38 / 132
まだなの?
第37話 リリーと優越感
しおりを挟む
目を覚ますと、お姉ちゃんとコランさんに男の子が襲われていた。
見覚えのない男の子は二人に部屋の隅まで追い詰められていた。
その表情は完全に怯えきってしまっていて、立つ力もないのか、しゃがみ込んでいる。
それでも二人に容赦はない。
彼に話しかけながら、ゆっくりと、そのの距離を詰めていく。
その姿はさながら、獲物を追い詰めた獣のようだ。
見ているだけの私でも足がすくむ。
ふと、怯える男の子と目が合った。…多分助けを求められている。
直視できずに目を逸らしたい願望に駆られる。
しかし、何故だか私はその子から目を逸らすことができなかった。
…そういえば初対面の彼を見ても私は全く怖いと感じていない。
それどころかちゃんと目を見る事ができている。
これは初めての事だ。
初めの内は父さんですら怖かった。
家によく遊びに来るコランさんですら怖いし、他の人なんて以ての外。姿を見られることさえ怖いのだ。
誰かが私を見て、私の存在を感じて、私について何かを考えるという事だけで怖い。
しかしこの子からはそのような恐怖を感じない。
それどころか、助けを求める視線を振り払う事が悪い気がして…。
そうだ。私は今までこんな視線を向けられたことはなかった。
私に誰かが助けを求める事なんてなかったのだ。
…お姉ちゃんはいつもこんな気持ちだったのかもしれない。
だったら私も頑張らなくちゃ…。
今のお姉ちゃんはちょっと怖いけど大丈夫。
コランさんも…悪い人ではないはずだ。
今あの子を助けられるのは私だけ。
あの怯える表情を笑顔に変えられるのは私だけなのだ。
そう思うと勇気が湧いてきた。
今まですくんでいた足が嘘のように動く。
そんな私の行動を見た男の子が期待に目を輝かせる。
それだけで私は何でもできるようになった気がした。
「待って。お姉ちゃんたち」
男の子をかばうように手を広げて二人の前に出るとお姉ちゃんが驚いたように目を見開いた。
頑張れば私だってできるんだから!
お姉ちゃんに見せつける様に胸を張る。
そして、怯えていた男の子を安心させるように私は笑顔で振り返った。
男の子はこちらを見ると、安心したような表情で笑みを浮かべた。
その口から「ありがと」と言う言葉を聞いた時にはとても幸せな気持ちになる。
お姉ちゃんはいつもこんな気持ちだったのかな?
…だったらちょっとずるいかも…。
私がしゃがみ込む男の子の頭を撫でると、彼は幸せそうな顔でそれに答えた。
その表情を見ているだけで私はもっと幸せな気分になって…。
姉さんに対する小さな嫉妬など、すぐに忘れる程、世界が幸せでいっぱいになった。
この子は私と同じぐらい年に見える。それでも私より弱いのだ。
それなら私が守ってあげないと!
初めて味わう決意の味はとても甘酸っぱかった。
見覚えのない男の子は二人に部屋の隅まで追い詰められていた。
その表情は完全に怯えきってしまっていて、立つ力もないのか、しゃがみ込んでいる。
それでも二人に容赦はない。
彼に話しかけながら、ゆっくりと、そのの距離を詰めていく。
その姿はさながら、獲物を追い詰めた獣のようだ。
見ているだけの私でも足がすくむ。
ふと、怯える男の子と目が合った。…多分助けを求められている。
直視できずに目を逸らしたい願望に駆られる。
しかし、何故だか私はその子から目を逸らすことができなかった。
…そういえば初対面の彼を見ても私は全く怖いと感じていない。
それどころかちゃんと目を見る事ができている。
これは初めての事だ。
初めの内は父さんですら怖かった。
家によく遊びに来るコランさんですら怖いし、他の人なんて以ての外。姿を見られることさえ怖いのだ。
誰かが私を見て、私の存在を感じて、私について何かを考えるという事だけで怖い。
しかしこの子からはそのような恐怖を感じない。
それどころか、助けを求める視線を振り払う事が悪い気がして…。
そうだ。私は今までこんな視線を向けられたことはなかった。
私に誰かが助けを求める事なんてなかったのだ。
…お姉ちゃんはいつもこんな気持ちだったのかもしれない。
だったら私も頑張らなくちゃ…。
今のお姉ちゃんはちょっと怖いけど大丈夫。
コランさんも…悪い人ではないはずだ。
今あの子を助けられるのは私だけ。
あの怯える表情を笑顔に変えられるのは私だけなのだ。
そう思うと勇気が湧いてきた。
今まですくんでいた足が嘘のように動く。
そんな私の行動を見た男の子が期待に目を輝かせる。
それだけで私は何でもできるようになった気がした。
「待って。お姉ちゃんたち」
男の子をかばうように手を広げて二人の前に出るとお姉ちゃんが驚いたように目を見開いた。
頑張れば私だってできるんだから!
お姉ちゃんに見せつける様に胸を張る。
そして、怯えていた男の子を安心させるように私は笑顔で振り返った。
男の子はこちらを見ると、安心したような表情で笑みを浮かべた。
その口から「ありがと」と言う言葉を聞いた時にはとても幸せな気持ちになる。
お姉ちゃんはいつもこんな気持ちだったのかな?
…だったらちょっとずるいかも…。
私がしゃがみ込む男の子の頭を撫でると、彼は幸せそうな顔でそれに答えた。
その表情を見ているだけで私はもっと幸せな気分になって…。
姉さんに対する小さな嫉妬など、すぐに忘れる程、世界が幸せでいっぱいになった。
この子は私と同じぐらい年に見える。それでも私より弱いのだ。
それなら私が守ってあげないと!
初めて味わう決意の味はとても甘酸っぱかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
楽園の天使
飛永ハヅム
ファンタジー
女の子命で、女の子の笑顔が大好きな男子高校生、大居乱世。
転校初日にして学校中のほとんどの女子生徒と顔見知りになっていた乱世の前に、見たことがないほどの美少女、久由良秋葉が現れる。
何故か周りに人を寄せ付けない秋葉に興味を持った乱世は、強引にアプローチを始める。
やがてそのことをきっかけに、乱世はこの地域で起きているとある事件に巻き込まれていくこととなる。
全14話完結。
よろしければ、お気に入り登録や感想お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる