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ダメ!それは私の!
第45話 コランと探求心
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私達は今日も薪拾いに来ていた。
リリーちゃんは相変わらず誰に近づく事もないが、毎日欠かさず薪拾いには参加している。
「くらえ!」
「そうはいくか!」
近くでは男の子たちが拾った薪を振るって、剣士ごっこをしている。
「これ食べれるかな…」
「持って帰っておばあちゃんに聞いてみようか」
木のそばでは女の子たちが雨避け草を摘みながら相談をしていた。
普段は入る事の出来ない森に安全に入れる。
それは誰にとっても魅力的だったようで、日に日に参加する子どもたちの数が増えていた。
今となっては村の大半の子どもがこの薪拾いに参加している。
「今日はここまで!」
カクタスさんが傾き始めた日を睨み集合をかける。
その声に剣士ごっこをしていた男の子の片割れが振り向いた。
「隙あり!」
そんな彼の頭を棒で叩くもう一人の男の子。
当然そんな事をされたら相手も黙っているわけがなく…。
「てめぇ!ふざけんなよ!集合掛かってんだろ!」
そんな叫び声と共にやられた男の子もやり返す。
「こんにゃろ!やったな!」
後はもうただの殴り合いである。
泥だらけになって転がる二人を、囃し立てたり、止めに入ろうとしたり、ちょっとしたお祭り騒ぎになった。
「はぁ…」
カクタスさんは溜息と共に、疲れたように頭を押さえる。
連日、やれ迷子だ。やれ喧嘩だ。誰それが怪我をした。
もう、手に負えないと言った具合である。
それでも衛兵長であるカクタスさんがこの場に来ているのはリリーちゃんの為と、後継の指揮官を育てる為であるらしい。
前回、村の代表として外に出なければいけない状況に陥った際に、村を空ける事に危機感を感じたそうなのだ。
前々から後継さんを育てているという話は聞いていた。
カクタスさん曰く、才能はある。との事なのだが、私から見ても頼りない感じがする後継さん。
しかしその後継さん、自分に自信が無い為、カクタスさんが居ると頼りきりになってしまうらしいのだ。
これではいつまで経っても後衛さんが育たないと、カクタスさんは子どもたちの護衛を買って出て、村を程よく空けるようにしたのである。
…そんな話を子どもである私にするほどにカクタスさんは疲れている。
今も喧嘩を止める事を諦めて、丁度良い岩に腰かけてしまった。
私はスッとカクタスさんの隣に座ると、喧嘩の様子を眺める。
如何やら先に殴られた男の子の方が優勢である様だった。
「大変ですね…」
私がカクタスさんに声を掛けると、彼は俯いたまま「あぁ…」と答えた。
「私にもあの元気を少しは分けてもらいたいものだ」
喧嘩をしている少年たちを指しているのか。囃し立てる観衆を指しているのか。
まぁどちらもカクタスさんの元気を奪うばかりで、その願いは叶いそうにないが。
「ウォオオォン!」
私がカクタスさんに慰めの言葉をかけようとしていると、大きな狩人の遠吠えが響いてきた。
私達は驚き、声のした方向を一斉に振り向く。
もう喧嘩は止まっていた。
地面を蹴る音がだんだんと近づいてくる。
皆その音の主に気が付いてはいるのだが、本能的に体が強張ってしまうのだ。
すぐに森の奥で美しい白が光った。
その巨体は重みを感じさせない軽い足取りで、木々の間をすり抜る。
体色も相まって、冬に降り注ぐ絶望の奇跡の様にみえた。
彼らは見惚れる私達の目の前で足を止める。
「皆さん。そろそろ危険な時間帯になります。そう騒いでいると獣が寄ってきますよ」
その背中に当然のように乗っていた少年は皆に注意を促すと、こちらには目もむけず「では私はこれから狩りに向かうので」と言って去って行ってしまった。
その後には彼の色が残る。
…これは彼を知るまたとないチャンスだ。
私はカクタスさんの様子を横目で窺う。
未だに驚いたように硬直する彼。
私は今ならいける!と思った。
私はゆっくりとカクタスさんのそばから離れると色を追って駆け出した。
「すいません!カクタスさん!私、彼を追います!」
そう言い残すとおてんば少女は、またしても森の中に消えて行った。
