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まだなの?
第26話 ミランと少年
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私は白い影を遠くに見たとき、恐怖のあまり私が作りだした幻影かと思っていた。
しかし、その影が近づいてくるにつれ、それが現実であることに気づく。
私はその白い巨体の正体が、森の主だと理解してしまった時、恐怖で体が硬直してしまった。
何故森の主がこんな村近くまで下りてきているのだろうか。
焦りからそんなどうでも良い事を考えてしまう。
そう、そんな事はどうでも良いのだ。
何故なら主が森を出て村に来た。その事実だけで、村を放棄するに値する大事件なのだから。
その理由など些細なものでしかない。
そうだとしても、あんまりではないだろうか。
娘がいなくなったと同時にこんな怪物が現れるなんて。
…いや、娘の振るった力があの化け物を刺激したのかもしれない。
となればもう娘は…。
そう考えた瞬間、私の中で何かが切れた気がした。
目の前の化け物から感じるものよりも強い恐怖。
その恐怖が私の心を侵食していく。
「うわぁあああああああああああ!!」
感情のまま叫び声をあげると、恐怖で震えていた体は簡単に動いた。
両手に握ったクワを引き下げ、自ら主に向かって駆けていく。
この行動にどれだけの意味があるのかわからない。
正しいのかすら意識の外だった。
私を間近にしても気にした様子のない主。
取るに足らないといった態度で頭だけを持ち上げると、私が渾身の力を込めて振り下ろしたクワを咥えるような、ゆっくりとした動きでへし折った。
圧倒的な力の差だった。
分かってはいたが、こうも簡単にあしらわれてしまうと、もう成す術はなかった。
「おいおいおい。俺の相棒になんてことするんだ。毛一本傷つけようものならお前らの村一つでけじめをつけさせてもらうところだったぜ」
突然聞こえてきた声は森の主から聞こえてきた気がした。
しかし、そこに人の姿はない。
辺りを見回してみるが、どこを探してもその姿は見受けられなかった。
「おっと、悪い悪い。此処だよ此処」
声の方向を改めて向くと主の毛が蠢いていることに気が付いた。
そしてそこから何かが飛び降りる。
警戒して一歩引く。
しかし、その正体は仮面をつけ、動物の皮を身にまとった子どもだった。
「みすぼらしい姿で悪いな。いまは物好きな貴族さんの相手をしてんだ。なんでも世継ぎになる奴はその身一つと投げ出されて、自身で選んだ付き人と二年間生き延びなきゃならないって家訓があるらしくてよ。俺はその貴族様に雇われた付き人さ。面倒だよなぁ。まぁ俺はその面倒のおかげでこうやって貴族様の下で働けているわけだがな。クククッ」
仮面によってその表情を覗き見ることはできないが、子どもとは思えない言動に黒い髪、そして主を従えるほどの存在。
なるほど確かにこういういった奇怪なモノが好きな貴族は多い。
彼はそのお眼鏡にかなったと言う訳だ。
「まぁそんなことはどうでも良いんだ。お前、この娘に見覚えはないか?」
「娘?!」
その単語だけで私は飛びついてしまいそうになる。
しかし、仮面の少年に「おおっと、落ち着けよ。俺は臆病なんだ。急に動かれると手が滑っちまう」と窘《たしな》められ、その場に踏みとどまる。
どこまでもおどけた態度の少年に、ペースを乱されてしまった。
これではいけない。私は息を整えるとスイッチを切り替える。戦いはすでに始まっていた。
しかし、その影が近づいてくるにつれ、それが現実であることに気づく。
私はその白い巨体の正体が、森の主だと理解してしまった時、恐怖で体が硬直してしまった。
何故森の主がこんな村近くまで下りてきているのだろうか。
焦りからそんなどうでも良い事を考えてしまう。
そう、そんな事はどうでも良いのだ。
何故なら主が森を出て村に来た。その事実だけで、村を放棄するに値する大事件なのだから。
その理由など些細なものでしかない。
そうだとしても、あんまりではないだろうか。
娘がいなくなったと同時にこんな怪物が現れるなんて。
…いや、娘の振るった力があの化け物を刺激したのかもしれない。
となればもう娘は…。
そう考えた瞬間、私の中で何かが切れた気がした。
目の前の化け物から感じるものよりも強い恐怖。
その恐怖が私の心を侵食していく。
「うわぁあああああああああああ!!」
感情のまま叫び声をあげると、恐怖で震えていた体は簡単に動いた。
両手に握ったクワを引き下げ、自ら主に向かって駆けていく。
この行動にどれだけの意味があるのかわからない。
正しいのかすら意識の外だった。
私を間近にしても気にした様子のない主。
取るに足らないといった態度で頭だけを持ち上げると、私が渾身の力を込めて振り下ろしたクワを咥えるような、ゆっくりとした動きでへし折った。
圧倒的な力の差だった。
分かってはいたが、こうも簡単にあしらわれてしまうと、もう成す術はなかった。
「おいおいおい。俺の相棒になんてことするんだ。毛一本傷つけようものならお前らの村一つでけじめをつけさせてもらうところだったぜ」
突然聞こえてきた声は森の主から聞こえてきた気がした。
しかし、そこに人の姿はない。
辺りを見回してみるが、どこを探してもその姿は見受けられなかった。
「おっと、悪い悪い。此処だよ此処」
声の方向を改めて向くと主の毛が蠢いていることに気が付いた。
そしてそこから何かが飛び降りる。
警戒して一歩引く。
しかし、その正体は仮面をつけ、動物の皮を身にまとった子どもだった。
「みすぼらしい姿で悪いな。いまは物好きな貴族さんの相手をしてんだ。なんでも世継ぎになる奴はその身一つと投げ出されて、自身で選んだ付き人と二年間生き延びなきゃならないって家訓があるらしくてよ。俺はその貴族様に雇われた付き人さ。面倒だよなぁ。まぁ俺はその面倒のおかげでこうやって貴族様の下で働けているわけだがな。クククッ」
仮面によってその表情を覗き見ることはできないが、子どもとは思えない言動に黒い髪、そして主を従えるほどの存在。
なるほど確かにこういういった奇怪なモノが好きな貴族は多い。
彼はそのお眼鏡にかなったと言う訳だ。
「まぁそんなことはどうでも良いんだ。お前、この娘に見覚えはないか?」
「娘?!」
その単語だけで私は飛びついてしまいそうになる。
しかし、仮面の少年に「おおっと、落ち着けよ。俺は臆病なんだ。急に動かれると手が滑っちまう」と窘《たしな》められ、その場に踏みとどまる。
どこまでもおどけた態度の少年に、ペースを乱されてしまった。
これではいけない。私は息を整えるとスイッチを切り替える。戦いはすでに始まっていた。
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