Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
28 / 132
まだなの?

第27話 ミランと交渉

しおりを挟む
 仮面の少年は私が落ち着いたのを確認すると、主の毛をまさぐり、中からコランを引きずり出した。

 少年は「おらよっ」と掛け声をかけ、コランを背負うと、見せつけるように「どうだ?」と聞いてきた。

「確かに…私達が探していた村人です」

 私は堂々と返事を返す。
 娘が生きていたことは今すぐ飛びつきたいぐらいに嬉しい。助けてもらった彼にも感謝している。
 
 しかし元貴族で元冒険者の私だ。この手合てあいが厄介やっかいなこともわかっていた。だから”娘”ではなく”村人”と答えたのだ。
 相手の交渉価値を下げるために。

「クックック。そうかそうか…それじゃあ」

 思った通り相手は交渉に入るようだった。
 顔は見えないが、さぞかし良い拾い物をしたという顔をしているだろう。

「取引ですか?」

 相手にペースを作らせないように言葉をはさんで崩していく。
 相手側にコランという私に対して最強の切り札がある以上、ペースを作られれば私はうなずき飲み込まれるしかない。
 …それこそ村を裏切るような内容であってもだ。

 もし相手に私が感じるコランの価値がばれたら終わりだ。
 それはコランの命をおびやかす事の次に、避けなければならない。
 私は内心、冷や汗が止まらなかった。

「あぁ、話が早くて助かるぜ。こちとら無駄な駆け引きっていうのは苦手でよ…」

 そういうと少年は茶色い骨のようなものを取り出した。

 …いや、違う。あれは斧角おのづのの角を加工したものだ。
 その切れ味があれば娘の首など一瞬で切り落とせるだろう。

「・・・分かりました。私のできる範囲であれば何でも言うことを聞きましょう。その代わりその子には手を出さないでください」

 完全に完敗だった。
 娘と聞いて先に動揺してしまった時点で私の負けだったのだろう。

 此処で下手に抵抗をすればコランが傷つく。
 私は両手をあげ、降参のしめした。

 それを見た少年は刃物をしまうとこちらに近づいてくる。

「・・・すまない。少しやりすぎた。悪かったよ。そこまで過度な要求をするつもりはない。これはお詫《わ》びの証だ」

 そういうと、少年は交渉材料である娘をやすやすと渡してきた。


 背景に森の主がいる以上、いう事を聞かざるを得ない事にかわりはないが、少なくとも今は娘が返ってきた。
 それだけで十分だった。

「それで要求の事なんだが…」

 娘を受け取り、私がしっかりと抱きかかえるのを見届けてから、彼は声を掛けてきた。
 そんな彼には先ほどまでの覇気はきはなく、少し寂しそうな雰囲気をまとっていた。

「これから森で取れた食料を持ってくる。そちらも冬に向けて食料を蓄えるだろうからいくらあっても足りないだろう?必要な分だけで良いから買い取ってほしいんだ。見ての通りこちらには服や道具等が不足していてね。冬になる前に準備しておきたいのさ」

 このままでは大切な金蔓かねづるが冬を越せずに死んでしまうからね。と冗談半分で笑う少年には、先ほどまでと違って裏はないように思えた。

「…それだけ、ですか?」

 あまりに簡単な要求。
 と言うよりはこちらからお願いしたいようなことを言い始めた彼。
 そんな言葉にさぐりを入れるわけでもなく、私の口から純粋に出た言葉がそれだった。

「あぁ、それだけだよ。それだけ黒髪と孤児と言う肩書は重いのさ。僕も今の主がいなければ死んでいただろうしね…」

 少年がどこか遠くを見て答えた。今の主を思っているのか、過去の自分を振り返っているのか。
 少なくともこの年齢に釣り合わない人格ができるほどには過酷な人生だったのだろう。

 そんなものは私にも想像ができない。
 コランと同い年ほどの人間がこうなってしまうほどの人生など、想像したくもなかった。

「四日後…。四日後の天日てんびの刻に食糧を持ってまた村に来てください。それまでには準備を済ませておきます」

 あと三日ほどで夫たちが帰ってくる。
 それまでに根回しをしておいて、帰ってきた人たちには話をするだけで大丈夫な状況にしておこう。

「それで恩返しになりますか?」

 そう、これはあくまで恩返しだ。
 娘を助けてもらったお礼。決して脅されたからじゃない。

 少年は「それで充分ですよ」と優しく答えると、森の主の下に向かった。

「僕の名前は…モネ。モネでお願いします。あなたは?」

 彼は森の主をいとおしそうに撫でながら名前を聞いてくる。

「私の名前はミラン・バインです。そしてこの子の…娘の名前はコラン。今日は娘を助けて頂き有難うございました」

 私が深々とお辞儀じぎをすると、少年が「いえいえ」と優しく返してくれる。

 少年は私が頭をあげるのを見届けると、森の主に跨る。
 そして最後にこちらを向き「これからも娘さんを大切に」と言い残すと、風のように去っていった。

 私は何とも言えない気持ちになってその場に立ち尽くす。あの少年の事を想うととても胸が痛むのだ。

「クチュン!」

 眠っている娘が小さくくしゃみをした。
 もう夜も寒くなってきたので無理もないだろう。

 私は泥だらけになった娘を抱きしめると、家に向かって歩き出した。

 今はただ、娘が返ってきた喜びだけをみしめて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

庭園の国の召喚師

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 おばあちゃんが先日亡くなった。そのおばあちゃんの言いつけで男として過ごしていたリーフは、魔術師の国ラパラル王国の王都グラディナで、男性として魔術師証を取得。金欠でお金に困り、急募・男性の方に飛びついた。  驚く事に雇い主は、リーフが知っている騎士のアージェという男だった!  だが男としての接触だった為、彼は気づかない。そして、引き受けた仕事により、魔獣騒ぎに巻き込まれ――。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

スキル「超能力」を得て異世界生活を楽しむ

黒霧
ファンタジー
交通事故で死んでしまった主人公。しかし女神様の導きにより、異世界に貴族として転生した。なぜか前世の記憶を持って。そこで超能力というスキルを得て、異世界生活を楽しむ事にする。 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...