カクタスさんの大きなため息が森に木霊したのは言うまでもない。
リリーちゃんは相変わらず誰に近づく事もないが、毎日欠かさず薪拾いには参加している。
「くらえ!」
「そうはいくか!」
近くでは男の子たちが拾った薪を振るって、剣士ごっこをしている。
「これ食べれるかな…」
「持って帰っておばあちゃんに聞いてみようか」
木のそばでは女の子たちが雨避け草を摘みながら相談をしていた。
普段は入る事の出来ない森に安全に入れる。
それは誰にとっても魅力的だったようで、日に日に参加する子どもたちの数が増えていた。
今となっては村の大半の子どもがこの薪拾いに参加している。
「今日はここまで!」
カクタスさんが傾き始めた日を睨み集合をかける。
その声に剣士ごっこをしていた男の子の片割れが振り向いた。
「隙あり!」
そんな彼の頭を棒で叩くもう一人の男の子。
当然そんな事をされたら相手も黙っているわけがなく…。
「てめぇ!ふざけんなよ!集合掛かってんだろ!」
そんな叫び声と共にやられた男の子もやり返す。
「こんにゃろ!やったな!」
後はもうただの殴り合いである。
泥だらけになって転がる二人を、囃し立てたり、止めに入ろうとしたり、ちょっとしたお祭り騒ぎになった。
「はぁ…」
カクタスさんは溜息と共に、疲れたように頭を押さえる。
連日、やれ迷子だ。やれ喧嘩だ。誰それが怪我をした。
もう、手に負えないと言った具合である。
それでも衛兵長であるカクタスさんがこの場に来ているのはリリーちゃんの為と、後継の指揮官を育てる為であるらしい。
前回、村の代表として外に出なければいけない状況に陥った際に、村を空ける事に危機感を感じたそうなのだ。
前々から後継さんを育てているという話は聞いていた。
カクタスさん曰く、才能はある。との事なのだが、私から見ても頼りない感じがする後継さん。
しかしその後継さん、自分に自信が無い為、カクタスさんが居ると頼りきりになってしまうらしいのだ。
これではいつまで経っても後衛さんが育たないと、カクタスさんは子どもたちの護衛を買って出て、村を程よく空けるようにしたのである。
…そんな話を子どもである私にするほどにカクタスさんは疲れている。
今も喧嘩を止める事を諦めて、丁度良い岩に腰かけてしまった。
私はスッとカクタスさんの隣に座ると、喧嘩の様子を眺める。
如何やら先に殴られた男の子の方が優勢である様だった。
「大変ですね…」
私がカクタスさんに声を掛けると、彼は俯いたまま「あぁ…」と答えた。
「私にもあの元気を少しは分けてもらいたいものだ」
喧嘩をしている少年たちを指しているのか。囃し立てる観衆を指しているのか。
まぁどちらもカクタスさんの元気を奪うばかりで、その願いは叶いそうにないが。
「ウォオオォン!」
私がカクタスさんに慰めの言葉をかけようとしていると、大きな狩人の遠吠えが響いてきた。
私達は驚き、声のした方向を一斉に振り向く。
もう喧嘩は止まっていた。
地面を蹴る音がだんだんと近づいてくる。
皆その音の主に気が付いてはいるのだが、本能的に体が強張ってしまうのだ。
すぐに森の奥で美しい白が光った。
その巨体は重みを感じさせない軽い足取りで、木々の間をすり抜る。
体色も相まって、冬に降り注ぐ絶望の奇跡の様にみえた。
彼らは見惚れる私達の目の前で足を止める。
「皆さん。そろそろ危険な時間帯になります。そう騒いでいると獣が寄ってきますよ」
その背中に当然のように乗っていた少年は皆に注意を促すと、こちらには目もむけず「では私はこれから狩りに向かうので」と言って去って行ってしまった。
その後には彼の色が残る。
…これは彼を知るまたとないチャンスだ。
私はカクタスさんの様子を横目で窺う。
未だに驚いたように硬直する彼。
私は今ならいける!と思った。
私はゆっくりとカクタスさんのそばから離れると色を追って駆け出した。
「すいません!カクタスさん!私、彼を追います!」
そう言い残すとおてんば少女は、またしても森の中に消えて行った。
カクタスさんの大きなため息が森に木霊したのは言うまでもない。
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