Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
33 / 132
まだなの?

第32話 セッタと宝物

しおりを挟む
 日が暮れても帰ってこないメグルに皆がそわそわしていた。

 様子を見に行きたいのも山々だが、村人を怖がらせてしまうからと言う理由で私たちは待ちぼうけを食らっているのだ。

 それにメグルは強い。皆もそれは分かっているのだ。
 分かってはいるのだが、どうもそわそわしてしまう。

 しかし、それもメグルとシバの争う様なあらい魔力の香りを感じ取るまでだった。

 魔力が感知できない母さんを抜いて、皆が一様に『またやってるよ…』と言う顔をして落ち着きを取り戻す。

 しばらくすると、木をなぎ倒すような轟音ごうおんと共に、森の中からボロボロになった二人が現れる。

 互いに息が切れ切れなのにも関わらず、澄ました様な顔で虚勢を張りあう姿は何度見ても面白かった。

「メグル~!」

 やっと帰ってきたメグルに飛びつく母さん。
 その気持ちは分からなくもないが、そんなに勢いよく左腕を振り回したら…。

 メグルは魔導車の運転席上うんてんせきじょうあわてふためくが、もう何もできない。

 一瞬、メグルの助けを求める視線がこちらを向くが、母さんのあの腕に対抗できるすべを私は持ち合わせていない。

 そっと視線を逸らした瞬間。メグルが悲しそうな顔をした。
 私は居たたまれなくなり、そっと目を閉じる。

 そして、次に飛び散ってくるであろう魔導車の破片にそなえ、身をひるがえした。

 兄弟たちも母さんの凶行きょうこうを目の前にして、各方面に散っていった。

 これから母さんのメグル好き好きタイムが始まるので、兄弟たちは暫く戻らないだろう。

 鬱陶うっとうしいのもあるが、それより何より死んだ目をしたメグルが母さんにで続けられる風景を想像してみて欲しい。
 逃げ出すのも無理はないだろう。

 さて…。久しぶりに一人になった。
 こうして夜の森を目的もなく歩くのは何年ぶりだろうか。

 不意に夜空を見上げてみれば、木の葉の隙間から眩しい程の月の光が零れていた。

 少し意識を向けてみれば木の葉を揺らす風の音が通り抜け、冬を前にした虫たちが最後の音色をかなでている。

 こんなにも安らかな気分で森を歩けるようになった自分に少し驚く。

 森は狩りの場で狩られる場所。
 いつでも気を張って歩くのが普通だった。

 メグルが来る前もそうしていたし、その後だって同じだったはずだ。

 …いや、正直最近は騒がしくてそれどころではなかったかも知れない。
 家でも外でもメグルを中心に皆がバタバタとしていて…。
 森の中でも警戒心を忘れる程に、心が忙《いそが》しかったのだ。

 それにメグルが教えてくれた魔術によってそこまで気を張らなくとも、危険な生物は容易に検知できるようになったことも大きい。

 と言うより、そもそも魔法での自己強化で敵になる相手が完全にいなくなった為、警戒に意識を割く必要がなくなったのだ。
 今ならすぐそばのしげみから大喰らいが飛びついて来ても対処できる自信がある。

 昔の私にこれだけの力があれば…と思う。
 そうすれば他の兄弟達も…。

 そういえばあの日、シバが突然持ち去った魔力のこもった武器。
 あの武器に染み付いた匂いには嗅ぎ覚えがあった。
 私が気付くのだからシバが気付かないはずはない。

 …シバはどうするつもりなのだろうか。―― 私はどうしたいのか…。

 目をつむると今までの日々が脳裏によみがえる。
 辛い記憶、悔しい記憶、悲しい記憶。そして、最後にはみんなと気持ちよく日向ぼっこをしている記憶だった。

 唯一、眠気と戦って、りんとした姿勢を崩そうとしないステリアが可愛らしかったのを覚えている。
 顔を下に向ければメグルと母さんが気持ちよさそうに私をまくらにして寝ていた。

 今は…今はまだ…。もう少しだけ。

 私は甘い記憶を宝物のようにしまい込むと、今日も答えを保留した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏
恋愛
  「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」  双子の妹のステラリアはそう言った。  幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。  なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、 「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」  なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。 ※この作品は他サイトにも掲載されています。

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

処理中です...