Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
上 下
25 / 132
まだなの?

第24話 ミランと愛

しおりを挟む
 私は初め村の人からカーネちゃんと娘が遊んでいたとの話を聞いてここまで来た。

 しかしカーネちゃんは本当に娘と遊んでいただけのようで「昼間遊んでいるときに森に行こうと誘われた」と聞いた時には頭が真っ白になった。

 遊んだ後は家の畑にある納屋の前で解散した為、その後の事は知らないのだと言う。

 カーネちゃんが「私も一緒に探しましょうか?」と言ってくれたが、それは流石に頼めないと断って、急いで納屋に向かった。

「…ない」

 案の定。手入れをして立て掛けて置いたはずの薙刀がそこにはなかった。

 娘にあの薙刀が使えるとは思えない。
 が、万が一にも私の娘だ、あの力を目覚めさせてしまったら制御できるわけがない。

 あの薙刀は遺物なのだ。
 遠い昔に名工が作り、世界各地にばら撒いたとされるうちの一本。
 元貴族の娘だった私が家から奪って逃げだした名刀で、私の相棒だった。

 一般の人間が持てば美しく、切れ味が良いだけのただの薙刀。

 しかし持つ人が持てばその気力と引き換えに感覚をまし、身体能力を向上させ、切れ味さえも数段上げる。
 原理すらも分かっていない遺物なのだ。

 ただそれは制御できていればの事。
 そうでなければ唯々、気力を吸い上げられ、意識を失ってしまう。
 この場で娘が意識を失っていればと思ったのだが、この様子だと中途半端にあつかえてしまったらしい。

 だが訓練もしていない娘だ。
 いくらすじが良くても、薙刀を使えばもう既に動けなくなっている可能性が高い。

 夜の森で動けなくなったら…。それは死を意味するだろう。
 いや、動けていたとしても生きている保証はない。

 でなければ当の昔に私が森で食料を調達していただろう。
 それほど今の森は危険なのだ。

 私は納屋を出ると森に向かって駆け出した。

 皆に助けは求められない。
 もし手伝ってくれる人がいても無駄な死人を増やすだけだ。

 こんなことを言ってはいけないのだろうが、正直娘が生きている可能性は限りなく低い。
 冒険者をしていた私のかんに狂いがないのは、私がここまで生き延びてきた事で証明できるだろう。

 それでも足が止まらないのはきっと愛だ。

 愛を知った冒険者は使い物にならなくなる。
 そう言っていた元冒険者がいた。

 あぁ、確かに使い物にならない。
 それを薄々気が付いていたが為に、私たちも冒険者を辞めた訳だが。

 しかし、こうも非合理的な行動をとるとは。
 こんな様子の私を見たら、冒険者の頃の自分は笑い転げるだろう。

 それでも私は行かなければいけない。
 そうしなければきっと私の心は死んでしまうから。
 そう、これは娘の為じゃない。自分の為なのだ。

 私は自己満足の快楽かいらくに酔いしれて、心の底から娘の無事をいのった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

弱小デイトレーダーが異世界に来たら、いきなりチート投資家になったのです。

comsick
ファンタジー
フルダイブ型VR✕異世界転生✕お仕事・ビジネス系=全乗っけ型小説。 ★電脳空間に飛び込んだ弱小デイトレーダーによる、現在ファンタジー ★企業分析が得意なエルフ。 ★ハイファンタジー?剣と魔法?株式投資?マネタイズ? ★幻想的な世界観と、ただのリアル。 投資のことを全く知らなくても楽しめます。でもって、ちょっとだけ投資の勉強にもなったりします。。。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。
ファンタジー
悪役令嬢? なにそれ。 乙女ゲーム? 知らない。 そんな元社会人ゲーマー転生者が、空気読まずに悪役令嬢にベタぼれして、婚約破棄された悪役令嬢に求婚して、乙女ゲーム展開とは全く関係なく悪役令嬢と結婚して幸せになる予定です。 一部に流血描写、微グロあり。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

悪役転生の後日談~破滅ルートを回避したのに、何故か平穏が訪れません~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、王太子であるアルス-アスカロンは記憶を取り戻す。 それは自分がゲームのキャラクターである悪役だということに。 気づいた時にはすでに物語は進行していたので、慌てて回避ルートを目指す。 そして、無事に回避できて望み通りに追放されたが……そこは山賊が跋扈する予想以上に荒れ果てた土地だった。 このままではスローライフができないと思い、アルスは己の平穏(スローライフ)を邪魔する者を排除するのだった。 これは自分が好き勝手にやってたら、いつの間か周りに勘違いされて信者を増やしてしまう男の物語である。

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
【連載再開】  長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^) ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢  宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...