Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
27 / 132
まだなの?

第26話 ミランと少年

しおりを挟む
 私は白い影を遠くに見たとき、恐怖のあまり私が作りだした幻影かと思っていた。

 しかし、その影が近づいてくるにつれ、それが現実であることに気づく。


 私はその白い巨体の正体が、森の主だと理解してしまった時、恐怖で体が硬直してしまった。

 何故森の主がこんな村近くまで下りてきているのだろうか。
 焦りからそんなどうでも良い事を考えてしまう。

 そう、そんな事はどうでも良いのだ。
 何故なら主が森を出て村に来た。その事実だけで、村を放棄ほうきするにあたいする大事件なのだから。
 その理由など些細ささいなものでしかない。

 そうだとしても、あんまりではないだろうか。
 娘がいなくなったと同時にこんな怪物が現れるなんて。

 …いや、娘の振るった力があの化け物を刺激したのかもしれない。
 となればもう娘は…。

 そう考えた瞬間、私の中で何かが切れた気がした。
 目の前の化け物から感じるものよりも強い恐怖。
 その恐怖が私の心を侵食しんしょくしていく。

「うわぁあああああああああああ!!」

 感情のまま叫び声をあげると、恐怖で震えていた体は簡単に動いた。

 両手に握ったクワを引き下げ、自ら主に向かって駆けていく。

 この行動にどれだけの意味があるのかわからない。
 正しいのかすら意識の外だった。

 私を間近にしても気にした様子のない主。

 取るに足らないといった態度で頭だけを持ち上げると、私が渾身の力を込めて振り下ろしたクワを咥えるような、ゆっくりとした動きでへし折った。

 圧倒的な力の差だった。
 分かってはいたが、こうも簡単にあしらわれてしまうと、もう成す術はなかった。

「おいおいおい。俺の相棒になんてことするんだ。毛一本傷つけようものならお前らの村一つでけじめをつけさせてもらうところだったぜ」

 突然聞こえてきた声は森の主から聞こえてきた気がした。
 しかし、そこに人の姿はない。

 辺りを見回してみるが、どこを探してもその姿は見受けられなかった。

「おっと、悪い悪い。此処ここだよ此処」

 声の方向を改めて向くと主の毛がうごめいていることに気が付いた。
 そしてそこから何かが飛び降りる。

 警戒して一歩引く。
 しかし、その正体は仮面をつけ、動物の皮を身にまとった子どもだった。

「みすぼらしい姿で悪いな。いまは物好きな貴族さんの相手をしてんだ。なんでも世継ぎになる奴はその身一つと投げ出されて、自身で選んだ付き人と二年間生き延びなきゃならないって家訓があるらしくてよ。俺はその貴族様に雇われた付き人さ。面倒だよなぁ。まぁ俺はその面倒のおかげでこうやって貴族様の下で働けているわけだがな。クククッ」

 仮面によってその表情を覗き見ることはできないが、子どもとは思えない言動に黒い髪、そして主を従えるほどの存在。

 なるほど確かにこういういった奇怪なモノが好きな貴族は多い。
 彼はそのお眼鏡にかなったと言う訳だ。

「まぁそんなことはどうでも良いんだ。お前、この娘に見覚えはないか?」

「娘?!」

 その単語だけで私は飛びついてしまいそうになる。
 しかし、仮面の少年に「おおっと、落ち着けよ。俺は臆病なんだ。急に動かれると手が滑っちまう」と窘《たしな》められ、その場に踏みとどまる。

 どこまでもおどけた態度の少年に、ペースを乱されてしまった。

 これではいけない。私は息を整えるとスイッチを切り替える。戦いはすでに始まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界大使館はじめます

あかべこ
ファンタジー
外務省の窓際官僚・真柴春彦は異世界に新たに作られる大使館の全権特任大使に任命されることになるが、同じように派遣されることになった自衛官の木栖は高校時代からの因縁の相手だった。同じように訳ありな仲間たちと異世界での外交活動を開始するが異世界では「外交騎士とは夫婦でなるもの」という暗黙の了解があったため真柴と木栖が同性の夫婦と勘違いされてしまい、とりあえずそれで通すことになり……?! チート・俺TUEEE成分なし。異性愛や男性同士や女性同士の恋愛、獣人と人間の恋愛アリ。 不定期更新。表紙はかんたん表紙メーカーで作りました。 作中の法律や料理についての知識は、素人が書いてるので生ぬるく読んでください。 カクヨム版ありますhttps://kakuyomu.jp/works/16817330651028845416 一緒に読むと楽しいスピンオフhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/633604170 同一世界線のはなしhttps://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/905818730 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2146286/687883567

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...