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まだなの?
第32話 セッタと宝物
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日が暮れても帰ってこないメグルに皆がそわそわしていた。
様子を見に行きたいのも山々だが、村人を怖がらせてしまうからと言う理由で私たちは待ちぼうけを食らっているのだ。
それにメグルは強い。皆もそれは分かっているのだ。
分かってはいるのだが、どうもそわそわしてしまう。
しかし、それもメグルとシバの争う様な荒い魔力の香りを感じ取るまでだった。
魔力が感知できない母さんを抜いて、皆が一様に『またやってるよ…』と言う顔をして落ち着きを取り戻す。
暫くすると、木をなぎ倒すような轟音と共に、森の中からボロボロになった二人が現れる。
互いに息が切れ切れなのにも関わらず、澄ました様な顔で虚勢を張りあう姿は何度見ても面白かった。
「メグル~!」
やっと帰ってきたメグルに飛びつく母さん。
その気持ちは分からなくもないが、そんなに勢いよく左腕を振り回したら…。
メグルは魔導車の運転席上で慌てふためくが、もう何もできない。
一瞬、メグルの助けを求める視線がこちらを向くが、母さんのあの腕に対抗できる術を私は持ち合わせていない。
そっと視線を逸らした瞬間。メグルが悲しそうな顔をした。
私は居た堪れなくなり、そっと目を閉じる。
そして、次に飛び散ってくるであろう魔導車の破片に備え、身を翻した。
兄弟たちも母さんの凶行を目の前にして、各方面に散っていった。
これから母さんのメグル好き好きタイムが始まるので、兄弟たちは暫く戻らないだろう。
鬱陶しいのもあるが、それより何より死んだ目をしたメグルが母さんに愛で続けられる風景を想像してみて欲しい。
逃げ出すのも無理はないだろう。
さて…。久しぶりに一人になった。
こうして夜の森を目的もなく歩くのは何年ぶりだろうか。
不意に夜空を見上げてみれば、木の葉の隙間から眩しい程の月の光が零れていた。
少し意識を向けてみれば木の葉を揺らす風の音が通り抜け、冬を前にした虫たちが最後の音色を奏でている。
こんなにも安らかな気分で森を歩けるようになった自分に少し驚く。
森は狩りの場で狩られる場所。
いつでも気を張って歩くのが普通だった。
メグルが来る前もそうしていたし、その後だって同じだったはずだ。
…いや、正直最近は騒がしくてそれどころではなかったかも知れない。
家でも外でもメグルを中心に皆がバタバタとしていて…。
森の中でも警戒心を忘れる程に、心が忙《いそが》しかったのだ。
それにメグルが教えてくれた魔術によってそこまで気を張らなくとも、危険な生物は容易に検知できるようになったことも大きい。
と言うより、そもそも魔法での自己強化で敵になる相手が完全にいなくなった為、警戒に意識を割く必要がなくなったのだ。
今ならすぐそばの茂みから大喰らいが飛びついて来ても対処できる自信がある。
昔の私にこれだけの力があれば…と思う。
そうすれば他の兄弟達も…。
そういえばあの日、シバが突然持ち去った魔力の籠った武器。
あの武器に染み付いた匂いには嗅ぎ覚えがあった。
私が気付くのだからシバが気付かないはずはない。
…シバはどうするつもりなのだろうか。―― 私はどうしたいのか…。
目を瞑ると今までの日々が脳裏に蘇る。
辛い記憶、悔しい記憶、悲しい記憶。そして、最後にはみんなと気持ちよく日向ぼっこをしている記憶だった。
唯一、眠気と戦って、凛とした姿勢を崩そうとしないステリアが可愛らしかったのを覚えている。
顔を下に向ければメグルと母さんが気持ちよさそうに私を枕にして寝ていた。
今は…今はまだ…。もう少しだけ。
私は甘い記憶を宝物のようにしまい込むと、今日も答えを保留した。
様子を見に行きたいのも山々だが、村人を怖がらせてしまうからと言う理由で私たちは待ちぼうけを食らっているのだ。
それにメグルは強い。皆もそれは分かっているのだ。
分かってはいるのだが、どうもそわそわしてしまう。
しかし、それもメグルとシバの争う様な荒い魔力の香りを感じ取るまでだった。
魔力が感知できない母さんを抜いて、皆が一様に『またやってるよ…』と言う顔をして落ち着きを取り戻す。
暫くすると、木をなぎ倒すような轟音と共に、森の中からボロボロになった二人が現れる。
互いに息が切れ切れなのにも関わらず、澄ました様な顔で虚勢を張りあう姿は何度見ても面白かった。
「メグル~!」
やっと帰ってきたメグルに飛びつく母さん。
その気持ちは分からなくもないが、そんなに勢いよく左腕を振り回したら…。
メグルは魔導車の運転席上で慌てふためくが、もう何もできない。
一瞬、メグルの助けを求める視線がこちらを向くが、母さんのあの腕に対抗できる術を私は持ち合わせていない。
そっと視線を逸らした瞬間。メグルが悲しそうな顔をした。
私は居た堪れなくなり、そっと目を閉じる。
そして、次に飛び散ってくるであろう魔導車の破片に備え、身を翻した。
兄弟たちも母さんの凶行を目の前にして、各方面に散っていった。
これから母さんのメグル好き好きタイムが始まるので、兄弟たちは暫く戻らないだろう。
鬱陶しいのもあるが、それより何より死んだ目をしたメグルが母さんに愛で続けられる風景を想像してみて欲しい。
逃げ出すのも無理はないだろう。
さて…。久しぶりに一人になった。
こうして夜の森を目的もなく歩くのは何年ぶりだろうか。
不意に夜空を見上げてみれば、木の葉の隙間から眩しい程の月の光が零れていた。
少し意識を向けてみれば木の葉を揺らす風の音が通り抜け、冬を前にした虫たちが最後の音色を奏でている。
こんなにも安らかな気分で森を歩けるようになった自分に少し驚く。
森は狩りの場で狩られる場所。
いつでも気を張って歩くのが普通だった。
メグルが来る前もそうしていたし、その後だって同じだったはずだ。
…いや、正直最近は騒がしくてそれどころではなかったかも知れない。
家でも外でもメグルを中心に皆がバタバタとしていて…。
森の中でも警戒心を忘れる程に、心が忙《いそが》しかったのだ。
それにメグルが教えてくれた魔術によってそこまで気を張らなくとも、危険な生物は容易に検知できるようになったことも大きい。
と言うより、そもそも魔法での自己強化で敵になる相手が完全にいなくなった為、警戒に意識を割く必要がなくなったのだ。
今ならすぐそばの茂みから大喰らいが飛びついて来ても対処できる自信がある。
昔の私にこれだけの力があれば…と思う。
そうすれば他の兄弟達も…。
そういえばあの日、シバが突然持ち去った魔力の籠った武器。
あの武器に染み付いた匂いには嗅ぎ覚えがあった。
私が気付くのだからシバが気付かないはずはない。
…シバはどうするつもりなのだろうか。―― 私はどうしたいのか…。
目を瞑ると今までの日々が脳裏に蘇る。
辛い記憶、悔しい記憶、悲しい記憶。そして、最後にはみんなと気持ちよく日向ぼっこをしている記憶だった。
唯一、眠気と戦って、凛とした姿勢を崩そうとしないステリアが可愛らしかったのを覚えている。
顔を下に向ければメグルと母さんが気持ちよさそうに私を枕にして寝ていた。
今は…今はまだ…。もう少しだけ。
私は甘い記憶を宝物のようにしまい込むと、今日も答えを保留した。
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