Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
29 / 132
まだなの?

第28話 セッタと家族

しおりを挟む
 …メグルの母さん大好き病が悪化した。

 初めて夜の散歩に連れて行った後にも酷くなった事があった。
 しかし、それよりも母さんの過保護にみがきがかかった為、それほど気にならなかったのだ。

 現在メグルは母さんの膝の上で楽しそうに話をしている。
 それ自体はいつも通りの光景なのだが、今回はメグル自ら母さんに甘えに行ったのだ。

 今までは母さんから近寄るばかりでメグルから行くことはなかった。
 までメグルは受け入れるだけだったのである。

 それだけではない、メグルが家族みんなに自らにスキンシップをとるようになってきたのだ。

 今までの他人行儀な雰囲気は薄れ、私にもちょっかいを出してきたりする。
 そのくせ、毎回怒られないか心配そうにこちらを見つめる目は…とても可愛い。

 メグルの変化にハウンドとレトは戸惑っているようだが、他の者にはおおむね好評だった。

 いつもツンツンしているステリアもメグルの前では陥落かんらくしたらしい。

 この前、機嫌がよさそうなステリアに、甘噛みをされながら、楽しそうに転げまわるメグルを見たときは大層驚いたものである。

 大層驚いたと言えば、シバの事だ。
 実はメグルと前から仲が良かったらしく、甘えるメグルに対して慣れたように接していた。

 たまに昼間シバの匂いをつけて帰ってくるメグルの事は知っていたが、そんなに仲が良かったとは…。姉として負けた気分である。

「はい。あーんして」

 母さんが匙で木の実のスープをメグルの口に運んでいる。

「そ、それは流石に恥ずかしいよ!…か、かぁ…」

 頬を赤く染め、言葉をのどにまらせたように小さな声でつぶやくメグル。

「何々?よく聞こえないわ。もっと大きな声で言ってくれないと、スープ全部食べさせてあげちゃうわよ?」

 母さんがメグルをいじって遊んでいる。

 メグルは村から帰ってきたあの日から母さんを”マロウさん”ではなく”母さん”と呼ぶようになったのだ。

 最初に聞いたときは聞き間違いかと思った。
 当の母さんがきょとんとした顔でメグルを見つめていたのだから、皆の驚きはそれ以上だっただろう。

 そして静まり返った空間で、顔を真っ赤にしたメグルが二度目の「母さん」を口に出した時、母さんはメグルを抱きしめて泣きながら喜んだ。
 …私も少し胸がキュンとした。

 コッカーとビーグは鈍感どんかんというか、興味がないというか…。
 相変わらずだが、メグルが一緒に遊んでくれるようになり、その変化には喜んでいるようだった。

 そんなみんなの人気者だが、夜には魔法使いに大変身。
 私抜きで戦うと兄弟たち全員でもてこずる大喰らいを一人で倒してしまえるのだから、その戦闘力は私と並んで兄弟一、二を争うだろう。

 そして何より皆をきつけて止まないのが、メグルの上質な魔力を練って作られる肉団子。
 あれを独り占めしているとばれたとき、皆のからの重圧じゅうあつ途轍とてつもなかった。

 正直、兄弟から獣に戻った気分で、いつ寝首をかかれるかドキドキしていた。

 昼間のメグルもどんどんと進化している。

 人間の料理は次々と種類が増えていき、味にもこだわっているようだった。

 家の中も地面がむき出しの洞窟から、木の板が張られた家へと変貌へんぼうしている。

 家具も今までの倍以上に増えており、母さんが作った傑作達けっさくたちは母さんみずからの手によって、メグルが寝ている間にほうむり去られた。

 メグルは母さんの作ったものが好きらしいが、母さんが恥ずかしがって壊してしまうのである。

 全て今までになかった刺激だ。
 確かにメグルが来る前もみんな楽しくはやっていた。
 しかしこうも生き生きとした雰囲気はなかっただろう。

 今日も私たちは楽しく生きている。
 今ならこの世を去っていった兄弟たちに胸を張って言えるだろう。

「…どうしたの姉さん?」

 いつの間にかそばに来ていたメグルは心配そうに私の顔をのぞんだ。

 やつめ!
 私が彼の顔を舐めると、くすぐったそうに笑った後、嬉しそうに逃げて行った。

 皆、私は今日も幸せだぞ。

 私は腰を上げるとゆっくりとメグルの後を追って歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

処理中です...