全盛期をなぞる様に戦う。背負うものなど思い出さぬように。

「「これで終わりだ!」」
 互いに最後の一匹を切り伏せる。既に息は絶え絶えだった。

「お、わった…な」
「そう、みたいだな」
 お互いに背を預け、その場にしゃがみ込む。もはや指一本動かす気力もなかった。

「おいおい。マジかよ」
 燃える村を背に、二匹の牙獣がこちらに向かって歩いて来ていた。
 あちらは村人たちがいたはずの方角だ。
 …彼らの体についているおびただしい量の返り血を見るに、誰一人生き残っていないだろう。

「まだ残っていたみたいだな」
 カクタスが剣を杖代わりに立ち上がろうとした、次の瞬間。

「…え?」
 カクタスが倒れこんだ。
 その顔には岩がめり込んでいる。

「…」
 私は声も出せずに固まっていた。
 カクタスはまだ生きているのか、ピクピクと痙攣けいれんしていたが、暫くすると動かなくなる。

 気付けば牙獣の二匹は私の眼前まで迫っていた。
 片方は酷くちているが、もう片方には生気を感じる。

 だが、そんな事はどうでも良いのだ。
 カタクスは謎の攻撃で死んだ。
 私が動けたとしてあれをかわすことは不可能だろう。

 しかし、冒険者にとって隣り合う者の死は日常だ。
 それに冒険者たる者、黙ってやられるわけにもいかない。

 私は闘争心とうそうしんをむき出しにして斬りかかる。
 狙いは生きている狼の方だ。
 生きているなら痛みでひるむ。その隙をつく!

「なっ…!」
 しかし、私の振るった剣は生きている牙獣には届かなかった。
 朽ちかけていた牙獣がその身をていして相方を守ったからである。

 生気のある牙獣は相方が受けた傷をいたわる様に優しくめる。
 明らかに今までの意思の無い獣とは何かが違った。

 私は恐怖を感じて後退る。
 何かとんでもない事をしてしまったような、そんな感覚だった。

 このまま逃げ切れればと思ったのだが、そうはいかなかった。
 生気のある鋭い目が私をとらえる。

「ひっ!」
 私はその目を直視できず、背を向けて逃げ出した。
 怖い。ただそれだけだった。

 怖い?何が怖いの?

 そんな事を考えながら走る私の背中を途轍とてつもない衝撃が襲った。
 私は吹き飛び、その場にうずくまると、胃の中の物を全て吐き出す。

 痛い。苦しい。怖い。
 …いや、怖いくないだろ?だって私は冒険者だ。
 痛いのだって慣れている。
 立て。立て…立て!

 私は言う事を聞かない体を引きずり、転がって行った剣に手を伸ばす。
 もう少し…。もう少しで…。

 剣に手を伸ばす私の背中に、何かが乗った。
 いや、何かなど分かっている。
 しかし、私は振り向かずにはいられなかった。

 私の背中に前足を乗せた生気のある牙獣はめて!褒めて!と言った風に朽ちかけた牙獣にすり寄っていた。
 その姿が私に擦り寄ってくるコランと重なって…。

 そう思った時、私は恐怖の意味を思い出した。
 …そして動けなくなった。

 カクタスさんはこの二匹を見た時、カーネちゃんの事は頭にないようだった。 
 きっとその方が幸せだったろう。なんせ、自分一人で死ねたのだから。

 そんな馬鹿げたことを考えている私をいさめるように、生気のある牙獣が私のひとみのぞき込んだ。

「い、いや…」

 私はこんな所で死ぬわけにはいかない。
 家に帰って、また皆を困らせたコランを思いっきりしかって、優しいパパにコランをなぐさめて貰う。
 私はその間に美味しいご飯を一杯用意をして、仲直りするのだ。

 明日になったら一緒に冬の準備をして、冬の間は家の中でずっと一緒。
 そしてまた春になる。

 またちょっと大きくなったコランが、春の草原を駆ける。
 そして、彼女は毎年変わらず、私の誕生日に作ってくれる花飾りを今年もプレゼントしてくれるのだ。
 私は「もう、芸がないんだから」と言いながらその花飾りを大切にこっそりと取っておく…。

 もっとみんなと一緒にいたい。あの子の成長を見守りたい。

 だから…。

「お願い…助け」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

楽園の天使

飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。 転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。 何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。 やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。 全14話完結。 よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 おばあちゃんが先日亡くなった。そのおばあちゃんの言いつけで男として過ごしていたリーフは、魔術師の国ラパラル王国の王都グラディナで、男性として魔術師証を取得。金欠でお金に困り、急募・男性の方に飛びついた。  驚く事に雇い主は、リーフが知っている騎士のアージェという男だった!  だが男としての接触だった為、彼は気づかない。そして、引き受けた仕事により、魔獣騒ぎに巻き込まれ――。

処理中です...